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 朝日新聞の連載「小さないのち 道に潜む危険」(2月19日~26日朝刊)で子どもの交通事故について考えました。子の成長と事故の関わり、道路環境の問題点などを伝えたところ、遺族やドライバー、事故防止に取り組む人たちから多くの声が届きました。子どもを守るためにどうすればいいのか。読者の意見や専門家の提案を紹介します。

お茶の間で事故考える 高田邦道・日本大学名誉教授(交通工学)

 交通事故の死傷者をゼロに近付けるには、事故の情報を身近に感じてもらう工夫が必要です。自宅のある地区やその周辺でどんな事故があり、どうしたら防げるのか。住民はもっと知るべきです。

 私が携わった千葉県鎌ケ谷市の取り組みを紹介します。自治会や市役所、学校の関係者と私のような専門家が、事故防止に向けて知恵を絞りました。住民が事故に遭いそうになったヒヤリハットや、実際に事故が起きた場所を地図に記し、何が危険を引き起こすのかを考えました。

 大切にしたのは住民の視点です。時間帯に応じて車を進入禁止にするのか、速度を抑えるか。専門家が示した案から住民が選んだのは、ハンプと呼ばれるこぶを道路に設けて速度を落とさせる方法です。人身事故は半減、時速30キロ以上の車は対策前の約38%から約12%に減りました。

 昔は、交通事故の発生マップ作りも大変でした。今は技術が進み、データの活用も簡単です。家庭でも交通安全を親子で考えてもらえたら。そんな「お茶の間交通工学」を全国に広めていけたらと思います。

「車を入れない」対策も 久保田尚・埼玉大学大学院教授(都市交通計画)

 子どもの事故を減らす上で、まず登下校中の事故を根絶することを提唱しています。そのためにはドライバーのモラルに訴えるだけでは十分ではない。速度を出させないためのハード面の対策や、場合によっては「通学路に車を入れない」といったことまで考える必要があります。

 私は「ライジングボラード」と呼ばれる車止めの実証研究に取り組んでいます。決められた時間に路面から自動的に出てくるゴム製のポールで、新潟市で4月から、通学路の対策としては全国で初めて導入されます。車の通行を制約するので、住民の理解が欠かせません。新潟では私も地域の話し合いに参加しました。日本ではまだ知られていませんが、欧州では広く普及しています。

 車に速度を出させないため、ハンプを路面につける対策も有効です。昨年、国の技術基準が初めてできました。

 日本の交通安全対策は、子どもへの教育が中心でしたが、十分ではありません。通学路を安全な空間にするため、物理的な「切り札」も知ってもらう努力が求められます。

ひとごとだと思わないで 7歳の長女を事故で亡くした大熊干城さん(37)

 昨年9月に横浜市内で起きた交通事故で、小学2年だった長女(当時7)をなくしました。あれから半年になりますが、最愛の我が子を突然失い、残された家族の苦しみは今も続いています。

 長女の名前は、美依(みい)。ジャスミン茶が大好きで、活発な子でした。あの日、美依は母親と妹と一緒に、弟を保育園へ迎えに行きました。保育園の目の前にある信号機のない交差点で、右折してきたミニバンにはねられました。花壇の花に気を取られ、母親と一緒に横断歩道を渡ることができずに1人で待っていた時、車道側へ少し身を乗り出してしまったようでした。事故から18日後、1人で天国へと旅立って行きました。

 交通事故なんてひとごとだと思っていました。「あのときこうしておけば防げたのでは」という思いが今も頭の中を駆け巡り、自らを責め続けています。事故後、私は怖くてハンドルが握れません。

 ドライバーは4年前にも、右折時に事故を起こしていました。そしてまた、いずれは運転が許されるのでしょう。人身事故を繰り返しているのに、再び運転ができる今の制度には大きな疑問を感じます。

 ハンドルを握るすべてのドライバーに言いたい。事故は対岸の火事ではありません。いつ加害者になるのか、私のような被害者になるのかわからない。それを忘れずに、安全な運転をしてほしいと思います。

蛍光ベストで見えやすく 熊本県警大津署西原駐在所の宇佐川照孝さん(60)

 私は熊本県西原村にある駐在所の警察官です。小さな子どもたちを交通事故から守るために、私が発案した蛍光ベストの着用を呼びかけています。

 このベストは反射材付きで、ランドセルやリュックサックの上からも着ることができて、前後左右のどこからでも目立ちます。ランドセルカバーよりも見えやすく、効果的だと思います。メーカーによって、商品化もされました。

 仕事柄、事故を起こしたドライバーに話を聞くことがあります。多くは「相手が見えなかった」と言います。歩行者は自分を守るためにできることをやるべきです。ベストを着ることも、その一つ。「ここに人がいますよ」とドライバーに対してアピールするのです。

 駐在所がある西原村では、村内すべての小中学生約650人が登下校の際に、このベストを身につけるようになりました。熊本地震の復旧工事で大型車の交通量が増えていることもあったためでした。

 ベストの着用は、全学年で促しています。「恥ずかしいし、格好悪い」と子どもたちは思うかもしれません。それでも「事故に遭ってからでは遅い」と、丁寧に伝える必要があると思っています。

取材班に寄せられた意見

 取材班には、小さな子の親やドライバーなど、様々な視点から事故防止に向けた意見が寄せられました。

●「小1の長男の登下校が心配です。住んでいる鎌倉は道が狭いのに交通量が多く、幼稚園に自転車で送り迎えしていた時も危ない思いをしました。通学路は歩道が少ない上、観光客が多い。道を歩いていた子どものランドセルが車に接触したこともありました。事故が起きる前に、ガードレールや歩道の整備、通学時間帯の交通規制などの対策を望みます。下校時にはいまも迎えに行っています。子どもの自立のためにはやめた方が良いと思いますが、やめられません」(神奈川県・40代女性)

●「地域の通学路で登下校の見守りボランティアをしています。子どもたちには道路を横断する時は、手を上げるだけでなく、車が止まったのを確かめて、ドライバーの顔を見てから渡るように教えてほしいと思います。小さな子は車がブレーキをかけてから、どれくらいで止まれるのかわかりません。ドライバーも子どもの飛び出しは予測が難しい。車は急には止まれないのです」(千葉県・吉田智光さん 78歳)

●「交通事故について国内外の文献を調べ、ブログで考えを発信しています。米国ではスクールバスなど車での通学が多く、バスに乗り降りしている間、対向車線の車も停車するルールがあるそうです。日本では登下校は徒歩や自転車が中心です。交通事情が違う面もあると思いますが、事故防止の一つのアイデアとしてバス通学も検討してはどうでしょうか」(岐阜市・市川敏朗さん 83歳)

●「運転歴20年です。見通しの悪い道路では『きっと誰かが飛び出してくる』と速度を落とし、歩行者や自転車のわきを通るときは『急に倒れてくるかも』と気を引き締めて徐行しています。ドライバーは『予想外のことが起きる』と肝に銘じ、事故につながらないように常に心掛けるべきだと思います。最悪の事態が起これば、一生悔やんでも、悔やみ切れません」(千葉県・40代女性)

身近な事故防止のヒントを

 子どもは、自分の身を守る力が必ずしも十分ではありません。だからこそ、大人たちは、子どもの特性をもっと理解して行動することが求められています。親子で通学路を歩いてどこが危険かをチェックしたり、子ども向けに自転車の「運転免許証」を作ったり。家庭や地域で、やれることはたくさんあるのではないでしょうか。未来ある命を守るために、身近な事故防止のヒントを、これからも取材していきます。(津田六平)

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 ◆ほかに川村剛志、板橋洋佳が担当しました。

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