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 ミニバンは大きすぎるが、軽ワゴンでは小さい……。そんなニーズから、にわかに人気となっている1リッタークラスのトールワゴン。スズキが先行するこの市場に、トヨタグループが満を持して送り込んだ自信作「トヨタ・タンク/ルーミー」に記者が試乗し、完成度を探ってみた。

提携検討発表の翌月にライバル車

 タンク/ルーミーは、ダイハツ工業が2016年11月に発売した「トール」のOEM供給モデルだ。富士重工(スバル)も「ジャスティ」として供給を受け、一斉発売された。同年8月にトヨタの完全子会社となったダイハツが、グループ内の小型車開発・生産を一手に引き受けた。

 ターゲットはスズキ・ソリオだ。15年8月発売の現行モデルは新開発の車台に1.2リッターのエンジンを積み、高い車高による使い勝手の良さと、手ごろな価格で人気となった。とりわけ、郊外に住む子育て世代向けのファミリーカーとして支持されている。他メーカーに目立った競合車種がなかったためにスズキの独壇場が続いたが、トヨタがシェア奪取を狙い、ほぼ同寸法のタンク/ルーミーを投入した。

 トヨタは過去にも、小型ステーションワゴンのホンダ・ストリームに類似したコンセプトのウィッシュを投入し、シェアを奪うなど、他社のヒット作への対抗策は徹底している。好勝負に持ち込めなかったのは、スバル・レガシィツーリングワゴンを仮想敵としたカルディナぐらいだろう。

 今回の場合、トヨタとスズキによる環境対応分野での技術提携検討の発表があったのが16年10月。その翌月のあからさまなライバル車投入は、トヨタグループのしたたかさを再認識させた。

 そのタンク/ルーミーには、スズキと激しいシェア争いを展開してきたダイハツの、軽自動車開発ノウハウが惜しげもなく投入される。

 後席両側スライドドアを備えた背の高い直線基調のボディーは、5ナンバーサイズながら広々と使える。3列目のシートは設けず5人乗りとして、座席の足もとと荷室のスペースを広げた。トヨタの代名詞とも言えるハイブリッド仕様はあえて用意せず、ダイハツが軽自動車用に作り慣れた3気筒エンジンで価格上昇を抑えた。

かゆいところに手が届く、多彩な収納

 実車に触れると、最近のトヨタ車の中ではオーソドックスでアクのないクルマという印象だ。ずっしりしたプロポーションのため、迫力も適度にある。老若男女問わず受け入れられるのがコンセプトという。インパネも、飽きられにくい落ち着いたデザインだ。控えめなのが物足りない若者向けには、クロムめっきで覆った、いかつい顔つきのカスタム系も用意する。

 収納スペースはふんだんに用意。引き出し幅が調節可能でスマホから紙パックまで収まるドリンクホルダーや、取り外して丸洗い可能なインパネ下のダストボックスなど、かゆいところに手が届く優れた工夫が多い。

 乗り出すと、意外と鋭い加速に驚く。大排気量の大きな車から乗り換えても不満のないように、スロットル開度を大きめにしたという。一方で、最新の衝突回避支援システムを備えてペダルの踏み間違えによる急発進を防ぐ。

 段差をまたいでもミシリとも言わない車体剛性の高さは驚異的。乗り心地は若干硬く感じるが、高い車高ながらコーナリング時などの揺れを抑えて不安感をなくすのに努めたという。

 1リッター直列3気筒の加速は、CVTの調律に優れるからか、ノンターボでも660CCの軽自動車のようなふん詰まり感はない。ただ、家族を乗せて走るのを考えたらターボ付きのほうがストレスを感じないで済むだろう。こちらは新開発で、1.5リッター並みのトルクを実現。この車格には十分以上の加速感が得られる。

黒衣に徹する生活ツール

 ステアリングを握る喜びやワクワク感は乏しい。その代わり、もどかしさやストレスも感じない一台。だが、あらゆる場面でストレスフリーであることこそが、このクルマの最大の長所なのかもしれない。

 夕食のレシピを考えながら、交通量が増えてきたバイパスを走りショッピングモールへ向かう。操縦性に不満はなく、燃費も上々だ。狭い駐車スペースでスライドドアを開けて子どもを降ろす。慌ただしく買い物を済ませ、両手に抱えたナイロン袋を車内に放り込んで、ぐずる子どもをなだめて座らせる――。

 そんな、たわいないが尊い日常を支える大事な道具立てとして、使う上での余計なストレスや不安、不要なコンプレックスを感じさせないで黒衣に徹する生活ツール。そう解釈すると、他に望むものが思い浮かばないぐらい高い完成度を誇る。

 ミニバンから軽ワゴンまでフルレンジで車種展開するがゆえの、迷いがなく穴のない企画開発力と高い生産精度。そこにトヨタグループの底力を垣間見た。(北林慎也)

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