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 書斎は南向きの六畳で、日当りのいい所に大きな机が据(す)えてある。ただ大きな机ではわかるまい。長さ六尺、幅三尺八寸高さこれに叶(かな)うという大きな机である。無論出来合のものではない。近所の建具屋(たてぐや)に談判して寝台兼机として製造せしめたる稀代(きたい)の品物である。何の故にこんな大きな机を新調して、また何の故にその上に寐(ね)て見ようなどという了見を起したものか、本人に聞いて見ない事だから頓(とん)とわからない。ほんの一時の出来心で、かかる難物を担(かつ)ぎ込んだのかも知れず、あるいはことによると一種の精神病者において吾人がしばしば見出す如く、縁もゆかりもない二個の観念を連想して、机と寝台を勝手に結び付けたものかも知れない。とにかく奇抜な考えである。ただ奇抜だけで役に立たないのが欠点である。吾輩はかつて主人がこの机の上へ昼寐をして寐返りをする拍子に椽側へ転(ころ)げ落ちたのを見た事がある。それ以来この机は決して寝台に転用されないようである。

 机の前には薄っぺらなメリンスの座布団(ざぶとん)があって、烟草(タバコ)の火で焼けた穴が三つほどかたまってる。中から見える綿は薄黒い。この座布団の上に後ろ向きにかしこまっているのが主人である。鼠色によごれた兵児帯(へこおび)をこま結びにむすんだ左右がだらりと足の裏へ垂れかかっている。この帯へじゃれ付いて、いきなり頭を張られたのは此間(こないだ)の事である。滅多に寄り付くべき帯ではない。

 まだ考えているのか下手(へた…

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