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 「猫」の世界には、日露戦争が微妙な影響を及ぼしている。〈吾輩〉の鼠(ねずみ)との戦いには、東郷大将やバルチック艦隊の進路が引き合いに出され、苦沙弥邸内に飛んでくる落雲館の生徒のボールはダムダム弾にたとえられる。「大和魂」という精神主義高揚のスローガンは揶揄(やゆ)の対象とされる。迷亭は、静岡の母から、小学時代の朋友(ほうゆう)に戦死や負傷者が出たことを手紙で知らされ、「節季師走でもお正月のように気楽に遊んでいる」と非難される。激戦地の沙河や旅順が登場し、文体には戦争や戦闘の比喩が反映しがちだ。

 東京朝日新聞主筆池辺三山は、山県有朋の京都の別邸無鄰菴(むりんあん)を訪ねて対露開戦の是非を論じ、社説では戦後のインフレ防止のための戦時財政について論陣を張った。多大な国民の犠牲と戦費を費やした戦争の終結は容易ならぬものがあった。ロシアとの講和条約の締結交渉をめぐって国論は二分され、東京市中では国民の反対運動が盛り上がり、メディアも大きく揺れた。三山の日記「家乗抄」(『三山遺芳』1928年12月刊)には05年9月5日の条約締結をめぐって桂太郎首相と渡り合い、「(八月)三十日夜、桂を見限る決心、翌三十一日より筆を桂内閣にさし向くる。」「(九月)八日、桂我等(われら)を招く、予は不応(おうぜず)。」と記録されている。9月9日、権力に監視の目を光らせ、藩閥政治に批判的だった東京朝日新聞は発行停止を命じられ、15日後に解除された。

 「猫」の執筆段階では、漱石と…

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