[PR]

 今回は前回に引き続きノロウイルスのお話です。

 あなたが下痢におそわれ、職場の上司にそれを伝えたとします。上司は「職業柄ノロウイルス感染だと大変なので、病院で検査してもらってきなさい」と言うかもしれません。

 しかし、病院に行ってそのことを話しても、ほとんどの場合、検査に公的医療保険が適用されません。

 ノロウイルスの検査には迅速診断キットと呼ばれる検査法がありますが、保険が適用されるのは、「3歳未満の乳幼児、65歳以上の高齢者、がん患者や臓器移植を受けた患者、免疫抑制剤を投与中の患者などで、ノロウイルス感染が疑われる」場合に限られます。

 保険がきかなくてもやって欲しいという人は、病院にもよりますが5千円程度で検査を受けることはできます。しかし、私には一般の人があえてこの検査を受けることを勧められません。その理由は、「検査結果がたとえ陰性でも、ノロウイルス感染を否定することはできない」からです。

 すべての検査には「感度」というものがあります。ノロウイルスの迅速診断キットの感度は約92%です。これは、「100人のノロウイルス感染者のうち約8人は検査結果が陰性となってしまう」ことを意味します。検査の感度は、実施のタイミングによっても変わるので、現実には感度はもっと低い数字になると思います。

 したがって、あなたが医療機関や食品を扱う業界などで働いている場合、症状があるのに、「病院の検査で陰性だったから」と言って普通に仕事をすることは非常に危険な行為なのです。迅速診断キットより精度の高い遺伝子検査もありますが、すぐには結果が出ません。しかも、自費だと何万円もかかるので、下痢をするたびにその検査を受けるのは現実的ではありませんし、個人で費用を負担すべきものでもないと思います。

 判断は難しく勇気もいることですが、医療や食品関係の仕事に関わる人はとくに、「症状があり、ノロウイルス感染が疑われる時点で休職する」のが原則です。昔は「少しくらい体調が悪くても仕事を休まない」ことが美徳とされていましたが、現代では逆です。まして、体調が悪いことを隠して仕事をするのはとても危険なことです。

 ノロウイルスが原因でないウイルス性胃腸炎やインフルエンザも同様ですが、職場に迷惑をかけると思って我慢したり、黙っていたりすると、後から本当に大変な迷惑をかけてしまう可能性があるのです。

 この連載で何度も繰り返していますが、日頃からの手洗い、とくにトイレ後と食事前は必ずせっけんでしっかりと手を洗うことが重要です。職場の管理者は、トイレなどでの手洗いの後に使うタオルは使い捨てのペーパータオルとし、アルコール消毒剤も併せて設置することをぜひ検討してください。

<アピタル:弘前大学企画・今こそ知りたい! 感染症の予防と治療>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/hirosaki/(弘前大学大学院医学研究科臨床検査医学講座准教授 齋藤紀先)