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 JR新大阪駅から特急電車で約3時間半。海岸沿いに延びる紀勢線をひた走り、和歌山県南部のJR古座(こざ)駅にやってきた。

 ホームに降りると、鮮やかな山の緑が目に飛び込んできた。「静かでいいところだねぇ」。兵庫県西宮市のヒロユキさん(37)と妻のマキコさん(31)は目を合わせて笑った。4月中旬の週末、夫婦と記者は和歌山県古座川町と串本町で、1泊2日の田舎暮らしを体験した。

 ヒロユキさんは大阪府箕面市出身で、弁理士事務所で働く。マキコさんは兵庫県尼崎市出身の公務員だ。2人とも都会生まれ、都会育ち。体験に参加した理由について、ヒロユキさんは「都会での生活は想像がつく。一生、このままの暮らしでいいのかなと思うようになった」と説明した。

 今回の企画には、現地で体験研修を手がける「和歌山県ふるさと定住センター」が全面的に協力してくれた。過疎に悩む自治体を中心に、都会の人に田舎暮らしを体感してもらう取り組みが広がっている。定年後の「第二の人生」として移住を希望するシニア世代のほか、子育てなどを考えて自然豊かな田舎暮らしを検討する若い世代も増えている。高知県東部で海と山に囲まれて育った記者は、時折無性に田舎の暮らしが恋しくなる。移住体験ツアーに興味を持ち、今回の企画を思いついた。

 駅まで迎えに来てくれたセンターの研修指導員、山本拓自さん(45)の車に乗り込み、いざ田舎暮らし体験へ!

 山本さんに案内され、大阪府八尾市から古座川町に移住して8年目の村尾義雄さん(68)と三恵子さん(63)の夫婦を訪ねた。空き家を改修し、荒れ地だった田畑を耕し、コメや小麦、野菜などを育てている。

 ヒロユキさんとマキコさんは、村尾さんの指導で畑仕事を手伝った。畝(うね)にシソの種をまいていく。種の大きさは直径約1ミリ。夏には葉が茂り、落ちた種から翌年も勝手にシソが生えてくるという。マキコさんは「こんな小さな種から」と驚いた。

 プレス工場で働いていた村尾さんは、定年後も都会で暮らすことを苦痛に思い、移住を決めた。「何もすることがないまま、ショッピングセンターのいすに腰掛け、1日が過ぎるなんて耐えられないと思った」

 村尾さんの畑は計1ヘクタールほど。その世話に忙しく、毎日休む暇もない。「田舎でゆっくり暮らそうなんて夢の夢。田舎はずっと忙しいですよ」。そうぼやきながらも、村尾さんの顔は明るかった。

自ら捕る作るこだわりの味

 しし鍋、アユの塩焼き、ウドやタラの芽の天ぷら。炭火のいろりを前に、地元の食材を使ったさまざまな料理が並んだ。天井から伸びた自在鉤(じざいかぎ)には鉄のヤカンがかけられていた。「昔話の世界に来たみたい!」。和歌山県南部の古座川町と串本町を訪れ、記者と一緒に田舎暮らしを体験した兵庫県西宮市のヒロユキさん(37)とマキコさん(31)の夫妻は歓声を上げた。

 和歌山県ふるさと定住センターの研修指導員、山本拓自さん(45)に案内してもらい、古座川町の食事処「鮎(あゆ)のたなみや」を訪ねた。川沿いに立つ古民家だ。おかみの東英子(ひがしえいこ)さん(77)は「何も上手につくったものはないんやけど、昔からしてきたことを1日でも守りたいという気持ちでね」と言い、控えめに笑った。

 食事をしながら、山本さんと東さんが町の暮らしについて教えてくれた。町を流れる古座川は日本有数の清流で、アユやウナギ、モクズガニが捕れる。「都会ではウナギを食べようと思ったら買いに行くでしょ。ここらの人は、川に捕りに行くんです」と山本さん。東さんと夫の功(いさお)さん(79)は、たいまつの火で網の中にアユを追い込む「火振り漁」の名人だ。「小さいころから川と一緒に育ってきた。この川は私の人生そのものですよ」

 その晩、東さん夫婦の営む農家民泊「古民家たなみや」に泊まった。記者は夜11時すぎに布団に入ったが、翌朝6時半ごろにウグイスとニワトリの声で自然と目が覚めた。久しぶりの目覚めのいい朝に、すがすがしい気持ちになった。

 土間のかまどで、東さんの指導を受け、朝ご飯の茶がゆを準備した。ヒロユキさんとマキコさんが、かまどに火をおこす役割に。空気が通るよう木を斜めに入れて火をつけるが、新聞紙から木に火が移らない。松やにをつけた木を入れ、なんとか火が移った。竹筒を使って息を吹き込むヒロユキさん。「竹の先を中に入れすぎると、焦げるから気をつけて」。東さんの声に慌てて竹を引くと、先端が黒くすすけてしまっていた。

 かまどにかけた鍋には、自家製の茶葉とコメが入っている。煮立ってくると、香ばしいお茶の匂いが広がった。一口食べたマキコさんは「ご飯がふっくらしておいしい!」。細身のヒロユキさんも、おかわりを繰り返していた。

 自宅では、みそを手づくりしているというマキコさんだが、茶葉も、みそ、しょうゆも全部自分でつくる田舎の暮らしに驚いた。「日常の一つ一つにこだわりを感じる。同じ『食べる』でも、こんなに豊かさが違うんですね」

ネットで買い物、不便なし

 自然に囲まれた田舎での暮らしは、魅力的に映る。でもいざ自分が住むとなると、その地域になじめるのか、仕事はあるのか、と不安は尽きない。記者と一緒に和歌山県南部の古座川、串本両町で田舎暮らしを体験したヒロユキさん(37)、マキコさん(31)夫妻も「憧れは出てきたけれど、まだまだ踏ん切りはつかない」と話す。

 「先輩移住者」の体験談を聞こ…

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