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 朝日新聞で毎月掲載中の「論壇時評」を支える論壇委員会には、6人の論壇委員がいます。いつもは実務的な会議をしているメンバーが今回特別に座談会を企画し、時評筆者の歴史学者・小熊英二さんも参加しました。テーマは「日本を良くするために一つ制度を変えられるとしたら?」。個性的な提案が並びました。

「保育と幼児教育の予算を拡充する」赤石千衣子さんの提案

 赤石 私の提案は、保育支援と幼児教育の予算を拡充することです。単に子どものいる家族の負担が軽減されるだけではなく、日本社会全体に良い影響が出るだろうと考えます。

 社会学者の柴田悠さんによれば、子育て支援の拡充は労働生産性や経済成長率の向上につながります。

 「どうせ少子化で子どもが減るから」という理由で、自治体が保育所の増設に及び腰になっているとも聞きますが、最近の日本総研の試算によれば保育所のニーズは2040年まで今の規模で存在し続ける。女性が仕事を継続できるようにするためにも、予算拡充が必要です。

 先日集会で、子どもを保育園に預けたいのに出来ない母親たちが真剣な表情で参加しているのを見ました。子どもが保育園に入れないという理由だけで彼女たちに就労できない1年を送らせるのは、あまりにもったいない。官製失業とも呼ばれています。女性の継続就労率が上がっていけば、シングルマザーたちの経済的な苦しさも軽減されていくと思います。

 小熊 「支援」の中身が議論になりそうです。「専業主婦を増やすことが最大の子育て支援だ」と言う人もいますよね。

 津田大介 社会学者の古市憲寿さんは、保育園の義務教育化を提言していた。

 赤石 「0歳は育休だとしても1歳からはみんな保育所に入ることができる」社会にした方がいいと思います。

 中北浩爾 高校の授業料無償化や大学生の奨学金よりも子育て支援にもっと注目すべきだと私も思うのですが、なぜそうならないのでしょう。

 赤石 自治体が及び腰なのです。少子化でいずれ保育所ニーズは去ると思っているうちに、ニーズがどんどん増えている。

 津田 建てても少子化で無駄になってしまうというコスト論はよく聞きますね。自民党などの政治家から見れば票にならないという面もあるでしょうが。

 小熊 待機児童問題は都市型の問題だが、国会議員は地方から選出されている割合が高い。また働き方も、妻が専業主婦をしているという議員が多い。そのため想像力が働きにくい、という問題もあります。

 井手英策 大学の授業料収入は3兆円規模です。そこでさえ無償化の議論が起きている。だから予算的には赤石さんの意見はもっと大胆に言ってもいいはず。保育園・幼稚園の自己負担は8千億円規模なのだから。

「生活保護の名称を変える」井手英策さんの提案

 井手 生活保護の呼び名を変えるという提案です。

 保護、看護、介護、養護……。どの言葉にも「守ってやる」「助けてやる」という考え方が含まれていて、それらが行政サービスの言葉に入っている。この意識を改革することがすごく重要だと思うのです。一見どうでもいい提案だと思われるかもしれないけれど、言葉やイメージが持つ力はものすごく強いから。

 イメージが重要だと最近感じたのは、神奈川県小田原市で生活保護担当職員のジャンパー問題を調べたときです。衝撃的だったのは、生活保護の担当現場に女性ケースワーカーが異常に少なかったこと。職員が受給者に悪いヤツというイメージを持ち、「危ない職場だ」と認識されていたのです。

 (呼び名については)たとえば「生活基本保障」とかを想定しています。

 津田 前例はありますよね。ドイツが「失業手当Ⅱ」という名称にし、韓国も変えたとか(「国民基礎生活保障」)。コスト無しで偏見が減ったと聞きます。

 木村草太 「安倍晋三記念補助金」とか(笑)。

 井手 財政の議論で「国民負担率」という言葉が使われて、みんな「下げればいい」と考えます。でも呼び名がもし「国民受益率」だったら、みんな「上げたい」と言うのではないか。言葉の使い方について議論をすることで人々の認識が変わっていく。そういう効果を期待しています。

 赤石 井手さんの提案は、生活保護の捕捉率(受給条件を満たす人々のうち実際に受給している人数の割合)が15~20%と低い現状を変えるための戦略でもあるのですね。

 井手 ヨーロッパの「パブリッ…

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