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 認知症の本人でつくる「日本認知症ワーキンググループ」(JDWG)が14日、運転免許制度への「提案」を公表した。認知症対策を強化した改正道路交通法が12日に施行されたが、認知症と診断されたら一律に免許取り消し(停止)になる今の制度に疑問を呈した上で、診断だけでなく運転技能も客観的に確認した上で判断する仕組みの導入を求めている。一方、本当に安全運転が難しい人には、当事者自ら自主返納を呼びかける活動に取り組む意向も明らかにした。

 JDWGは2014年10月に設立された。認知症の当事者約30人が参加し、政策提言などに取り組んでいる。

 「認知症を発症している私たちにとって切実な課題が山積している」

 14日に東京・霞が関の厚生労働省で記者会見したJDWG共同代表の佐藤雅彦さんは、12日に施行された改正道交法についてそう語った。

 免許更新時などに受ける認知機能検査で「認知症のおそれ」と判定された75歳以上のドライバー全員に、医師の診断を義務づける。これまでは信号無視などの交通違反がなければ受診義務はなかった。

 そして、認知症と診断されれば公安委員会が免許取り消し(停止)処分をする。認知症が疑われるドライバーによる悲惨な事故も起きるなか、チェックを強化する狙いだ。

 提案では、医師が認知症と診断したドライバーをひとくくりにして免許返納につなげる今の制度について「認知症の正しい理解を社会的に求めている時代の流れに逆行する」ものだと指摘。本人が免許返納を恐れ早期受診を避けたり、医師に実情を伝えないようにしたりする懸念もあるとした。そのうえで診断のみによるのではなく、一人ひとりの運転技能を客観的かつ総合的に判定する仕組みの構築を求めた。

 これに関しては、認知症の関係学会からも、とりわけ初期の認知症の人の運転能力の判断は、医師の診断ではなく、運転の専門家による実車テストなどで見極めるべきだという見解が示されている。

 提案は5項目にわかれ、全部で21ある。その第1項目の冒頭には、「安全を守りたい」という言葉を掲げた。共同代表の藤田和子さんは会見で「危険を冒してまで、何がなんでも運転を続けたいわけではありません」と理解を求め、「私たちも安全な運転について一緒に考えていきたい」と話した。当事者抜きに対策や制度を検討するのではなく、一緒に議論を深めようとのメッセージだ。

 提案ではさらに、生計を維持するための就労、買い物や通院、社会的活動などのために運転が欠かせない手段としたうえで、免許取り消し後も当たり前に暮らす権利を守る観点からの検討と対策も求めている。

 そして、最後の項目で「『本当に』安全運転が難しいのであれば、運転はやめるべき」とし、そういう当事者にはJDWGメンバー自らが自主返納を勧める活動に取り組みたいとの意向を示した。さらに免許返納後の生活などについても当事者が本人の相談にのる活動を各地に広げたいとしている。(編集委員・清川卓史

運転免許に関する日本認知症ワーキンググループ提案

《1.安全を守りたい:社会と自らの安全を守り、よりよく暮らせる方策を一緒につくっていこう》

○社会の安全を守ることを、私たちは心から願っている。

○同時に、一人ひとりが自分の安全と暮らしを守っていく必要がある。

○危険を冒してまで、何が何でも運転を続けたいわけではない。

○当事者を抜きにではなく、わたしたちの体験や意見を聞きながら、多様な立場の人たちが、安全・安心によりよく暮らしていける方策についての議論を深め、現実的な方策を一緒につくっていこう。

《2.「認知症」を一括りにせず、新オレンジプランの基本方針に則った総合的な運転対策を》

○認知症を一括りにして、運転免許の返納を促すのは、認知症の正しい理解を社会的に求めている時代の流れに逆行する。

○認知症イコール危ない、免許返納を、という偏見や誤解が拡大しないよう、正しい理解と対応が進むことの推進が必要。

○新オレンジプランにある「認知症の人が認知症とともによりよく生きていくことができるような環境整備が必要」、「認知症の容態に応じた適時・適切な対応」という方針にそって、運転対策も拡充していく必要がある。

○また現在の運転の問題は、高齢者全般でおこりうることと、認知症に伴うことが混同されている。

○何が起きていて、何が必要か、丁寧に検討と対策が必要である。

○地域によって、運転の必要性や運転に伴う危険性、可能な対応等が大きく異なる。国全体とともに、それぞれの市区町村にて、当事者抜きで対策が進まないよう、「そこで暮らす認知症の人達」とともに、現実的な話し合いの場を設けてほしい。

《3.一人ひとりの運転技量等を確認し、総合的に判断する仕組みの構築を》

○客観的に運転技能を実際に判断し、総合的に判定できる体制の整備が望まれる。

○ペーパーテストや診断のみで判断されると、まだ十分安全に運転できる人に大きな不利益がおこり、気持ちの面でも深刻なダメージが生じ、認知症悪化の引き金にもなってしまう。

○医師の診断は重要だが、それを重視しすぎると医師に負荷がかかりすぎる。

○また、免許返納をおそれて、(早期の)受診をさけたり、医師に実情を正確に伝えない場合もあり、安全確保の遅れや適切な受療を損なう危険がある。

○本人が自分の運転技能を冷静に確認し、納得して返納に進めるような仕組みが必要。

《4.免許を取り消された後も、当たり前に暮らしていけるように》

○免許が取り消された後も、わたしたちの暮らしは続く。

○運転は、就労し続け生計を維持するためにも、また買い物や通院といった基本的な生活を営むためにも極めて重要である。加えて、人との交流や生きがいを保つための社会活動など、認知症があってもよりよく生きていくためには欠かせない手段である。

○免許返納だけが独り歩きせずに、当たり前に暮らす権利を守る観点から総合的な検討と対策が必要。それがあって初めて、わたしたちは安心でき、免許の自主返納ができる。

《5.「本当に」安全運転が難しいなら、当事者が当事者へ自主返納を勧める活動を》

○「本当に」安全運転がむずかしいのであれば、運転はやめるべき。

○自分たち自らが、当事者に向けて、社会と自らの安全を考え、免許返納をよびかけていく活動をしていきたい。

○同時に、免許返納後の移動や生活のあり方について当事者が当事者の相談にのり、免許返納のつらさを分かちあいながら地域社会にある支援とのつながりをつくり、返納が必要な当事者が新たな生活のスタートを切れるための架け橋となるよう活動を、国内各地に広げていきたいと考える。

(※言葉の表記は原文のままです)