【動画】脳科学者・中野信子さんから受験生へ=佐藤正人撮影
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 脳科学の視点で、人の行動や心理を読み解き、テレビ番組でも活躍する中野信子さん。東京大学理科二類に現役合格した自身の経験も踏まえ、貧しさや、あがり症であることは、受験に不利とも限らないといいます。

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中学で「学歴つけよう」

 中学時代は周囲の人とのコミュニケーションに苦手意識が強く、将来、就職して社会人としてやっていくことに不安がありました。どうやったらコミュニケーション力をつけられるのか、授業でもやりませんし、教科書もない。素で勝負するには力不足の自分に自信が持てず、手っ取り早いのは学歴をつけることだと考えました。理系を選んだのは、一般の人の振る舞いを知って合わせるためにも、人間の研究をしたいと考えたからです。

 家は裕福ではなかったので、お金をかけた勉強法を選ぶことにはためらいがありました。このことは、受験勉強にはプラスに働きました。塾には極力通わず、参考書や問題集を買うのも最小限に済ませようと、効率の良い勉強法を工夫しました。今となっては楽しい思い出です。勉強に集中するとサイレンに気づかないようなこともあって、母は心配したようです。

 勉強法は、ダメなところを見つけてつぶすというもの。予備校は模試や夏季講習だけ受講して、短期で集中して必要な情報を得るようにしていました。やはり商売だけあって、試験結果から出された、どの分野の勉強が足りないかといった学力分析は詳細で大いに役立ちました。学校でも、これは、と思った先生の授業には積極的に食らいついていきました。特に化学の先生は教科書一辺倒でなく、東大対策の演習プリントなどを独自に作っていて、それをやるだけで十分な実力がつきました。

 受けたのは東大だけ。学費が安く、下宿の必要もない、いいとされる先生が集まっているというコストパフォーマンスで選びましたが、大学に入ってからは本当に幸せでした。エキセントリックな人が多く、自分が多少変であっても許される。楽園でした。

 大学では、脳の動態を数分・数秒レベルで計測できる装置を作りたくて工学部に進みました。でも、それができるファンクショナルMRIという装置が実用化され、「それなら、私はもういいか」と、医学系の大学院を受け直し、博士課程から認知科学を勉強しました。

「勉強そのものを楽しんで」

 いま多くの受験生には周りに楽しいことがたくさんある。ある程度裕福ならなおさら、受験勉強に集中するという意味では不利かもしれません。でも集中しなきゃと自分を抑えても逆効果です。意思と「情動」が矛盾する場合、脳では情動が優先されてしまいます。他の快楽がたやすく得られるなら、勉強に集中するのはほぼ不可能です。勉強そのものを楽しむ工夫が必要です。

 楽しむことは、成果にもつながります。ある実験では、同じ問題を解くのに、片方のグループには早さに応じた金銭的報酬を与え、もう一方にはただ時間を計ることを伝えたところ、後者のグループの方が問題解決が早くなりました。金銭的報酬と自分が達成して喜びを感じるのは脳の同じ領域が担当しています。お金をもらうことによって、達成する喜びが相殺されてしまう。

 教育格差が言われますが、私は調査に疑問を持っています。同程度の遺伝的素因があるならば、裕福でない方がモチベーションも効率も上がるのではないでしょうか。

緊張も悪くない

 試験当日、緊張しやすい人も、心配する必要はありません。心拍や血圧が上がると、落ち着かないかもしれませんが、ひらめきの問題などではかえって実力を発揮しやすくなります。試験本番では、自分の焦りや緊張もうまく活用して合格を勝ち取って欲しいですね。

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なかの・のぶこ 脳科学者。1975年生まれ。東京大学工学部を卒業し、同大大学院医学系研究科で医学博士号取得。フランス国立研究所で研究員。帰国後、横浜市立大学客員准教授、2015年から東日本国際大学特任教授。(聞き手・神崎ちひろ)