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 私は大学病院の感染制御チーム(ICT=Infection Control Team)で働いています。ICTの最大の目標は院内感染を防ぐことです。

 私たちの周りには常に細菌やウイルスなどの病原微生物が存在しています。病院も同じです。それどころか病院の方が、感染すると対応が難しい、厄介な微生物は多いくらいです。できる限りの清潔を心がけていますが、感染した患者さんがたくさん集まる場所なので悪い細菌もいますし、すべての部屋を無菌室にはできません。

 そのため病院では、厄介な菌やウイルスが人から人、あるいは環境(病院中の部屋や物品)から人へとできるだけうつらないよう対策を行うことが重要で、それがICTの大きな仕事の一つです。具体的には毎週定期的に病院全体を監視してまわったり、特定の細菌感染が頻発した場合、あやしい部署の部屋や物品にその菌が潜んでいないかをチェックしたりします。

 残念なことですが、院内感染を100%防ぐことは困難です。時には情報を公にする必要があるほどの感染拡大(アウトブレーク)が起きることもあります。医療スタッフが細心の注意を払っていても菌やウイルスはそれをかいくぐって侵入してしまうのです。もちろん、対策によってその確率を大きく下げることはできます。我々ICTは、実現可能な対策を効率よく行えるよう、日頃から頭を悩ませています。

 病原微生物が体内に入ったときのパターンは、①何も起こさず死んでいく②何も起こさないがそのまま体内に定着する③定着し続けたのちに何らかのきっかけで病気(感染症)を発症させる④体内に入るとすぐに病気を発症させる――など様々です。結果を左右するのは病原微生物の種類や感染者の状況です。

 感染症を発症するかしないかは、人の体内に入った微生物の量にもよります。また、発症の原因として重要なのは患者さんの抵抗力です。例えば、健康な時には1万個の菌が入っても大丈夫なのに、免疫(防御能)が低下しているときは100個の菌でも発症してしまうということです。

 病原微生物がうつってしまう原因(感染経路)で最も多いのは「接触感染」です。これは人や物に直接接触することによって、そこから微生物をもらってしまうパターンです。私たちが何かに接触するときは、やはり「手」で触ることが多いですね。食中毒など口から入る経口感染も接触感染に含まれます。

 接触感染を防ぐのに一番大事なことは「手洗い」ですが、この手洗いが結構難しいのです。どのタイミングで、どのような方法で、どのくらい時間をかけて手を洗うかによって、効果がまったく違ってきます。

 現場で医療スタッフに指導する立場の私たちですら、完璧な手洗いを実践することは難しいのです。次回は、ご家庭での手洗いレベルとして参考にしていただきたいことをいくつかお話しします。

<アピタル:弘前大学企画・今こそ知りたい! 感染症の予防と治療>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/hirosaki/(弘前大学大学院医学研究科臨床検査医学講座准教授 齋藤紀先)