「内向の世代」の作家の一人で、「北の河」「この国の空」など昭和の時代を映し出す小説を多く著した高井有一(たかい・ゆういち、本名田口哲郎〈たぐち・てつお〉)さんが26日、心不全のため東京都内の病院で死去した。84歳だった。葬儀は近親者で執り行う。喪主は妻中村輝子さん。

 東京生まれ。父は画家の田口省吾。早稲田大文学部を卒業し、共同通信の文化部記者として勤めるかたわら同人誌「犀(さい)」に小説を発表。終戦直後の疎開先で自殺する母親を子供の目から描いた「北の河」で1966年に芥川賞を受けたほか、「少年たちの戦場」などで戦争の時代を生きる少年を描き出した。

 小説家の祖父、田口掬汀(きくてい)をモデルにした「夢の碑(いしぶみ)」で芸術選奨文部大臣賞。戦時下の庶民生活を見すえた「この国の空」は84年に谷崎潤一郎賞を受けたほか、戦後70年の昨年、映画にもなった。初老の男の感情の陰影をとらえた連作短編集「夜の蟻(あり)」で読売文学賞。高度成長期の映画界の盛衰を描く「高らかな挽歌(ばんか)」で大佛(おさらぎ)次郎賞。昭和が終わって間もない頃を、時代を振り返りながらつづる「時の潮」で野間文芸賞。先輩作家を描いた評伝に「立原正秋」がある。

 2000年6月から2年間、日本文芸家協会理事長を務め、デジタル化が進む中での著作権問題などに取り組んだ。