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 検索データを振り返ると、人々のニーズをたどることができる――。熊本地震の直後、生活インフラに関する言葉がどう検索されていたのか、熊本県庁で被災者支援に当たっていた木村敬・前総務部長(42)に、当時を思い出しながらデータを見てもらった。人々のニーズの変化に、行政は応えられていたのか。

 木村さんは、4月14日のいわゆる「前震」から4月末まで、災害対策本部の中枢にいた。現在は、総務省公営企業課理事官を務める。

 木村さんに、被災地でのヤフーの検索データを見てもらった。抽出した語句は、地震直後の住民にとって極めて重要だった「コンビニ」「ガス」「水道」の3語。

食料が届き、検索数が落ちる

 【セブンイレブン】

 最初は、コンビニのデータ。地震前の4月8日から4月30日まで、コンビニの中で最も多く検索された「セブンイレブン」の検索数の推移をみた。

 検索数のピークは、本震翌日の17日。本震当日の16日よりも多い。

 木村さんは「きれいに行政の動きとリンクしてますね」と驚いた。

 「17日は、政府が『70万食を被災地のコンビニに届ける』と発表した日なんです。そしてこの日の夜には、熊本県内に届き始めた。みなさん、『コンビニに食料が届く』という情報を聞いて、どの店舗に物資が届くのか、情報をかき集めたんでしょう」

 「17日は、コンビニとは別に、政府の手配で、おにぎりとかの食料を避難所に届けようともしてたんですが、熊本県内への輸送の調整がうまくいかず、佐賀県鳥栖市で止まってしまっていた。そんななか、コンビニの方が先に熊本に届いたんです。18日に検索数がストンと落ちたのは、食料が届いて、落ち着いたから。あまり目立たないんですが、今回の地震はコンビニがうまく機能したんですよね。コンビニをめぐるパニックが起きていないんです」

 確かに、検索数は17日が突出し、翌18日には、地震前の検索数とほぼ変わらない数値まで落ちている。

徐々に増えた「ガス」検索

 【西部ガス】

 「ガス」は、16日の本震直後から検索数が上昇を続け、25日にピークを迎えていた。特に23日からの急上昇が目立つ。

 「これは、ガス開栓をめぐる混乱が見事に出ていますね。電気、ガス、水道で一番復旧が遅かったのがガス。みんな遅いのは分かっていたんですけど、いざ各家庭の復旧作業が始まると、『うちは一体いつなのか知りたい』というニーズが出てきた。復旧戸数がどっと増えてきたのが23日ごろで、『お隣はもうきたのに。うちはいつなの』という情報の混乱が起きていたのが、まさに25日あたりでした」

 ガス開栓をめぐる混乱には、西部ガスの情報提供も影響していた、と木村さんは指摘する。

 「当初、熊本市内でガスを供給する西部ガスは、ホームページにあまり詳細な情報を出していませんでした。ガスの開栓には居住者が立ち会う必要がありますが、住民は『我が家はいつなの? 私はいつ家にいればいいの?』というのが分からなかった。住民の不満を受けて、だんだんと西部ガスは情報提供態勢を整えていきました。それで25日以降に検索数が落ち着いたんだと思います」

「水」情報が整理され、検索数下がる

 【水道】

 「水道」は、17~19日に多く検索されていた。

 「熊本の人たちが一番困ったのは水でした。地震直後は『出ない』、その後は『給水車はどこだ』というニーズで検索されたんだと思います。行政側の情報提供態勢も当初は弱かったんです。住民の『わからない』ことへの不安が最大になった時に、検索数も最大になると思うんです。熊本市は、20日ごろからウェブサイトの情報を見やすくするなど、改善があったと記憶してます。検索数も下がってますよね。つまり、この検索数の推移は、行政の情報が整理されていった過程と見ることもできます」

検索データから学び取れることは?

 住民の「分からない」という不安が検索データに表れているとしたら、行政側の情報発信を見直すヒントにならないだろうか。

 「そう思います。地震直後、自治体の災害対策本部もバタバタしているなか、どうやって検索データを扱うか、というのは難しいところですが。例えば自治体のホームページで何が多く検索されているか、といったことを把握するシステムがあれば、いま住民にとって何が必要な情報なのかをリアルタイムで知ることができますね」

 「災害時の行政は、『何が検索されているか』なんてことはまったく意識せずに発信しています。それを変えるきっかけとして、例えば、災害対策本部の中に情報統括責任者みたいな、住民の情報ニーズを把握する人を置くのもいいかもしれません」

 木村さんは地震当時、「どうしてみんな、こんなに避難所の情報を知っているんだろう」と不思議に思ったという。被災者らは、行政からの情報を待つだけでなく、自ら積極的に情報を調べていた。検索データは、情報を求めて動いていた被災者らの足跡でもある。

 「行政から『給水所はここですよ、避難所はここですよ』という情報を受け取ると、そこはどういう状態なのか、並んでいるのか、他の場所はどうなのか、みなさん、自分たちでさらに調べていました。行政の情報をもとに、検索なりSNSで情報の精度を上げて、見極めてから行動に移していましたね」

 「典型的な事例が、避難所のひとつだった熊本県立大学です。県立大は行政があらかじめ指定した避難所ではなくて、指定避難所は近くにある市立小学校でした。その小学校には、水がこなかった。一方で県立大は敷地内に井戸を持っていて、水が出た。『県立大は水が出る』『トイレが流れる』『学生が炊き出しをしている』という情報が、人々の間で広まりました。県庁は一切そんな情報は発信していません。『あの避難所はいいですよ』なんて、言えませんよね。でも被災者たちは、自分で情報をつかんで知っていた」

今後に生かせることは?

 検索データの生かし方について、木村さんは「今まで行政が拾いきれていなかったニーズにも、気付けるかもしれない」と指摘する。

 「例えば、犬を連れて避難所に行きたいという人はマイノリティーでした。ムスリムの人は、宗教上の理由で食べられない食材がある。そういったマイノリティーの人たちの方が、検索サイトを利用する率は高いんじゃないでしょうか。検索せざるをえない人たちのニーズに、検索データの足跡から向き合うことができるのかも。熊本地震でも、拾いきれなかった隠れたニーズがあったと思います」(原田朱美)

     ◇

 きむら・たかし 1974年生まれ。総務省公営企業課理事官。1999年総務省入省。鳥取県、総務省選挙部などを経て2012年から熊本県に出向。15年4月から県総務部長。16年5月から現職。