天皇陛下が生前退位の思いを強くにじませたお気持ちを表明したことに、男系の皇統維持を求めてきた人たちが困惑している。「日本会議」や「神道政治連盟(神政連)」の関係者が多く、安倍政権の支持層とも重なる。本来は退位に反対の立場だが、政権が特別措置法の検討に入るなか、容認論も出始めた。

 「例外というのは、いったん認めれば、なし崩しになるものだ」

 男系派の重鎮で、日本会議と神政連の政策委員を務める大原康男・国学院大名誉教授は、退位の前例を作れば皇位継承の安定性が失われると懸念。「国の根幹に関わる天皇の基本的地位について、時限立法によって例外を設けるのは、立法形式としても重大な問題がある」と特措法にも反対する。

 退位の意向が報じられたのは、参院選で改憲勢力が憲法改正の国会発議に必要な3分の2を確保した直後だった。憲法改正運動を進める日本会議の幹部は「いよいよという時に水を差された」と感じたという。「宮内庁内の護憲派が、陛下のご意向を政治利用したのではないか」と語る。

 8月にお気持ちが表明されると、衝撃が広がった。退位への思いが強く表れ、男系派が代替案として提案していた摂政を事実上否定する内容だったからだ。

 日本会議代表委員の一人で外交評論家の加瀬英明氏は「畏(おそ)れ多くも、陛下はご存在自体が尊いというお役目を理解されていないのではないか」と話し、こうクギを刺す。「天皇が『個人』の思いを国民に直接呼びかけ、法律が変わることは、あってはならない」

 いずれも皇室典範1条が定める「男系男子による皇位継承」を「万世一系」として絶対視し、歴代政権が検討した「女系天皇」「女性宮家」に反対してきた人々だ。これまでの安倍晋三首相の立場とも重なる。

 男系の皇統を維持すべきか女系天皇を認めるべきかの問題は、一見、退位とは関係ない。しかし、実は、男系派が退位に抱く危機感と密接に結びついている。

 神政連政策委員で、安倍首相に近い八木秀次・麗沢大教授は「天皇の自由意思による退位は、いずれ必ず即位を拒む権利につながる。男系男子の皇位継承者が次々と即位を辞退したら、男系による万世一系の天皇制度は崩壊する」と解説。「退位を認めれば『パンドラの箱』があく」と強い危惧を表明する。

 男系派にとって、歴史的に男系でつながれてきた「万世一系の皇統」は、日本の根幹に関わる問題だ。

 ジャーナリストの桜井よしこ氏は2月、憲法改正を求める集会で「日本人ってなんだろう。日本の国柄ってなんだろう」と問いかけ、こう述べた。「天照大神の子孫の神々様から始まり、神武天皇が即位なさって、神話が国になったのが日本だ。その中で皇室は重要な役割を果たしてきた」(二階堂友紀)

「例外なら」容認論も

 一方、例外として退位を容認する声も出てきた。

 百地章・日大教授はお気持ち表明前、退位に反対し摂政を主張していた。今は「制度設計が可能なら」という留保つきだが、①まずは皇室典範に根拠規定を置いたうえで特措法で対応する②例外的な退位を定める典範改正は時間をかけて議論する――という2段階論が現実的ではないかとの立場だ。「超高齢化時代の天皇について、陛下の問題提起を重く受け止めるべきだ」と語る。

 安倍首相のブレーンの一人とされる伊藤哲夫・日本政策研究センター代表も、機関紙「明日への選択」9月号で、「天皇制度そのものの否定」につながる懸念を示しつつ、こう書いた。「ここは当然ご譲位はあってしかるべし、というのがとるべき道なのか」

 ただ、退位反対論は根強い。男系派の一人は言う。「首相を説得してでも特措法を封じたい。安倍さんも『天皇制度の終わりの始まりをつくった首相』の汚名は嫌でしょう」(二階堂友紀)

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生前退位をめぐる識者の反応

〈小堀桂一郎・東大名誉教授〉 天皇の生前御退位を可とする如(ごと)き前例を今敢(あ)えて作る事は、事実上の国体の破壊に繫(つな)がるのではないかとの危惧は深刻である。(略)摂政の冊立(さくりつ)を以(もっ)て切り抜けるのが最善だ(「産経新聞」7月16日付朝刊)

〈渡部昇一・上智大名誉教授〉 もっとも重視しなければならないことは、これまで男系で続いてきた万世一系の皇統を守ることだということです。今の天皇陛下が大変、休息を欲してらっしゃるということが明らかなのであれば、すみやかに摂政を設ければいい(「正論」9月号)

〈加地伸行・阪大名誉教授〉 両陛下は、可能なかぎり、皇居奥深くにおられることを第一とし、国民の前にお出ましになられないことである。(略)<開かれた皇室>という<怪しげな民主主義>に寄られることなく<閉ざされた皇室>としてましましていただきたいのである。そうすれば、おそらく御負担は本質的に激減することであろう(「WiLL」9月号)

※いずれもお気持ち表明前

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 〈女性・女系天皇〉 女性皇族が皇位に就く「女性天皇」は過去にも10代8人いたが、いずれも父方に天皇の血筋を引く「男系」だった。しかし、女性天皇が皇族以外の男性と結婚し、生まれた子どもが即位する「女系天皇」は例がないとされる。小泉政権は女性・女系天皇容認に向けて議論したが、実現には至らなかった。