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 感染制御チーム(ICT)にとって「空気感染」する病原体はもっとも厄介なものです。「空気感染」とは、前回お話ししたせきやくしゃみから生じた飛沫(ひまつ)(病原体を含む水分の粒子)から水分が蒸発し、フワフワと空気中に漂っている非常に軽い微粒子(=飛沫核(ひまつかく))を吸い込むことで感染することを言います。

 空気感染する病原体は、以前にお話しした「接触感染」や「飛沫感染」でも当然感染します。その病気の代表が麻疹(はしか)、水痘(水ぼうそう)、結核です。病院には抵抗力の弱い人がいますから、これらの病原体に感染した患者さんに入院してもらって治療する場合には、一定期間隔離する必要があります。

 治療にあたる医療スタッフがつけるマスクも普通のものではダメで、かなり目が細かく、かつ静電気を利用して微粒子を捕獲する特殊なマスクの着用が義務付けられます。

 ちなみに、一時期、世間の関心を呼んだエボラ出血熱、MERS(中東呼吸器症候群)や、新型インフルエンザは飛沫感染です。それでも重症化が予想されるエボラ出血熱やMERSの場合、患者は厳重に隔離されます。ノロウイルスも、感染者の嘔吐(おうと)物や下痢便の消毒処理が甘いと、それらが乾燥した後に空気感染すると言われています。

 空気感染する麻疹、水痘や、飛沫感染の風疹については、子供の時実際にかかった、あるいは予防接種を受けたという方が多いと思います。昔は「一度かかったらもうかからない」と言われていました。

 しかし近年、病歴や予防接種歴があったとしても、成人になってから麻疹、水痘、風疹にかかってしまう人は珍しくなく、地域的な大流行が散発しています。その原因の一つとして、ワクチンを1度打っても数%の人には十分な免疫がつかないことが知られています。

 さらに大きな理由としては、それらのウイルスに対する免疫の低下が考えられます。昔はあちこちで麻疹・水痘・風疹は流行していたので、予防接種を打った後も、実は生涯に何回となくそのウイルスが体内に侵入していたのです。自然の予防接種を何回も受けていたようなものです。そのため、免疫反応の刺激とその増強によって、ウイルスに対する免疫が十分に備わったのです。

 ところが、現在の日本はあまりに環境衛生がよくなり、感染者も少ないため、こうしたウイルスと接触する機会が少なくなりました。そのため幼い時に1回の予防接種を受けても、その後一度も免疫反応が刺激されないまま10~20年もたつと、もう免疫(抗体の量)がほとんど無い状態になってしまうのです。

感染経路別の主な感染症

 (A)感染の種類

 (B)具体的な感染経路

 (C)代表的な感染症

     *

 (A)接触感染・経口感染

 (B)手、ドアノブ、便器、物品などの接触や、飲食物による感染

 (C)ノロウイルス、皮膚や目の病気、性感染症、MRSA、食中毒など

 (A)飛沫感染

 (B)咳やくしゃみなどのしぶき(飛沫)が目や口に入り感染

 (C)かぜやインフルエンザなど多くのウイルス感染症

 (A)空気感染

 (B)病原体が空気中を浮遊し、それを吸いこむことで感染

 (C)結核、麻疹(はしか)、水痘(水ぼうそう)など

<アピタル:弘前大学企画・今こそ知りたい! 感染症の予防と治療>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/hirosaki/(弘前大学大学院医学研究科臨床検査医学講座准教授 齋藤紀先)