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川村元気の素

 就職活動を舞台に、嫉妬や皮肉、焦りをない交ぜにしながら、自らの存在価値を探す5人の大学生を描いた映画「何者」が全国東宝系にて公開中です。冷静分析系男子、意識高い系女子などキャラクター異なる5人が、励まし合いながら就活に挑みますが、選考が進むにつれてその関係が変化。作品に登場するツイッターは、そうした5人の本音や建前を浮かび上がらせます。「最前線のエンタテインメントを作った」と話すプロデューサーの川村元気さんが、公開初日の舞台あいさつを前に、主演の佐藤健さん、監督の三浦大輔さんと映画に込めた思いを語りました。

就活とオーディションは似ている

 ――川村さんは映画の撮影前、佐藤さんたちに就活体験をしてもらったと聞きました。なぜですか?

 川村元気(川村):俳優の人たちは、就職活動をしたことはないけど、オーディションは経験しているんです。感覚的にそれが、就職活動の面接と似ているなと思ったのでその接点を見つけてもらえないかなと思いました。東宝の人事部に協力してもらい、エントリーシートから体験してもらいました。

 就職活動って、理由は分からないけど、受かったり落ちたりする理不尽さや、値踏みされているような屈辱感がある。就活をする大学生が、どうしてツイッターに自分の気持ちを吐露しなければならないのか。面接を実際に受けることで、5人にそうした感覚をつかんでもらえたら面白いなと思ったんです。

 ――佐藤さんは就職活動を体験してみて、就活生の気持ちは分かりましたか?

 佐藤健(佐藤):僕は、エントリーシートを書く時点で自分には無理だな……と思いました。だいぶ面倒だなって(笑)。こんなシビアなことをやっている就活生たちは、偉いなと思います。

 僕の役作りは、リアルな人をコピーするというやり方なんですね。芝居をする上で、気持ちが分かるというのは大事。なので、リアルな就活生のリアルな面接の姿を見たかった。実際にやってみると、「意外と話すことを決めているんだな」とか、観察することができました。

 ――俳優もオーディションでは選ばれる立場ですが、違いはありましたか?

 佐藤:最近はあまり機会がないのですが、オーディションを受けていた頃のことは思い出しました。緊張感や「自分をアピールして下さい」というのは、通ずるものがありますし。

 ただ、俳優は厳密なリミットがなかったりしますが、就活生は基本的に1年がリミットだと思うので、僕らよりも選考に落ちた時の追い込まれる気持ちは強いのかなと思いました。

 川村:今回、リアリティーに定評がある劇団「ポツドール」を主宰する三浦大輔さんに監督をお願いしたので、準備段階からドキュメンタリーのように出来たらなと思った。「何者」を映画にすると決まった時に、三浦さんが演劇的に作ったら面白くなると思ったんです。

 三浦大輔(三浦):ドキュメンタリー的な要素が如実に出ているかは分からないかもしれませんが、「就職体験でこんな感じだったな」というのを役者のみなさんが思い起こしながらシーンを作っていけたのは、すごい有効だったなと思います。

SNSを顧みる機会に

 ――ツイッターが、作品の中で大きな役割を果たしています。みなさんはSNSとどう付き合っていますか?

 三浦:ツイッターはずっと、「絶対やらないぞ」と思っていたんです。それだけで自己顕示欲を満たそうとする感じがすごい気持ち悪くて。だけど、映画化をすることになって始めたら、これは気持ちいいなーと(笑)。ただ、ツイッターでの自意識や承認欲求をテーマにするのは古いのかなという気持ちもあったんです。これだけ広まっているので、「もう、みんな気づいているよ」というか。

 だけど、試写会などで感想を聞くと、そこに敏感な人はまだそれほどいなくて。だから、見る人にとってSNSに関して顧みる良い機会になりそうで、映画のタイミングとしてはよかったと思っています。

 川村:僕は、SNSが岐路に来ていると思うんです。昔はオフラインな現実だけで、そこからオンラインの世界が登場して、ツイッターやフェイスブックが現れた。人間の感情が、SNSの箱の中にどんどん閉じ込められていると思うんですけど、またオフラインの現実世界に回帰する現象がこの2~3年で急激に起こるような気がしています。

 だから映画では、ずっと箱の中にいる5人が、自分の感情を現実世界に接続させる、箱の中から外に出るところを描きたいなと思った。完成した作品を見て、その断片には到達できたと感じています。

 佐藤:自分でコントロールすることができれば、SNSは活用していいと思いますね。ツイッターを使う主人公の拓人を演じましたが、使いたくなる気持ちは理解できます、すごく。やっぱり、アピールしたくなるんだろうな、と思う。僕はツイッターで発信することはないですが、投稿を見たりすることはあるので。

 SNSの良い面、悪い面で言うと、人とつながりやすくなることが良い面だとしたら、つながりやすくなりすぎて、人との関係が軽くなっているかなとは思います。特に、若い人たちの恋愛観って、昔に比べてだいぶ軽いんじゃないかと思うんですね。そこはちょっと、僕は好みでないかもしれないですね。

 ――佐藤さんは、ツイッターやフェイスブックはやらないのですか?

 佐藤:やらないですね。公式のラインはありますけど、ツイッターやフェイスブックは公式もないです。そんなにまめなタイプではないから、多分続かないと思うんです。

テイク数が多かったのは川村元気のせい?

 ――佐藤さんは、「バクマン。」「世界から猫が消えたなら」に続いて、川村さんとのコンビが3作目になります。佐藤さんにとって、川村さんはどういう存在ですか?

 佐藤:まず、信頼感があります。俳優の力ってすごくちっぽけなので、自分がどんなに頑張っても、最後は作り手の人たちに委ねるしかない。自分の力が十分でなくても、スタッフの皆さんがすてきな作品に仕上げてくれる一方、その逆もあり得る中で、「元気さんの作品で損することはないな」という信頼感は俳優のみんなにあるんじゃないかなと思います。

 ――その信頼感はどういう時に感じますか?

 佐藤:それはやはり、完成した作品を見た時に思いますよね。あと元気さんの場合は、最初に会って、仕事と関係のないたわいない話をした時に魅力を感じました。「この人の意見を聞きたい」と思う人って、なかなかたくさんはいないじゃないですか。元気さんはその中の一人ですね。悩みがあったら、相談したいなと思える人です。

 ――三浦さんは川村さんと初めて組んでどうでしたか?

 三浦:当たり前なんですけど、作品に対しての責任感がすごい。もちろん監督が、その作品を背負っているんですけど、川村さんはそれと同じ、たまにそれ以上の執着を見せるんです。川村さんが「撮影後の編集作業にうるさい」という話は有名だと思うんですけど、今回も、僕がいくら言っても、川村さんを説得できないと編集を変えさせてくれないんです。

 川村:そうでしたか?

 三浦:ただそれは、説得できる言葉をこちらが持っていない時点で、ダメなんですよ。川村さんも、納得すればそのシーンの編集を変えるので、そこは単純にいい「やり合い」ができたと思います。

 現場に川村さんが来た時もすごかった。その日は大事なシーンで、僕はワンカットで撮ろうと思っていたんですけど、途中で帰った川村さんから電話で「後悔しないように、使わないと思ってもできるだけ映像の素材は撮って下さい。そうした撮影をしなかった映画で僕は、後悔したことがたくさんあるので、監督の満足するまで、周りは気にせず撮って下さい」と言われて、本当にこの人はすごいなと思いました。

 川村:全然覚えてない(笑)。

 佐藤:撮影のテイク数が多かったのは、監督のせいではなくて、元気さんのせいか(笑)。

 川村:僕が言ったのは、テイク数ではなくて、シーンのカット割りのことだと思います。テイク数は監督の責任だから。

 佐藤:テイクを重ねても、カメラの位置が変わっていると、素材を集めているなと分かるんですよ(笑)。

 川村:俳優の人たちは敏感だからね(笑)。

 三浦:でもそれは、本当に作品に対して責任を持っているからなんですよ。そういうプロデューサーは、なかなかいないと思いますね。

「テラスハウス」を見る人にも、三浦監督を紹介したい

 ――川村さんから見た2人の魅力は?

 川村:僕、三浦さんの舞台がすごく好きで、ポツドールはずっと見てたんですよ。人間の暗部を赤裸々に描き出す演出が、すごいというか「追い込む演出をする人だな」という印象があって。この追い込む力が生かせる原作があったら、お願いしたいと思っていたんです。この「何者」は、5人が演劇的な密室空間で感情を打ち合っていく物語なので、力を借りたかった。三浦さんが作る演劇は本当に面白いので、「こういう才能を持った人が日本にもいるんだよ」というのを、演劇通の人たちだけでなく、テレビ番組の「テラスハウス」(※注)を見ている人たちにも紹介したいという気持ちもありました。

 佐藤健君とは、3作目なので信頼しているというのは間違いないんですけど、何で信頼できるのかなと考えた時に、健君は考える俳優なんですよ。映画は総力戦なので、監督や脚本はもちろん、カメラマンも美術の人も全員が作品に対してクリエーティブな力を働かせないと面白くならない。それは俳優も同じだと思っていて、その中で健君はどういう風に表現したら作品が面白くなるかを考える人なんですよ。今回の役は、足し引きがしにくい難しい役だったんですけど、それでも就活体験などから色々なものを感じ取って演じてくれたので、改めて信頼できるなと思いましたね。

 ――公開前から大学生を中心に話題でしたが、改めて見どころはどこですか?

 佐藤:就活世代というか大学生ぐらいの方は、どこかしら共感できる部分があると思います。さらに学生の子どもがいる人たちにとっても、若者の間でこんなことが繰り広げられているのかということが分かる映画です。SNSに関しても、特にツイッターをやっている人は、「こういう風に見られているかもしれない」ということが感じられるので、参考になると思います。

 三浦:みんな等身大の役で、演技も自然体なので、楽にやっているんだろうなって思われがちですけど、5人の空気感やキャラクターは、役者の確固とした演技力があって成り立っている。そこを見落とさないで欲しいですね。

 川村:「何者」は、単純に笑って泣けるエンタテインメントではありませんが、見る人の心にグサッと刺さる作品です。かつそれが、今の時代の最前線の気分を切り取っている。最前線のエンタテインメントを作ったつもりなので、ぜひそれを劇場で確認してほしいですね。

     ◇

 さとう・たける 1989年、埼玉県出身。「仮面ライダー電王」やドラマ「ROOKIES」で注目を集め、NHK大河ドラマ「龍馬伝」、「とんび」「天皇の料理番」などに出演。主演を務めた映画「るろうに剣心」全3部作では、125億円を超える興行収入を記録。主な出演作に、「ROOKIES-卒業-」「カノジョは嘘を愛しすぎてる」「バクマン。」「世界から猫が消えたなら」。写真集+DVDブック『X(ten)』発売中。

 みうら・だいすけ 1975年生まれ。演劇ユニット「ポツドール」を主宰し、センセーショナルな作風で演劇界の話題をさらう。2006年には「愛の渦」で第50回岸田國士戯曲賞を受賞。近年では海外からの公演オファーも多く、2010年にはドイツのTHEATER DER WELT2010に招請され、翌年には欧州北米ツアーを敢行し国内外で注目を浴びる。また映画監督としても、「ボーイズ・オン・ザ・ラン」「愛の渦」(監督・脚本)を手がけ、高い演出力や表現力が評価を受けている。

 かわむら・げんき 1979年、横浜生まれ。映画プロデューサーとして「電車男」「告白」「悪人」「モテキ」「バケモノの子」「バクマン。」、今年は「君の名は。」「怒り」などの映画を製作。2011年には優れた映画製作者に贈られる「藤本賞」を史上最年少で受賞。12年の初小説「世界から猫が消えたなら」が130万部突破の大ベストセラーとなり映画化。3作目の小説「四月になれば彼女は」を11月4日に刊行。

(※注)「テラスハウス」はシェアハウスで同居する若い男女6人の恋愛模様などを追ったフジテレビ系番組。(聞き手・丹治翔)