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 貧困問題の解決の糸口をつかむために、メディアはどんな役割を果たせるのでしょうか。朝日新聞デジタルのアンケートに寄せられた、報道についての注文の一部を紹介します。記者たちも「どう報じれば」と自問しつつ取材してきました。それぞれがいま感じることや、これからの取材について書きます。

読者から寄せられた声は

●「高校で教師をしています。貧困状態の子どもを目の前にしたとき、親に対して『どうしようもない親だ』と批判的な気持ちがわいてくることはしょっちゅうありました。しかし、批判してもなんの解決にもならないどころか、家庭を孤立させてしまい、『困っている子ども』が『困った親』になっていく姿をたくさん見てきました。『困っている子』が『困った親』にならないためには、親以外にもたくさんの人の手をかけることが大事だと考えています。そして、それを可能にするために、どんな子育てもどんな人生も、その人の生きてきた歴史は『否定されない』という安心感が必要ではないかと思います。すべての人の人生を応援する報道を期待します」(北海道・40代女性)

●「報道には『予防』の観点が不足していると感じます。望まない妊娠(不倫含む)や安易な離婚など貧困に陥りやすい状態をどう防ぐかも探るべきではないでしょうか。10代までの実用的な性教育や虐待加害者にならないための予防教育(輪禍防止の取り組みが参考になりそう)などが考えられます。私自身も貧困母子家庭で育ちましたが、離婚した父方との交流を保てたため祖父母からの支援を受けて大学に進学でき、現在は待遇に問題のない会社で働いています。双方の親が離婚後も子どもへの精神的・経済的義務を果たせるよう、他国のような養育費の強制徴収や、離婚前の面会交流に関する届け出の義務化の検討が必要と思います」(北海道・40代男性)

●「私は子供の貧困に関する報道が、まだまだ足りないと思います。支援に反対する人々は、今の子どもたちが置かれている状況が見えていません。分からないのではなく、そもそも目に入っていないと感じます。『仕事を選ばなければいい』という意見がありますが、本当に仕事を選ばなかった(選べなかった)人たちがどんな職に就いているか、想像もできないのでしょう。そうした人々は子どもの時から、親の代から貧困です。努力をするにも、努力ができるだけの環境が必要なのです。そのことを、もっと社会に周知させなければいけないと思います」(福井県・20代男性)

●「日本の教育は家庭の資金負担が大きいと思う。親の収入で子供の進路の幅が決まってしまうのは、おかしいと思うし、このままでは格差社会はなくならない。子供のやる気や努力で進学が決まるよう、学費はもっと国が負担すべき。報道にはかわいそうだから、というくくりにならないようにしてもらいたい。社会全体の問題なんだと訴えてもらいたい」(東京都・40代女性)

●「様々な事情により貧困に陥ってしまっている子供がまともに食べられて、ちゃんと学校にも行けて、希望するなら大学へも進学できるよう、そして社会の一員として活躍できるよう、支援が必要だと思います。以前に掲載された『子供と貧困』のような特集をたびたび組んで、この問題を世間に広めて頂きたいと思います。同時に、支援を募る窓口を設けていただければ、寄付をしたいと思いますし、同時に、当事者に対して励ましの手紙・メールなどを送る窓口を設けていただきたいと思います」(千葉県・40代男性)

●「メディアには『子どもの貧困』を生み出している背景や社会の仕組み(大企業優遇のために実施された雇用形態の変化、政治による所得の再配分策の欠如など)を的確に捉えて勇気を持って報道して欲しい」

(大阪府・50代男性)

記事を通して結びたい、地域の輪

 「お金がない。看護師になりたい娘に受験させてあげられるかめどが立たなくて本当につらい」。昨夏、取材でお世話になった介護職のシングルマザーのため息を聞いた時、もどかしさと情けなさで言葉も返せませんでした。

 懸命に取材し、記事を書いてきたものの、子どもの貧困の原因は複合的で、解決は一筋縄ではいきません。今この時も過酷な状況下で成長している子どもたちを思うと、迅速な改革が必要ですが、現実は厳しい。

 そんな中、朝日新聞が2月に開いた「リアルフォーラム」では、孤立する親子を守る「おせっかいの輪」を地域でどう作っていくのか、官民問わず様々な立場の人が出会い、語り、学びを持ち帰りました。財政も限られる中、人が出会い、つながって子どもたちを守るための知恵を出し合う場に、可能性を感じました。新聞社の大切な役割のひとつだと思いました。記事の力と合わせて、こうした場作りを、コツコツ続けていきたい。(山内深紗子)

子ども食堂は出発点

 子ども食堂で中学3年生の女の子に出会いました。「シングルマザーのお母さんは時々帰ってこない。働いているきょうだいの分もご飯を作っている」と話していたけど、子ども食堂で配膳を手伝っていました。「来週も来てね」とおばちゃんたちが彼女に声をかけました。もうすぐ高校生だね。

 沖縄、九州、関西、首都圏と、いくつもの子ども食堂を訪ねて驚きました。並ぶおかずも食べ方も広さも、みんな違う。だけど、同じものが見えました。何かしなければという、いてもたってもいられない思いがつくっている場だということ。

 子ども食堂は食事を出しておしまいではありません。ここを起点に地元の人たちがよりよい暮らしを目指していく。そんな場を見すえた、次のステージを追いかけていきます。(河合真美江)

社会の闇の複雑さ、実感

 貧困が原因で風俗店で働く女性や「性の商品」として買われる少女、夜のまちで働く若者の取材を続けています。記事に対しては驚きや共感、社会への怒り、特殊事例だ、自己責任だ、といった多様な意見が寄せられ、問題の複雑さを感じます。

 こうした取材では貧しさ以外に、親による虐待、彼氏からの暴力、大人による拘束や搾取などの話をよく聞きます。貧しさより、他の問題の方がはるかに深刻という場合も多い。社会への不信感などから、公的な助けを求められず、じっと耐えるか逃げ出し、そこを狙う大人に絡め取られてまた別の被害に遭うケースも少なくありません。

 貧困が原因で問題が起きるのか、問題が貧困を招くのか、場合によるのか――。答えも、解決策も見いだせませんが、諦めずに手をさしのべる社会であって欲しいと願います。(後藤泰良)

男女の不平等に向き合う

 子どもの貧困は親の貧困です。先月、厚生労働省が発表した男女の賃金は、男性を100とすると女性は73。これでも格差は過去最小です。

 母子家庭の8割の親は働いています。家族の時間を増やすには労働時間を抑えるしかなく、教育費が大きな負担です。養育費をもらえているのは2割弱。払わない側はネグレクトと言われないのに、仕事で不在がちだと「母親なのに」と言われる。

 男女の力関係や法制度のあり方を含め、子どもの貧困と強い関係がある男女の不平等に、真正面から向き合わないといけない。それが、子どもの貧困をなくせる社会、持続可能な社会につながる。この問題を取材し始めてから9年間、痛感してきました。

 諸外国での取り組みも取材しましたが、単純な解決法はどこにもありません。どんな社会を次世代に残したいか、一人ひとりが考え、声に出し、共有する。そのために何でもやりたいと思います。(中塚久美子)

「連鎖断つ」、言うはやすく行うは難し

 「高校やめる。働いた方がお金稼げるし」。昨秋、1年近く取材を続けていた高校2年生の女子生徒からそう告げられました。母子家庭で育ち、小学生の時から家事や弟の面倒を任されてきた彼女。高校入学後はテスト期間中もアルバイトを入れ、家計を支えていました。

 若い頃は働き口があっても、統計を見れば高校卒業と中退では、生涯収入に差がつきやすくなります。考え直すよう伝えましたが、彼女の意思は変わりませんでした。自分の非力さを痛感しました。「貧困の連鎖を少しでも防ぎたい」。言うはやすく行うは難し。でも、あきらめたくない。国も、支援に関わる人も、私たちメディア関係者も、願いは同じだと思います。(石原孝)

現場訪れ、共に模索し続ける

 「事例を紹介するだけでなく、記者が現場を訪ねて子どもや親を直接取材しよう」。約2年前、大阪の記者を中心に、取材班が発足しました。書きっぱなしにせず、解決策も模索する。ここに登場していない記者も含めた取材班は、その共通認識を大切にしてきました。

 10年ほど前、生活の苦しい親子を支える地域の人々の姿を取材した経験があります。しかし今回の取材では、当時よりはるかに多くの組織や団体が支援に関わっていることを知りました。社会の理解が進む一方で、事態の深刻さが増している証しでもあるのでしょう。

 子どもの貧困は、社会の貧困。私たちの問題だと感じます。貧困の原因は様々で、課題の所在も多岐にわたる。でも、いつでも弱い立場の子どもたちに、しわ寄せが及ぶ。書き切れていない課題は多く残っています。それぞれの記者が、取材を続けていきます。(小河雅臣)

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