(関西食百景)イカした姿に急成長中

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文・服部尚 写真・水野義則
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徳島のアオリイカ

 徳島県牟岐(むぎ)町沖の太平洋。早朝、小型漁船から漁師の平岡丈次さん(38)が網をたぐり上げると、赤黒いアオリイカが姿を見せた。墨混じりの海水を激しく噴射する。平岡さんはイカを1杯ずつ両手でつかみ、丁寧にいけすに入れていく。

 イカが垣根のように張った網に突き当たり、さらに、つぼのような形の網に誘導されて逃げられなくする徳島独自の小型定置網。5年前に漁を受け継いだ平岡さんは、月夜を好むイカの習性を考え、適度に光が入るように網の汚れをこまめに取り除く。漁が本格化して間もない11月初旬、水揚げは500グラムほどのイカが12杯。「だんだん良くなってきた」。表情が緩んだ。

 アオリイカは4~7月に孵化(ふか)し、11月ごろから急速に大きくなる。1キロ以上に成長することもあり、その威容や、かむほどに甘みが出る味わいから「イカの王様」とも呼ばれる。

 牟岐では2年続けて不漁だった。産卵期、徳島に台風が接近し、海中が荒れた影響とみられた。今年は接近した台風はない。「ある程度水揚げが戻るのでは」。牟岐町漁協など12漁協でつくる海部郡水産振興会の冨浦信治会長(64)は期待する。

 水揚げ直後のイカは茶色や白、瑠璃色っぽさが交じって、つやっぽい。生け締めにされた瞬間、それが一変する。

海底に揺りかご 食感と甘み守る

 徳島県牟岐町は県内有数のアオリイカの産地だ。取れたばかりのイカを積んだ漁船が続々と漁港に戻ってきた。漁協施設の作業台にずらりと並べられる。

 「赤黒く見えるのは、イカが興奮している証拠です」と県南部総合県民局の岡崎孝博さん(47)。すぐに鮮度を保つために締める。漁協職員が木づちでイカの脳天に一撃を加えると、一瞬できれいな透明になった。絶命し、表皮の色素細胞が収縮するからだ。最後は筋肉細胞が死んで大根のように白くなる。

 締め方は漁協ごとに違う。ナイフで頭部と胴体をつなぐ神経を切ったり、とがったへらで脳を壊したり。そしてトロ箱に氷と一緒に入れられ、県内や京阪神などに運ばれていく。

 長崎や鹿児島が産地として知られるが、徳島も「とくしまブランド品目」として販売拡大に力を入れる。県南部の全12漁協が参加して冷凍保存も始めている。出荷調整して値崩れを防ぐとともに、1年を通じて食べてもらえるための取り組みだ。

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 アオリイカは海水の温度や塩分、波など環境や気候の変化に敏感だ。養殖はコストや手間がかかり難しい。生息数の統計はないが、産卵場となる藻場が減っていることから、県は人工産卵礁を開発し、県南部の沿岸に多くの産卵場を造った。漁師たちも漁場を守ろうと、自主的に卵を産み付けるための広葉樹や間伐材を海底に沈めている。

 県立農林水産総合技術支援センターの上田幸男さん(58)は、30年近くアオリイカ研究に取り組む。「内臓が見えるほど美しい透明感に感動し、魅せられた」。地球温暖化による水温上昇によって分布や漁獲量が変わる可能性があるといい、「今後もイカを守るために環境の変化を追いかけたい」と語る。

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 アオリイカを味わいたくて、徳島県の魚介類を多く扱う阿波水産泉北店(堺市)に足を運んだ。創業者が徳島出身で漁業関係者のつても多い。週3回はアオリイカが入荷する。

 徳島産のスダチを添えた、身…

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