『震災6年 石木幹人さんからのメッセージ(岩手県陸前高田市)』
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被災地からのメッセージ2017(4)

 人口約24000人のうち1757人が東日本大震災の犠牲になった岩手県陸前高田市。市街地にあった県立高田病院は、大津波にのみ込まれた。患者やスタッフとともに病院屋上に避難し、今は市立国民健康保険二又診療所に勤務する医師、石木幹人さん(69)を訪ねた。復興途上にある陸前高田から見えてくる日本の医療や介護の課題はないのか、今暮らしている仮設住宅の集会所で聞いてみた。

高齢化のスピードに追いつけない

 気仙川が海に注ぐ地帯に開けた陸前高田市の市街地。リアス式海岸という地形もあり、10メートルを超える津波が襲ったところもあった。4階建ての高田病院でも、4階の病室まで浸水した。患者やスタッフらは、屋上に避難。翌朝、重症者から順番にヘリコプターで救出された。

 今、旧市街地は大規模な盛り土工事が行われ、その面影はない。一部では、大型商業施設の開業準備が始まっている。陸前高田市内には、「復興住宅」とも言われる市と県の災害公営住宅895戸が計画され、2月末までに761戸が完成した。2017年夏ごろまでにはすべて完成する見込みだ。盛り土された地域の区画整理事業も大詰めを迎えている。

 石木さんも、震災で妻たつ子さん(当時57)を亡くした。今は、内陸部にある仮設住宅で独り暮らしをしている。あれから6年、陸前高田市の医療や健康、介護はどう変わったのか、尋ねた。

 「高齢化の波がひたひたどころでなくて、どっぷり津波のようにざっぷり来ている感じがしますね。その対策が全く追いついていないという状況なんじゃないかなと思いますね」

 市の人口は2017年2月28日現在19811人で、このうち65歳以上の高齢者は7342人、高齢化率にすると37%だ。震災前は、33%で、人口減と高齢化率の上昇が急速に進んでいることが分かる。

 石木さんは、何が追いついていないとみているのか。

 「具体的な(在宅医療と介護の)連携の話までいっていない。勉強会を開いたりすることは頻回にやっていて、(参加者のケアの)レベルは多少上がってきていると思うんですけど、効率よく動くようにまだなっていない」

 「マンパワー的なことを言えば、地方の過疎地になればなるほど家屋が点在している場所がすごく多くなるんですね。そういったところで『在宅』『在宅』って言う政策を国が立てているわけですけど、それはすごく効率が悪い。だって、私が二又診療所から訪問診療に行っているところは、遠いところだと(車で)片道30分ぐらいかかるんですよ。往復で1時間、診察時間が10分だとしても1時間以上かかっちゃうんですよね。その間、診療所を空けることになるわけですから、すごく効率が悪い。そういったところが、地域のいろいろなところにあるわけですから、医療もそうですけど、介護もそういうところに(サービスを届けに)行くことがものすごく大変効率が悪い」

 リアス式海岸で山が海岸近くに迫るが、三陸海岸の自治体を歩くと、どこも内陸部を抱えており、津波の被害を受けなかった地域に住む人も少なくない。東京や神奈川、埼玉、千葉といったような大都市圏のベッドタウンのように、利用者が密集して暮らしていない。急激に人口減と高齢化が進む地域の中でも、特に東北地方はもともと医療や介護に携わる人たちやサービスを提供する医療機関や介護事業所が少ない。取り組もうとしても、効率が悪くなり、一部地域ではサービスが提供できない状態になっている。

 陸前高田市でも、内陸部で雪深い地区の一部は冬の間、在宅サービスが行き届かないことがあるという。このような現実を日々見ている中で、石木さんが考えているアイデアがある。災害公営住宅の有効活用だ。それを思いついた背景には、被災者の希望を募って災害公営住宅の建設戸数を決めたが、空室が多いことがある。

空室多い災害公営住宅

 市によると、市が管理する460戸のうち、入居しているのは362戸にとどまる。県が管理する301戸のうち、入居しているのは235戸。合計164戸が空室だ。市の担当者は「(空室の理由について)分析していない」というが、別の行政関係者によると、家賃がかからない仮設住宅になるべく長くいたいと考える人がいるなど様々な理由が考えられるという。

 石木さんは「(災害公営住宅に入居する人は)息子たち、子どもたちが(陸前高田に)帰って来ないことが確定してしまったので、家を建てても仕方がないという人が多かった」という。このような65歳以上の高齢者世帯が多く、10年後、20年後には、さらに空室が増えていくと見ている。さらに、区画整理事業が終わり、自宅の自力再建までの間だけ災害公営住宅に住んでいる人がいるという。

 「そういうところをどう活用するか」「地域の中で、(在宅医療や介護のサービスが届かない地域から市街地に)移住してくるような施策がリーズナブルなんじゃないかなと思っています」

 災害公営住宅の空室は無駄ではなく、その空室を活用してサービス付き高齢者住宅のようなものにしていけばいいと提案する。訪問看護や介護の24時間サービスが立ち上がれば、陸前高田の在宅医療や介護は大幅に改善されると考える。

 「(このように整えられれば)最期のみとりまで、そこでいいという人が出てくるんじゃないかなと思うんですね。そういうことを今から作っていかないといけないと思うんですよね」「行政をつかさどる人たちが危機感を持って考えていれば、話は全然違ってくると思うんですよね」

 人口減と高齢化、そして医療や介護の従事者不足は全国で共通した問題だが、東日本大震災の被災地では市街地の災害公営住宅の有効利用で、集住化による効率的な医療や介護サービスを提供するモデルになれる可能性を秘めているという。石木さんは復興途上だが、急速に進む高齢化対策と同時に行うことができるのではないか、としている。

海見ると気分が悪くなる

 6年経っても消えないものもある。

 石木さんは青森県出身で、海の近くで育った。陸前高田での暮らしも違和感がなかったというが、「被災した後は、海を見るのがすごい嫌で」と話す。2011年夏、青森市の港の前にある施設の海の見えるエレベーターに乗っていたら、気分が悪くなってしまった。陸前高田でも、海側の道路を使うと気分が悪くなるため、今でも山側の道路を使っている。

 これからどうするのか。

 「(これまで地域の医療職と介護職の連携のために勉強会を開くなど)地域包括ケア的なことは、結構、いろいろな思いがあって動いてきたので、それが完成の域まで達していないということは少しあるんですよね。だから、あるところまで見極めたいなという思いがあるんですね」

 

■■石木幹人さんからのメッセージ「陸前高田市の現状」■■■

 陸前高田市は、被災から6年を経過しようとしている。がれきに覆われていた被災直後の状況は、被災を記憶に刻むために残された被災した建物以外にはわからなくなっている。高台移転のために山を削り、その土砂が被災したところにかさ上げされた。高台には被災前にはなかったマンションのような復興住宅が立ち上がり、造成された住宅地には、住宅が建ち、住み始めている。仮設住宅からの引っ越しに伴い、仮設住宅の集約化が行われている。かさ上げした土地では、ショッピングセンターの建設が始まり、秋までには完成の予定で、本格的な市街地作りが目に見えるようになってきた。

 被災直後から避難所を巡回し、被災に伴う健康維持についての啓蒙(けいもう)活動を行ってきた。まずは運動不足による生活不活発病予防については、ラジオ体操の勧めや被災前から行われていた「玄米にぎにぎ体操」の実施などの効果によって、エコノミー症候群の予防や抑うつ状態の改善も期待できると話した。

 避難所では、あまり交流のない人たちが同じところに寝泊まりするため、お互いに気を使いながら住みやすいコミュニティーを作る必要がある。コミュニティー作りは、避難所の段階、仮設住宅に移った段階、さらに再建された住宅に移った段階の計3段階あるため、それぞれで良いコミュニティーが作れるように方法を覚えることが大切であると話しした。

 今、3段階目のコミュニティー再生の時期を迎えている。

 これまで、避難所から仮設へ、仮設から本設(復興住宅や自力再建した住宅)へとそれぞれ目標があり、生活の張りもあったが、本設に転居してからも課題はある。これからの生きがいについてしっかりとした目標があればよいが、そうでない人たちもいるように思う。特に高齢者は、年々体調の変化が気になり、それでなくても抑うつ気分になりがちである。具体的な疾患が出現し、病院通いが始まるとさらに心細くなる。

 下和野地区に建設された復興住宅は、約120戸が入居できる。高齢化率が40%近くで、高齢者のみの戸数も40%近くある。1階に市民交流プラザが開設された。平日は朝から夕方まで開かれ、事務担当の職員が常駐し、必要があれば看護師や臨床心理士、医師へつながるルートが出来上がっている。復興住宅の住民だけでなく、隣接する地域の住民も利用している。時々昼食会などのイベントも開かれ、集いやすい雰囲気を作っている。

 中田地区にできた復興住宅にも同様の施設が立ち上がり運用を開始している。こういった施設は、復興住宅のみでなく、新しく出来上がった高台の住宅地にも作っていく必要があると思っている。しかし、集会所の確保や、運営に携わる人材の確保、給与などの経済的基盤も必要であり、今後の大きな問題である。

 私は今、陸前高田市矢作町二又地区にある国民健康保険二又診療所に勤務している。高田市街地から10キロほどのところにある中山間地域で高齢化率が40%を超え、地域によっては50%超えの限界集落もある。被災を免れたとはいえ、身内の人的被害は多くの家族が経験し、それなりに心的被災を受けている。高齢者のひとり暮らしや二人暮らしが多く、医療や介護の必要度が高い。しかし冬になると積雪が1メートルになる地域もあり、医療や介護を届けるのが難しい地域もある。冬季に医療・介護が供給できる地域に転居する方法などを考える必要がある。復興住宅はまだまだ空きがあり、高齢者のみの世帯が多いことから、それらの有効活用を考えることが必要であろう。そのための基盤として、24時間体制の訪問診療・訪問看護・訪問介護の早期実現が望まれる。

<アピタル:東日本大震災・被災地からのメッセージ>

http://www.asahi.com/apital/special/shinsai/(岩崎賢一)

岩崎賢一

岩崎賢一(いわさき・けんいち) 朝日新聞記者

1990年朝日新聞社入社。くらし編集部、政治部、社会部、生活部、医療グループ、科学医療部などで、医療を中心に様々なテーマを生活者の視点から取材。テレビ局ディレクター、アピタル編集、連載「患者を生きる」担当を経て、現在はオピニオン編集部。『プロメテウスの罠~病院、奮戦す』、『地域医療ビジョン/地域医療計画ガイドライン』(分担執筆)