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 働くことと、子どもを産み育てることをめぐり、多くの女性が葛藤を抱えていることが浮かび上がった今回のアンケート。寄せられた意見には「3歳までは家庭で育てたい」など、「3歳」に言及する記述が目立ちました。なぜなのでしょう。一方で「3歳まで」を理想としながら、経済的理由で断念している人も多くいるようです。

 子育てを難しくしている最大の要因は、「経済的に余裕がない」ことだという意見が最多でした。特に「3歳ごろから幼稚園/保育園」を望ましいと選んだ人の35.5%が経済不安を挙げ、全体の27.1%を上回りました。

 滋賀県の30代女性は、「経済的余裕を持って家庭で育てたいが、賃金カット、ノー残業などにより子育てどころか普通に生きていくことに必死」といいます。「保育園に入れても時間に縛られたり、保育料が高かったりで、手元にあまりお金が残らない。なんのために働いてるのか」と嘆きます。

 埼玉県の30代女性も「生活が苦しいから働かなくてはならないのに、保育料が高いので働けませんと言いたくなるような現実」と悩みます。「時短勤務させてもらえるのはありがたいが、給料はその分引かれるので、本当に生活は厳しい。小さい子どもはすぐ熱を出すのでそのたび母親が休み、自分の体調不良では休めず、いつもちょっとしたことでも悪化させてしまう。なにが1億総活躍だ!と言いたい」

 愛知県の20代男性は、3歳までの間、「保育園に預けてまで働く」のは経済的に無理だといいます。そして、女性は若い頃に子どもを産み、「働くのは40すぎてからで十分」と指摘。国には多子世帯への金銭面の補助を考えてほしいと訴えます。

 東京都の30代女性の念頭にあるのは、将来不安です。「これから先、教育資金や年金が払われない時代が来ると予測され、貯金が必要になる」と記しました。

 一方、小学校入学前までは「家庭中心」の子育てが望ましいとした神奈川県の40代男性は「子育ては経済的に苦しいのは当たり前。子育てから解放されたいという稚拙な考えや贅沢(ぜいたく)したいとの理由で、他人任せにしてはいけない」との声を寄せました。

正解は家族ごとに違う

 望ましい子育て実現に、「3歳児神話」が支障になっているのではとの声がありました。幼い子どもがいる母親が働くと、子どもの発達に悪影響が出るのでしょうか。お茶の水女子大の菅原ますみ教授(発達心理学)に聞きました。

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 発達への悪影響の心配は日本社会に広くあります。ここ数十年に働く母親が増えた米国など、様々な国で同じ心配がされました。本当に悪影響が出るのか。様々な実証研究がされています。米国立小児保健・人間発達研究所は、全米の新生児約1300人を1991年から5年間追跡。母親だけで育てた場合と、保育サービスなど母親以外の人も含めて育てた場合とで、子どもの発達に有意な差はなかったとの結論でした。

 私が国内の269組の母子を12年間追跡した調査でも、3歳未満で母親が働いても、子どもの問題行動や、子どもに聞いた母子関係の良好さ、母親に聞いた子どもへの愛情への悪影響は認められませんでした。

 過去50年間の各国の研究を統計分析をした2010年の米国の研究でも、母親の就労と子どもの学力や問題行動は基本的に関係がなかった。近年では、親が仕事に子育てにと複数の役割を持つと、リフレッシュや成長につながり、子どもにも良い影響を与えるとの研究も出ています。

 こうした研究は、母親が子育てをしなくていいといっているわけではありません。子どもには、必要な衣食住を満たし、スキンシップを含めた温かいコミュニケーションを取ってくれる人が必要です。1歳半ごろからは、社会のルールを学ぶ必要もある。様々な研究から言えるのは、こうしたことを母親だけでやらなくても大丈夫だということです。

 一方、発達に悪いと実証されていることがあります。子どもに近い人のメンタルヘルスの悪さです。父母が不安を感じていたり、イライラしていたりすると、子どもに温かく接することが難しくなり、それが子どもの問題行動を引き起こす恐れがあると言われています。このため、母親が主に子育てをする場合も、母親の「自分の時間」が必要です。「お母さんなんだから我慢して当然」というまわりの意識は母親を追い詰め、子どものためにもなりません。

 時代は変わっています。若い世代の年収は減り、雇用は不安定で、年金の先行きも暗い。専業主婦は夫との離死別で生活が苦しくなる恐れが相対的に高い。家計のリスク管理の面からも働く母親が増えています。

 家庭によって状況は様々なので、子どもの育て方の正解も家庭ごとに違います。大切なのは、どんな家庭に生まれた子どもでも、その24時間をどうすればつつがなく温かく満たしていけるのか、親や社会が真剣に考え、実現していくことです。(聞き手・長富由希子)

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 〈3歳児神話〉 1998年の厚生白書は「子どもは三歳までは、常時家庭において母親の手で育てないと、その後の成長に悪影響を及ぼすというもの」と説明した。欧米の母子研究の影響などを受けて60年代に広まったとされる。白書は、戦前の産業が農業や漁業中心だった時代には母親は働きながら、家族や地域の支援を受けて子育てをしていたことから「母親が育児に専念することは歴史的に見て普遍的なものでもない」などとし、3歳児神話に「少なくとも合理的な根拠は認められない」とした。

アンケートに寄せられた声は

 アンケートには「3歳」に絡む声が多く寄せられました。

●「理想では3歳まで家で育てたかったが、現実は1歳11カ月で保育園に入れることになった。一時的に必要ではあったが、送迎時に『ママー』と泣く姿を見ていると、悲しくなって込み上げるものがあった。今でも良かったのか悪かったのか、答えが出ない」(石川県・30代女性)

●「男女共に、『小さいうちから子どもを預けるのはかわいそうだ』といった意見がありびっくりしたと同時に傷つきました。私の両親は共働きでした。寂しいと思ったこともないし、親の愛情が足りなかったとも思いません。自己肯定感と共働きは関係ないと思います。私も共働きで、子どもは1歳から保育園です」(神奈川県・40代女性)

●「第1子は3歳から、第2子は1歳から、第3子は0歳から保育園に通いました。どのケースにもメリット・デメリットはあり、また、子ども自身の性格や園との相性もあり、一概にどれがいちばんとは言えません」(東京都・40代女性)

●「フルタイムのため、娘は8カ月から保育園で育ちました。小さい頃から預けてかわいそう!と言われ、娘も少なからず寂しい思いをしたと思いますが、我が家なりのコミュニケーションで、育児をしてきました。自立が早く、親子の距離感がほどほどで、親もよい意味で子離れが早いです」(東京都・50代女性)

●「望ましい子育ての支障は3歳児神話ではないでしょうか。子どもの発達は母親だけが養育を背負うものではありません。父親や保育士や児童館のボランティアや他の子どもたちなど周りの人と接することによってありがとうやごめんなさいを言えるようになったり、自分より年下の子に優しく接したり、お片付けができるようになったり、様々なことに関心を示すようになったりします。母親が日々の家事・炊事に加え目を離せない子を四六時中見るのは精神的にも体力的にも限界があります」(東京都・40代女性)

●「子どもは3歳ごろまで自分で育てるのが良いと漠然と思っていたことや、今まで通りの働き方はできなかったので退職した。でも、2人目が生まれ、上の子も2歳になってイヤイヤ期が始まり毎日怒ってしまうことの連続。私が毎日イライラして不機嫌なので夫婦仲も悪くなり、これなら働いて保育園に預けていた方がイライラせず良かったのかなぁ?と思ってしまう」(愛知県・30代女性)

●「三つ子の魂百まで、少なくとも3歳、出来れば8歳くらいまでは母親と一緒に過ごすことが望ましく、そう考えている女性も多いので、女性が働く環境ばかりではなく、母親が子どもと一緒に過ごすことができる環境を作るべきだと思います」(北海道・50代男性)

●「同じでなくてはいけないという考え方が、子育てを苦しめていると思います。子育ての多様性→個性豊かな人間が育つという柔軟性・多様性を認める子育て論が展開されるべきだと思っています」(佐賀県・50代女性)

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 アンケート「育休、待機児童……どう思う?」をhttp://t.asahi.com/forum別ウインドウで開きますで実施中です。ご意見はasahi_forum@asahi.comメールするでも募集しています。

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