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村上春樹『騎士団長殺し』 小野正嗣さんが読む

 どのような書き手にも偏愛する主題、舞台設定、人物造形がある。それらが異なる作品を通じて繰り返され、その「作家らしさ」を形作る。

 その意味で、本作はいかにも「村上春樹らしい」と言える。主人公は男性で、妻に去られるが理由はわからない。だが性的な関係には困らない(簡単に別の女性と関係を結ぶ)。何らかの意図を隠し持つ分身的人物と謎めいた美しい少女が現れる。周辺には不思議なことが立て続けに起こり、それはどうやら遠い歴史の悲劇(今回はナチスによるオーストリア併合と日本軍による南京大虐殺)と無関係ではない。主人公は「穴」を通じて、この現実世界と「壁」や「闇」によって隔てられた異世界へと分け入る。その通過体験を通して、二つの影、つまり歴史の集合的暴力と個人に潜在する暴力と象徴的に向かい合う。何かが決定的に失われたことを知ると同時に、また別の何かを手に入れることで、世界への信頼が回復され、あたたかな光に包まれた肯定的な展望が開かれる。

 この作家らしい主題が満載され、世界中で読まれるハルキ・ムラカミの作風を知りたいと思う新しい読者にとっては申し分のない作品だ。作中では、人物たちの乗る車の車種や特徴がていねいに描かれるが、本作を読んでいると、随所でスペックが上がったハルキ・ムラカミという車の最新モデルを手にしているような気になる。ハルキの代名詞とも言える卓抜なメタファーから、句読点の打ち方、全体の構成に至るまで、心をこめてデザインされ、丹念に仕上げられている。乗り心地・読み心地は最高だ。

 でもこれでは自動運転では? …

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