[PR]

 「単身急増社会」はなぜ起きているのでしょうか。そして、どんな影響を社会にもたらすのでしょうのか。単身世帯が急増する背景を分析している、みずほ情報総研の主席研究員(兼・日本福祉大学教授)の藤森克彦さんに、暮らしを脅かしかねないお金や家族介護といった負担増の現状について、インタビューしました。1回目は「単身急増社会の実像」です。(聞き手・岩崎賢一)

 

 ――単身世帯のイメージは、昔なら大学生や結婚前の若い勤労世代を思い浮かべました。今、日本の単身世帯の実像はどうなっているのか教えて下さい。

 総務省の「国勢調査」によりますと、2015年現在、全国の単身世帯数は1842万世帯にのぼり、全国民の7人に1人(14%)が一人暮らしという状況です。30年前の1985年には、789万世帯、全国民の7%が一人暮らしでしたので、そのころに比べて大幅に増えました。

 そして、国立社会保障・人口問題研究所が13年に行った将来推計(2010年基準推計)と比べると、実際の15年の単身世帯数は、20年に到達すると推計されていた単身世帯数を若干上回る水準になっています。つまり、5年分前倒しで単身世帯の増加が進んでいます(注1)。

 単身世帯が増加したと言っても、若者の一人暮らしなら、さほど注目する必要はないと思います。しかし、年齢階層別にみると、顕著に増えているのは中年層や高齢者の一人暮らしであり、今後もこの傾向が続くと推計されています。

 具体的には、みずほ情報総研の推計によると、15年現在、各年齢階層で最も多くの単身世帯を抱えている年齢階層は「20代」で、330万人が一人暮らしです(注2)。しかし、20代の一人暮らしは、少子化の影響を受けて、2030年までに2割ほど減っていくとみられています。一方、30年になると、最も多くの単身世帯を抱えるのは、なんと「80歳以上」です。30年の80歳以上の単身世帯数は334万人となり、15年の1.6倍になると推計されています。(注3)

 そして、2030年に80歳以上に次いで多くの単身世帯数を抱える年齢階層は、「50代」です。2030年の50代の単身世帯数は307万人となり、2015年の1.4倍になるとみられています。(注4)

 このように、若者の一人暮らしが減り、中高年や高齢者の一人暮らしが増えていくので、社会に与える影響は大きいと考えられます。

 なお、注意しなくてはいけない点があります。この将来推計は、国立社会保障・人口問題研究所が10年までの「国勢調査」をベースにした将来推計です。15年までの「国勢調査」をベースにした将来推計はまだ発表されていません。10年から15年にかけて単身世帯数は5年分前倒しで増加していることからすれば、15年をベースにした将来推計では、30年の単身世帯数はさらに増えていく可能性があります。

 

団塊世代が80歳以上の単身世帯の増加に影響

 ――なぜ50代や80歳以上で、単身世帯が増えていくのでしょうか。

 50代で単身世帯が増えていく一番大きな要因は、未婚化の進展です。例えば、50歳時点で生涯一度も結婚したことのない人の割合を「生涯未婚率」と呼びますが、15年の男性の生涯未婚率は23%、女性は14%です。

 90年までの生涯未婚率は、男女ともに5%以下で推移してきたので、90年代以降の25年間で、生涯未婚率は大きく高まりました(注5)。そして2030年には男性の生涯未婚率は28%、女性は19%にまで高まるとみられています。(注6)

 一方、80歳以上の高齢者で単身世帯が増加する最も大きな要因は、80歳以上の高齢者人口の増加です。2030年になると、人口規模の大きい「団塊の世代(1947~49年生まれ)」が全員80歳以上になります。80歳以上人口が大きく伸びていくために、それに伴って80歳以上の単身世帯数も大きく増加します。(注7)

 ちなみに、70代男性でも2015年から2030年にかけて単身世帯数は増加していきます。これは70代男性人口の増加とともに、配偶者と死別した高齢者が子供と同居しなくなった影響が推察されます。妻と死別した70代男性において子供と同居する人の割合をみると、1995年は57%でしたが、2010年には40%になりました。この15年間で、妻と死別した老親と子どもとの同居率が17ポイントも減っています。(注8)

 

子供と同居を望んでいない

 ――配偶者を亡くした親と子供の同居率が下がっているのはなぜですか。

 地方出身の子どもたちが大都市圏で就職する傾向が続いたことや、嫁と姑(しゅうとめ)などの人間関係による煩わしさを避ける傾向などが考えられます。

 一方、興味深いのは、内閣府の「一人暮らし高齢者に関する意識調査」によると、一人暮らし高齢者に「今後の同居の意向」を尋ねると、約7割が「今のまま一人暮らしでよい」と回答し、子供などとの同居を望んでいないことです。一般に老親は同居した方がいろいろなリスクがヘッジされると考えられますが、高齢者は、リスクが高くてもこれまで通り自分のペースで暮らし続けたいという気持ちが強いように思います。(注9)

 

社会保障を抑制すれば家族負担が増えるだけ

 ――「同居した方がいろいろなリスクがヘッジされる」という見方もありますが、政府の社会保障給付費の抑制政策もあり、患者を自宅でケアする在宅化が進んでいます。介護の負担の一部を家族に転嫁しています。

 在宅での生活を希望する高齢者は多いので、在宅での医療・介護を広げようとする政策自体を否定すべきではないと思います。しかし、社会保障給付を抑制するために、在宅での医療・介護を広げようというのは本末転倒であると思います。実際、在宅で医療や介護を行えば、病院よりもコストが低いとは限らない点が指摘されています。また、社会保障は家族でやってきた「私的扶養」を、社会全体で支えるようにしたことなので、社会保障を抑制すれば、家族の負担が増えていくだけです。

 

 ――家族介護への転嫁によるひずみがでてくるのではないでしょうか。

 介護保険サービスを引き締めると、その分を、家族介護で補うのか、全額自己負担で市場から介護サービスを購入して補うのか、といった選択になります。アメリカであれば、移民労働者が介護サービスに従事していることから、比較的安価にサービスを購入できるように思います。しかし日本では、全額自己負担で購入できるのは一部の富裕層に限られるでしょう。家族が主たる介護の担い手になるだろうと思います。

 そして、現在、「介護や看護のための離職者」(これ以降は「介護離職者」と表記)は年間で10万人程度います(注10)。介護保険サービスの引き締めが続くと、介護離職者が一層増えると思います。ちなみに、国立社会保障・人口問題研究所によれば、生産年齢人口(15~64歳人口)は、15年から30年まで年平均で57万人減少するとみられています。(注11)。介護離職者が増えれば、人手不足は一層深刻になり、経済にも悪影響を及ぼすと思います。

 もう一つの問題は、今後増えていく未婚の高齢単身世帯では家族介護が一層困難になることが考えられる点です。「一人暮らし高齢者」といっても、「未婚の一人暮らし高齢者」と「配偶者と死別した一人暮らし高齢者」とは状況が異なります。「配偶者と死別した一人暮らし高齢者」では子供がいる人の比率が高いのに対して、「未婚の一人暮らし高齢者」は配偶者だけでなく子供もいないことが考えられるからです。既に70代の単身男性の25%は未婚者です(注12)。未婚の一人暮らし高齢者は相当な割合に増えています。このような状況の下で、求められるのは公的な介護保険サービスの拡充と、地域住民における支え合いだと考えています。

 

「負担能力に応じた負担」は保険料での調整を

 ――家族介護の比重を高めるしかない中で、医療保険や介護保険の自己負担の上限額が高くなってきています。例えば、メディアも、リーマン・ショックの時は、ファイナンシャルプランナーのアドバイスなどをもとに、医療費は高額療養費制度があるので保険料が高い民間医療保険の見直しをアドバイスするようなことがありました。ただ、高額療養費制度はその後様変わりし、上限額が変わりました。藤森さんはどのように見ていますか。

 高額療養費制度は、家計に対する医療費の負担が重くなりすぎないように、所得などに応じて自己負担の限度額を設定している制度です。直近では2013年に改正されて、現役世代(70歳未満)の所得区分を細分化し、高所得者の高額療養費を高く設定することが行われました。従来に比べて、負担能力に応じた自己負担限度額となりました。

 私は、「負担能力に応じて負担」することには賛成です。ただ、自己負担額や高額療養費よりも、保険料の引き上げを中心にして、低所得者には減免措置などを強化すべきではないかと思います。というのも、社会保険制度の下では、国民は社会保険料を支払うことによって受給権を得ているので、高所得者であるからといって過度の自己負担を求めるのはどうかと思います。また、保険料は病気の有無に関係なく全ての加入者が支払うのに対して、自己負担や高額療養費は病気になった人のみが支払うものだからです。

 今後さらなる自己負担の引き上げや高額療養費の限度額の引き上げが行われれば、低・中所得者層はもちろんのこと、高所得者であっても受診抑制する人が増えるかもしれません。自己負担が過重なために必要な医療サービスを活用できないとしたら、医療保険料を支払う意味が問われかねません。

 

▼次回のテーマは「単身急増社会にどう備えたらいいか」(http://www.asahi.com/articles/ASK614J2PK61UBQU00H.html)。

 

<プロフィル>

ふじもり・かつひこ みずほ情報総研主席研究員。1965年生まれ。1992年国際基督教大学大学院行政学研究科修了。同年、富士総合研究所(現・みずほ情報総研)入社。1996~2000年ロンドン事務所駐在研究員などを経て、2004年より現職。2017年4月より日本福祉大学福祉経営学部教授を兼任。専門分野は、社会保障政策。主な著書に、『単身急増社会の希望』(日本経済新聞出版社、2017年)などがある。

▼資料の出典

注1)15年の単身世帯数は、総務省『平成27年国勢調査』。単身世帯数の将来推計(10年基準推計)は、国立社会保障・人口問題研究所編『日本の世帯数の将来推計(全国推計)―13年1月推計』に基づく

注2)総務省『平成27年国勢調査』。みずほ情報総研が年齢不詳分を案分して推計。このため、「国勢調査」の数値とは一致しない

注3)2015年の単身世帯数(実績値)は、総務省『平成27年国勢調査』に基づき、みずほ情報総研が年齢不詳分を案分して推計。2030年の単身世帯数の将来推計は、国立社会保障・人口問題研究所編『日本の世帯数の将来推計(全国推計)―2013年1月推計』に基づく

注4)2015年の実績値は、総務省『平成27年国勢調査』に基づき、みずほ情報総研が年齢不詳分を案分して推計。2030年の「単身世帯数」の将来推計は、国立社会保障・人口問題研究所編『日本の世帯数の将来推計(全国推計)―2013年1月推計』に基づく

注5)総務省『国勢調査』各年版

注6)国立社会保障・人口問題研究所編『日本の世帯数の将来推計(全国推計)―2013年1月推計』に基づき、みずほ情報総研計算

注7)みずほ情報総研による寄与度分析。藤森克彦『単身急増社会の希望』日本経済新聞出版社、2017年、62ページ参照

注8)1995年の数値は、総務省『平成7年国勢調査』特別集計表第8表、2010年の数値は総務省『平成22年国勢調査』職業等基本集計第31表により、みずほ情報総研が計算

注9)内閣府『一人暮らし高齢者に関する意識調査』2015年、http://www8.cao.go.jp/kourei/ishiki/h26/kenkyu/zentai/pdf/s2-2.pdf別ウインドウで開きます

注10)総務省『平成24年就業構造基本調査』

注11)国立社会保障・人口問題研究所『日本の将来推計人口(2017年推計)』

注12)総務省『平成27年国勢調査』に基づき、みずほ情報総研計算(岩崎賢一)

◇ご感想、経験談をお寄せください

 みなさんのご感想、経験談を募集します。掲載する場合には、確認のため、問い合わせをさせていただきますので、お名前のほか、ご連絡先(電話番号、メールアドレス)、年齢、性別、職業の明記をお願いします。(ただし、いただいた感想などについて、必ずしもアピタルのサイトに掲載することをお約束するわけではありません)

【送付先】

・メール apital@asahi.comメールする

・郵便 104-8011 東京都中央区築地5-3-2 朝日新聞アピタル編集部

<アピタル:ニュース・フォーカス・オリジナル>

http://www.asahi.com/apital/medicalnews/focus/

岩崎賢一

岩崎賢一(いわさき・けんいち) 朝日新聞記者

1990年朝日新聞社入社。くらし編集部、政治部、社会部、生活部、医療グループ、科学医療部などで、医療を中心に様々なテーマを生活者の視点から取材。テレビ局ディレクター、アピタル編集、連載「患者を生きる」担当を経て、現在はオピニオン編集部。『プロメテウスの罠~病院、奮戦す』、『地域医療ビジョン/地域医療計画ガイドライン』(分担執筆)