拡大する写真・図版被災者にとって支援制度は複雑だが切実。住宅被害の4段階の判定や制度の利用法について、自治体だけでなく様々な団体が解説文を出している=平井良和撮影

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 熊本地震から半年。この間、熊本県弁護士会などが被災地で続けている法律相談には、8千件を超える相談があった。その相談を受けている熊本市の弁護士は、ヤフーの検索ワード分析で「半壊」という語句に注目。「『法律の壁』にぶつかり、困窮する被災者の姿が、データからも浮かび上がっている」と語る。

 被災地で「熊本地震」という語句とともに検索された「第2ワード」。弁護士会の災害対策本部メンバーとして、被災者からの電話や面談での相談に対応している鹿瀬島正剛弁護士(49)は、次の第2ワードに注目した。

【全壊】

【大規模半壊】

【半壊】

【一部損壊】

拡大する写真・図版熊本県弁護士会の災害対策本部メンバーとして、被災者からの相談に対応している鹿瀬島正剛弁護士

 この四つの語句は建物被害のレベルを示すもので、罹災(りさい)証明書に記される。被害の程度によって公的支援の内容が変わるため、被災者にはとても重要だ。

仮設入居で重要になった「半壊」

 月ごとに検索数の上位ランキングをみると、5月までは四つとも上位15位には入っていなかった。しかし、【半壊】は熊本県からの検索で、6月に15位、7月に9位、8月も11位に上った。この時期、熊本県内からの検索数が全国からの6~7割を占めている。

拡大する写真・図版2016年4月14日~9月25日にYahoo! JAPANで「熊本地震」と一緒に検索された語句「第2ワード」の「半壊」の検索量の動き。「全壊」「大規模半壊」「一部損壊」は検索数上位15位に入らなかった

 「半壊」は、住宅や事業所の被害の割合が20%以上40%未満のものを指す。なぜ、急に【半壊】の検索が増えたのか。

 実は5月下旬、被災地で「半壊」の意味が、より重くなった。それまで、応急仮設住宅への入居条件が「全壊」か「大規模半壊」とされていたが、条件付きで「半壊」も入居対象世帯に含まれるように要件が緩和されたのだ。

 家が損傷した被災者にとって、自宅が「半壊」か否かが、切実な問題となった。

拡大する写真・図版被災地では倒壊した建物がある一方、一見するとしっかり立っているように見える住宅もある。しかし「一部損壊」と判定された住宅を「2次調査」で内部まで調べると、基礎部分に亀裂が見つかったり地盤の崩れで家全体がわずかに傾いたりしていて「半壊」や「大規模半壊」に判定が変わる例が相次いでいる=10月11日、熊本県益城町、平井良和撮影

支援金でもキーワードに

 また、この認定は、支給される被災者生活再建支援金にも直結する。最大300万円が支給される支援金だが、対象は「全壊」「大規模半壊」だけ。「半壊」にも57万6千円を上限に応急修理費が支給される制度があるが、仮設には入らず、自宅を修理して住み続けることが条件となる。

 「半壊」の相談者に鹿瀬島弁護士は応急修理費の利用を尋ねることにしているが、「これだけでは直せない」と答える被災者が多いという。「『修理の見積もりをしたら、浴槽までは直せるけど、給湯設備の修理費用までは足りないから、結局住めない』という人もいた」

相談からも浮かぶ「法律の限界」

 公的支援に関する相談量の多さは、日弁連が集計したデータにも表れている。

 8月に公表された4~7月分の5千件の相談内容では、住家の被害認定や罹災証明書の取得手続きに関連するものなどが15・3%を占めた。23に分類された相談内容のうち、「不動産の賃貸借」「隣の建物への損害」に次いで多かった。

拡大する写真・図版熊本県弁護士会などが4~7月に実施した無料法律相談5179件を日弁連が分析。「公的支援・行政認定等」が「不動産の賃貸借」「隣の建物への損害」に次いで多かった=日弁連のホームページから

 熊本県では、家屋の被害認定に納得できず、1次調査の結果を不服として、2次調査を依頼した被災者が約3割に上る。

 鹿瀬島弁護士は「四つの認定で支援の枠組みが区切られていることが、法律の限界。被災者の実情に合わせてきめ細かな支援ができる制度変更が必要だ」と法改正を訴える。

ビッグデータを法改正に

 東日本大震災では、被災者が弁護士に相談した4万件の内容を、日弁連がデータベース化した。ここから被災地のニーズをくみ取り、災害で亡くなった人の配偶者や子どもに支給される災害弔慰金について、対象を兄弟姉妹にも拡大する法改正につながった。

 被災者のローンなどの減免ができる「個人版私的整理ガイドライン」の制定も後押しするなど、ビッグデータが支援のはざまに陥った被災者たちを救う原動力になった。

 当時、災害対策本部室長として、データベース化の中心を担った岡本正弁護士(第一東京弁護士会)は、「地域の違いや時間の経過によって変わる被災者の多様な声を集約・分析し、リーガル・ニーズに基づいた立法・制度構築を提言することができた」とビッグデータの有効性を語る。

拡大する写真・図版東日本大震災時に日弁連の災害対策本部室長として、法律相談データベース化の中心を担った岡本正弁護士

 その岡本弁護士も、今回の検索ワード分析で「半壊」の検索量が目立っていることを挙げ、「法律相談の分析結果でも多かった被災者のリーガル・ニーズを、リアルに反映している」と注目する。

 日弁連は熊本地震前の今年2月に、被災者の個別の状況に応じた支援ができるよう、被災者生活再建支援法の改正を求めている。岡本弁護士は、「『半壊』に関連する人たちからの要請が多いことを、より細かく示すことができれば、法改正の必要性をより根拠をもって示せる」と話す。

「罹災証明」が浸透した意味

 岡本弁護士は、【罹災証明】の語句にも注目する。4月から、熊本県内からの検索割合がほぼ5割以上と高く、7月には熊本県での検索数の上位15位に入った。

拡大する写真・図版2016年4月14日~9月25日にYahoo! JAPANで「熊本地震」と一緒に検索された語句「第2ワード」を熊本県内からの検索と、熊本県を除く全国からの検索に分けて抽出。熊本県からの7月の検索数上位15位に「罹災(りさい)証明」が登場した

 公的支援や義援金の前提となる罹災証明書を「支援の第一歩」と捉える岡本弁護士。2013年の災害対策基本法改正で、速やかな発行が市町村に義務づけられたことで、「東日本大震災の時よりも、被災者に浸透した言葉になったのでは」と検索量の多さを分析する。

 東日本大震災での経験から「災害復興法学」を提唱する岡本弁護士は、罹災証明書のような「生活再建のための知識」の備えが必要だとし、自らも防災教育や企業での社員研修を積極的に行っている。

 「被災者になった時にどのような支援が必要なのかをイメージしておくことが大切だ、という思いで始めたが、『半壊』や『罹災証明』の検索が多かったという今回の分析結果からも、その必要性を改めて確認できた」(丹治翔、平井良和)