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 米大統領選は8日夜(日本時間9日午前)から開票され、共和党のドナルド・トランプ氏(70)が、優勢が伝えられていた民主党のヒラリー・クリントン前国務長官(69)を破り、当選を確実にした。米国史上初の公職経験のない大統領となる。既成政治への不満や怒りを背景に支持を集めたが、超大国の指導者としての手腕は未知数だ。環太平洋経済連携協定(TPP)や日米関係などの行方も、不透明感が増している。

 トランプ氏は、選挙戦を通じて、メキシコからの不法移民の強制送還やイスラム教徒の一時入国禁止の政策、女性蔑視の発言などから、「資質」を問われてきた。政治経験もないうえ、外交政策に精通した側近も現状では見当たらない。政権のかじ取り次第では、国内外を揺るがしかねない。

 選挙の勝敗は、州ごとに割り当てられる選挙人を、各州の投票で1位となった候補者が「総取り」する方式で決まる(ネブラスカ、メーンの2州を除く)。米CNNの米東部時間9日午前10時(日本時間10日午前0時)までの集計では、トランプ氏はフロリダ州やテキサス州などで選挙人総数の過半数(270以上)の289人の獲得を確実にした。クリントン氏は、地元ニューヨーク州やカリフォルニア州などで218人の確保にとどまっている。

 トランプ氏は9日未明、ニューヨークで勝利演説し、「米国は分断で広がった傷を修復する時だ。私はすべての米国民のための大統領になる」と述べた。クリントン氏から、敗北を認め、祝福する電話を受けたことも明かした。

 オバマ大統領も9日朝にトランプ氏に電話。祝意を伝えるとともに、政権移行の手続きについて話し合うため、10日にホワイトハウスで会談する予定だ。

 トランプ氏は、既存の政治・金融システムが一部の既得権層に不正操作されていると主張。白人の労働者階級を中心に支持を広げた。9日の演説でも「この国で忘れ去られてきた人々が、もはや忘れられることはない」と強調した。

 女性初の大統領を目指したクリントン氏は、大統領夫人や上院議員、国務長官などの経験と実績を強調。万全な組織力と資金力で臨んだが、有権者には既得権層の象徴と映り、伸び悩んだ。最終盤に、国務長官時代の私用メール問題で連邦捜査局(FBI)が捜査再開を公表したことで潮目が変わり、競り負けた。

 トランプ氏は第45代大統領として来年1月20日に就任。歴代で就任時に最高齢の大統領となる。米国で政治経験がなく大統領に就いたケースは、連合国軍最高司令官だったアイゼンハワーらの例があるが、軍も含む公職経験のない大統領は初めて。

 副大統領にはインディアナ州のマイク・ペンス知事(57)が就く。大統領選と同時に行われた連邦議員選では、共和党が上下両院で過半数確保を確実にした。ただ、トランプ氏は同党主流派との対立が深刻で政権運営がスムーズにいくかは不透明だ。

 今後、トランプ氏が「大失敗の合意」と批判しているTPPが、棚上げになるのは確実だ。米国はアジア戦略の中核を失い、安倍政権は成長戦略の見直しを迫られる。

 トランプ氏はまた、日本が駐留米軍経費の全額を負担すべきだとし、応じなければ米軍撤退もありうると主張。日本の核保有容認も示唆しており、日米関係がきしむ可能性がある。

 国内石炭産業の保護を目的に、今月4日に発効した気候変動対策の新ルール「パリ協定」から離脱する意向も示している。(ワシントン=佐藤武嗣五十嵐大介