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 作家村上春樹さん(68)の新作長編小説「騎士団長殺し」が24日、2冊同時に発売される。長編は、名古屋が舞台として登場した「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」以来4年ぶりだ。物語の内容はいっさい明かされておらず、書店やファンの期待は膨らんでいる。

 村上さんは毎年ノーベル文学賞が期待され、発売前から大ヒットが確実な数少ない作家の一人。作品に登場したクラシック曲のCDがヒットするなど影響力は大きい。

 複数巻の本格的長編は「1Q84」以来7年ぶりになる。出版元の新潮社は、初版では異例の各50万部を用意。予約が好調で発売前の重版を決め、第1部を20万部、第2部を10万部それぞれ増刷する。出版不況に苦しむ書店にとって、待望の新作だ。

 「村上さんの作品は間違いのないコンテンツ。今回はタイトルも刺激的で、インパクトも十分だ」。名古屋・栄の丸善名古屋本店の担当者は興奮気味に話す。

 約1千部が当日朝に入荷予定で「売り切るのに1週間もかからないだろう」。売り場の目立つ棚一面にこれまでの村上さんの作品を並べてPRし、「過去の作品への関心も高まるはずだ」と期待する。

 開店前の「出張販売」を計画する書店も。名古屋駅前の星野書店近鉄パッセ店は、新作のタイトルを背中に入れたそろいの上着を新調。当日朝、開店より3時間早い午前7時ごろから店舗の入る商業施設1階の通路などで、通勤客らに売り出す予定にしている。

 村上さんの新作は装丁も含め、タイトル以外は伏せられたまま発売されるのが恒例だ。今回もいまのところ、「第1部 顕(あらわ)れるイデア編」「第2部 遷(うつ)ろうメタファー編」のタイトル公表のみ。ネット上では臆測が飛び交い、本格ミステリーを予想する声などが上がっている。

 村上作品の読書会を開く「HARUKI会」を主宰するセラピーサロン経営の加藤仁基(ひろき)さん(37)=名古屋市=は「ファンタジー色が強い作品になるだろう」と予想する。加藤さんによると、これまでファンタジーとリアリズムの作品が交互に発表される傾向が強いという。

 タイトルにある「殺し」に着目する。「過去の著作の中の村上さんの発言などから、直接的な殺人ではなく、精神的な意味でのシンボリックな『殺し』を意図しているのではないか」とみる。

 文芸評論家で「村上春樹はくせになる」の著書がある愛知淑徳大の清水良典教授は「小説のタイトルとしては異色で、海外での翻訳や評価を意識している。1部と2部が同時発売された『ねじまき鳥クロニクル』や『1Q84』と同様、第3部が出る可能性もある」と指摘し、こんな読み解きを提示する。

 「タイトルから思い浮かぶのは(騎士長が殺される場面が描かれる)モーツァルトのオペラ『ドン・ジョバンニ』。オペラの騎士長はジョバンニが誘惑する女の父親役で、1Q84などで間接的に描かれた『父親殺し』の主題が、改めて正面から語られるのではないか。長い間抑えてきた父親との関係性をモチーフにしているのかもしれない」(滝沢隆史)