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 米空母艦載機の発着訓練(FCLP)の移転先として挙がる無人島「馬毛(まげ)島」を抱える鹿児島県西之表市長選が、22日に告示される。容認派、反対派の計6人の無所属新顔が出馬予定で、誘致による経済効果か、基地のない暮らしかをめぐって市は二分している。

 種子島で最も北に位置する西之表市まで、鹿児島市から高速船で1時間半余り。「歓迎 自衛隊・FCLPを馬毛島へ」「馬毛島に訓練基地 絶対反対です」。市内にはFCLPの賛否を訴える看板が目につく。

 馬毛島への訓練移転が公になったのは、2011年6月の日米外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)。移転に伴い、防衛省は訓練施設の維持や管理は自衛隊が担い、種子島に官舎を整備するとした。この政府方針に対し、長野力市長と市議会はこぞって反対を表明。市民の反対署名は約1万人に及んだ。

 昨年、長野市長が引退を表明。後継指名をせず、今回の市長選にこれまで容認派2人、反対派4人が名乗りを上げた。今月29日の投開票で、従来の市の反対姿勢を転換するかが問われる。

 「FCLPは馬毛島にはふさわしくないと考えている」。FCLPに反対する立候補予定者は今月12日の集会で、こう主張した。一方、容認派の予定者は「自衛隊員やその家族が種子島にくることになり、市民税などが入る。まちが活性化し、人口減少に歯止めがかけられる」と訴える。

 ただ、訓練移転が公になった約5年半前に比べ、有権者は揺れている。人口減に歯止めがかからず、商店街には空き店舗が目立つ。

 「島には財源も必要で、馬毛島への訓練移転は百%反対とは言えない」と語るのは産業・一般廃棄物処理業を営む仁礼(にれい)正章さん(38)。訓練により、事故の危険性などを考えると抵抗感もあった。ただ3人いる子供のことを考えると、将来への不安から、反対から容認に転じた。

 特産品である安納芋(あんのういも)をつくる元自衛官の長野正育さん(36)は「生活が苦しければ、賛成の立場をとる人もたくさんいると思う」と打ち明ける。

 業界団体の対応もさまざまだ。地元の建設業協同組合は、容認派の1人に推薦を出した。建設業の売り上げは縮小傾向の一途をたどり、組合員は20年ほど前の約1千人から約400人ほどに減少。建設業関係者の40代男性は「自衛隊がくれば市が活性化する。プラス面の方が大きい」。

 種子島漁業協同組合は、推薦依頼があった容認派1人、反対派3人を推薦し、事実上の自主投票となった。

 一方で、昨年末に沖縄県名護市沖で起きたオスプレイ事故をきっかけに、不安を募らせる人もいる。

 翁長雄志(おながたけし)・沖縄県知事は昨年7月に米軍普天間飛行場のオスプレイなどの訓練移転先として馬毛島を視察。5カ月後にオスプレイが大破する事故が起きた。

 馬毛島を対岸に臨む住吉地区に住む農業男性(87)は「基地を造ったら、オスプレイの訓練に使われるに決まっている。これまで通り、安心できる暮らしを続けたい」と語る。(岡村夏樹)

立候補予定者とFCLPへのスタンス

 榎元一已氏(63)▽元市議 反対

 小倉伸一氏(63)▽元市議 反対

 瀬下満義氏(65)▽元市議 反対

 浜上幸十氏(66)▽元市議 容認

 丸田健次氏(58)▽元市議 容認

 八板俊輔氏(63)▽元新聞記者 反対

※50音順

     ◇

 〈馬毛島〉 種子島の西約12キロにある約8平方キロの無人島。島のほぼ全域は開発会社「タストン・エアポート」(東京都)が所有する。2017年ごろまでに完了が予定されている米軍厚木基地(神奈川県)から岩国基地(山口県)への空母艦載機部隊の移駐に伴い、硫黄島(東京都)で行われていた空母艦載機の発着訓練(FCLP)に代わる場所として、2011年の日米外務・防衛担当閣僚会合(2プラス2)の合意文書に明記された。防衛省は昨年、双方が不動産価格を鑑定したうえで交渉する内容の覚書を同社と締結し、島の買い取りに動き出している。

「荒野」に伸びる十字の滑走路

 1月中旬、朝日新聞のヘリで、馬毛島を上空から見た。近くの緑豊かな屋久島とは対照的に森林が切り開かれ、平坦(へいたん)な茶色い地面が続く「荒野」のような光景が広がっていた。その中心には、南北4200メートル、東西2400メートルの十字形に交わる滑走路。中央には、島の大半を所有する開発会社「タストン・エアポート」がチャーターした小型機が1機とまっていた。

 馬毛島はこれまでにレジャー施設や石油備蓄基地、宇宙往還機着陸場、核燃料貯蔵施設などの構想が浮かんでは消えた。滑走路は2000年以降、同社が森林を伐採し造成した。今はFCLPを誘致したい考えだ。

 1980年に無人島になった馬毛島だが、東側の港には6階建ての建物があり、近くで何かの作業をする人影が見えた。同社によると、建物は事務所でほかにも社員用の宿舎があり、現在は許可なく島に立ち入る人を見張るためなどに、社員数人が常駐しているという。この島にしかいないとされ、固有亜種で絶滅のおそれがあるとされている「マゲシカ」の姿も確認できた。(島崎周)