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 私たちは消費期限や賞味期限を気にします。でも、その違いは意外と知られていません。賞味期限が先の商品を棚の奥から引っ張り出す私たちの意識が、食品業界に「3分の1ルール」という独特な商慣習を生んでいます。賞味期限を延ばす技術開発の一方で、期限切れや間近の食品をあえて売る動きも見られます。

期限設定「相当の余裕」

 大阪市の雑居ビルの一室。「バッタ屋」の事務所に入ると、8畳ほどの部屋の天井近くまで段ボールが積み重なっています。バッタ屋とは、賞味期限の迫る食品などを仕入れ、市場に安く流通させる卸業者です。今年1月、約5万枚の廃棄冷凍カツが横流しされて流通した問題で、その存在が注目されました。

 業者の応接机に、のどあめがありました。1年前に賞味期限が切れています。「さすがに売れんからここにあるけど、全然問題あらへん。試してみたらええ」。社長の言葉に1袋を開け、においをかいで思い切って口に入れました。

 ハッカの刺激が鼻に抜け、さわやかです。「ハハハ、大丈夫やろ。賞味期限は相当余裕を持って設定してあるから」。社長は言いました。

 賞味期限は国のガイドラインに沿って食品メーカーが決めます。科学的検査で「この食品は100日まで大丈夫」などと求めた「可食期間」に、1未満の安全係数を掛けて出します。国は0.8以上を推奨しています。可食期間が100日で0.8の場合、賞味期限は製造から80日後です。

 メーカーが係数を低く設定するケースもあるそうで、国は「食品ロス削減の観点から望ましくない」としています。東京農業大学元教授の徳江千代子さんは「賞味期限を短く設定すれば商品が新鮮というイメージを消費者に与えることができる。食べられる食品が大量に廃棄されることにつながっている」と指摘します。(斎藤健一郎

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 〈消費期限と賞味期限〉 過ぎたら食べない方がいいのが消費期限。早く劣化し、製造後5日程度までに安全でなくなる可能性のある弁当やサンドイッチ、生麺などに表示されます。賞味期限はおいしく食べられる期限で、過ぎてもすぐに食べられなくなるわけではありません。生たまごやヨーグルトを始め劣化の遅い食品に表示されます。

製法・容器、工夫して期限延ばす

 おいしさが長持ちする製造方法や容器の開発によって、賞味期限の延長の動きが出てきています。

 キユーピーは今年、一部の容器を除いて、マヨネーズの賞味期限を製造日から1年にしました。以前より2カ月の延長です。マヨネーズの品質劣化には、原材料の油の酸化が大きく影響します。容器に詰める工程で、製品が酸素になるべく触れないよう改善し、延長が実現しました。

 それまでの賞味期間10カ月は、原材料を混ぜる前の油から酸素を除く製法を14年前に取り入れ、7カ月を延長したものでした。原材料にもともと油分の少ない、カロリーを抑えたマヨネーズも今年、10カ月から1年に延長しました。

 日清食品やエースコック、明星食品などは2014年4月、カップ麺の賞味期間を1カ月延長し6カ月に、袋入り即席麺は2カ月延長し8カ月にしました。11年の東日本大震災後、防災備蓄用に賞味期間が長い即席麺が求められるようになったそうです。一般社団法人日本即席食品工業協会に加盟するメーカーが保存試験のデータを共有し、1、2カ月、賞味期間を延長できると判断しました。その結果、協会は13年に賞味期限設定のためのガイドラインを改訂しました。包装や容器の改善が進んだことも背景にあります。

 生野菜のロスを減らす容器包装も登場しています。三井化学東セロは、結露を防ぐなどして、しおれ、変色がしにくく鮮度を保つフィルム包装を開発しています。(神田明美)

国が旗振るけれど

 食品業界に「3分の1ルール」と呼ばれる商慣習があります。賞味期限の3分の1までを小売店への納品期限、次の3分の1を消費者への販売期限としているのです。

 例えば、賞味期限が6カ月先なら製造日から2カ月以内にスーパーなどに納品しなければならず、次の2カ月以内に消費者に売られなければなりません。期限を過ぎると、メーカーや卸売業者への返品や、廃棄につながります。

 売り場に並ぶ食品に、一定の長さの賞味期限を確保するのが目的です。欧米にも似た考え方はありますが、たとえば納品期限は賞味期限の2分の1~3分の2が主流です。海外事例を調べた公益財団法人「流通経済研究所」の重冨貴子主任研究員は「海外では賞味期限当日まで売るのが一般的」と言います。

 3分の1ルールを改めようと、国が旗を振って食品業界が動き出しています。納品期限切れが多いとされる清涼飲料・菓子について、メーカーや小売りなど35社が2013年度、納品期限を賞味期限の2分の1にする実験に取り組みました。その結果、業界全体に広がれば食品ロス削減効果は約4万トン、事業系ロスの1.0~1.4%と推計。販売期間の短縮による小売店のデメリットも小さく、16年度までにコンビニやスーパーなど少なくとも大手11社が実際に納品期限を延ばす運用に踏み切りました。

 ただ、ルール見直しの動きが業界全体には浸透せず、メーカーからは「個別に小売業にアプローチしているが、3分の1を厳格に運用する業者が多く、なかなか進まない」といった声も出ています。旗振り役の農林水産省食品産業環境対策室は「納品期限について国が強制力を持って『こうしなさい』と言うことはできない」として、「お願い」にとどめているそうです。(今村尚徳)

廃棄するより安く売る

 東京・亀戸の食品スーパー「サンケイスーパー」の2階奥に、賞味期限が切れた加工食品を並べる「モッタイナイ棚」が1990年代後半からあります。高さ約2メートル、幅約2メートルの棚に、かき氷シロップ、ふりかけ、クルトン……多くが100円以下で売られています。

 経営する水野竜宏さん(51)は「メーカーや問屋に返品すれば、廃棄されてしまうだけですから」。通常の半額以下で売るといいます。お客も期限切れと承知して買っていきます。3歳の娘を連れた20代主婦は「調味料などは重宝します。賞味期限切れを安さでカバーする売り方が、もっと広がってもいいのに」。

 水野さんは棚に並べる前に試食しています。「自分の五感をもっと信頼すべきなのかもしれません」

 15年2月開設の通販サイト「KURADASHI.jp」(https://www.kuradashi.jp/別ウインドウで開きます)は、メーカーや百貨店など約250社と契約し、賞味期限が近づいたり、包装に傷があったりする食品を、通常より平均65%安い価格で販売しています。代金の一部を、環境保護や災害対策に取り組む団体に寄付できる仕組みもあり、ユーザー数は2万5千人に達したといいます。サイトを運営するグラウクス(東京都渋谷区)の関藤竜也社長(45)は、「サイトの利用が食品ロスを減らすことにつながる。ユーザーの輪が広がれば」と話しています。(服部誠一)

アンケートに寄せられた声は

 アンケートには、賞味期限や食品業界の「3分の1ルール」に触れた意見もあります。

●「スマホのアプリで賞味期限や余った食材による料理のガイドをして管理をする」(静岡県・50代女性)

●「賞味期限の表示は撤廃すべきです。製造年月日を必須とすればよいと思う」(愛知県・70代男性)

●「賞味期限が切れそうな食品は、自治体が回収しある一定の条件下で世帯に配る。震災で食料が不足している国内外に提供」(千葉県・20代男性)

●「食品にかかわる仕事をしています。業界の3分の1ルールと欠品ペナルティーこそが諸悪の根源だと思います。この意識改革がなされない限り、食品ロスはなくならないです」(千葉県・50代男性)

●「賞味期限の近い食品を必要なひとに安価あるいは無料で提供するフードバンクなどの取り組みも広がってほしい。スーパーなどの食品ロスに対して企業もより努力してほしい」(神奈川県・40代女性)

●「何より、メーカーが3分の1ルールを改め、できることならば、賞味期限表示をやめて欲しい。製造年月日だけで十分。若い人には、食農教育を十分にする態勢を、国や自治体で実施して欲しい。要は、自分で判断できる人間をつくることです」(福岡県・60代女性)

●「3分の1ルールが食品ロスの元凶のように言われるが、『廃棄するより安売り』をマスコミは声を大にして言うべき。販売期限を越えても半額以下、出来れば8割引きで売れば消費者は買うしロスも減る」(京都府・60代男性)

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 アンケート「食品ロスを減らすには」をhttp://t.asahi.com/forum別ウインドウで開きますで実施中です。ご意見はasahi_forum@asahi.comメールするでも募集しています。

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