【動画】ライオンキングの春劇場ファイナル公演があり、終演後からパペットや小道具が運び出された=佐藤正人撮影
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 ミュージカル「ライオンキング」の引っ越しが始まりました。

 18年5カ月という破格のロングランを続けていた東京・浜松町の四季劇場[春]を5月末に去り、JR京浜東北線で3駅離れた大井町にある四季劇場[夏]に舞台を移して、7月16日から再び走りだします。

 「ライオンキング」は、[春]劇場だけで上演回数6327、延べ約689万人の観客を集めました。並行して大阪、福岡、名古屋、北海道でも公演し、総上演回数は1万978回、延べ1125万人以上が見た「ミュージカルの王様」です。その力の源はどこに? 新調された巨大舞台装置に込めた技術者の思いは? みんな知ってる「ライオンキング」の普段は見られない素顔を、記事と動画で紹介します。

けたはずれ 「夢」の作品

 [春]劇場での最終公演となった5月28日、この日のカーテンコールは、出演者が勢ぞろいしてテーマ曲「サークル・オブ・ライフ」を歌う特別演出だった。満席の観客の熱い拍手に包まれて、俳優を代表し、飯村和也があいさつをした。

 「国内演劇史上初となる無期限ロングランを継続し18年……」

 感謝の言葉の中に、前例のない取り組みを成功させてきた劇団の誇りもにじんでいた。

 アニメ映画をもとにしたディズニー・ミュージカル「ライオンキング」は1997年、アメリカ・ブロードウェーで開幕した。日本ではその翌98年12月、四季劇場[春]のこけら落としとして登場した。

 四季劇場[春](1255席)は、ロビーを共有する隣の四季劇場[秋](907席)とともに、劇団四季が首都圏で初めて持った常設専用劇場だ。無期限ロングランという「夢」の拠点として建設された。

 優れた演劇作品は観客が来る限り、何年でも上演し続ける。

 ブロードウェーやロンドンでは当たり前のこのロングランシステムを日本でも実現する。劇団四季は30年以上前から、浅利慶太前代表を中心に、この方針を推し進めてきた。

 一つの作品を長く上演することで、新たな観客を掘り起こすことができる。劇団の経営も安定し、経済的に自立して、豊かで自由な芸術創作が続けられる。ロングランにはそうした利点がある。

 だが、既存の劇場を月単位で借りる従来のやり方では、実現できない。専用劇場が不可欠だ。そこで四季は、83年に東京・新宿のテント劇場で開幕した「キャッツ」を皮切りに、いくつもの仮設の専用劇場を造り、「美女と野獣」(95年開幕)など、様々な作品の長期公演をしてきた。その中で、常設の施設として誕生したのが四季劇場[春]と[秋]だ。劇団創立45周年記念事業でもあった。

 [秋]では、数多くのミュージカルとストレートプレー(せりふ劇)を1作品あたり数週間から半年くらいの長さで上演してきたのに対し、[春]は開場以来、「ライオンキング」一筋。この間、2011年の東日本大震災の直後の一時期以外は、客足にかげりはなかったという。

 いつでも上演しているから、先々の団体観劇を誘致できるのも強みで、修学旅行生は毎年約8万人も訪れている。

 内容も幅広い年齢向きだ。

 アフリカのサバンナを舞台に、ライオンの少年シンバが成長し、悪巧みをする叔父スカーを倒し、父の後を継いで立派な王様になるというストーリーはシンプル。チーター、ゾウ、キリン、ヌー、シマウマなど個性豊かな動物が登場し、幼い子供も楽しめる。

 躍動感あるエルトン・ジョンらの音楽も魅力だ。

 なんといっても、前衛的な作風で知られるジュリー・テイモアによる演出と、衣装、仮面などの造形が素晴らしい。

 登場する動物は、俳優が身につけたり操ったりする仮面や衣装、パペットなどで表現される。その動物らしい動きが再現されているが、俳優の姿や顔をあえて隠さないことで、人間が動物を演じる不自然さを消すことにも成功した。日本の文楽やインドネシアの影絵など、アジアの伝統芸能の要素も大胆に取り入れ、大人も満足する知的で洗練されたエンターテインメントに仕上げられた。

 公演環境が整い、それにふさわしい良質な作品を得た四季は、[春]で無期限ロングランの夢をかなえた。

シンボルは「浪速っ子」

 四季劇場[春][秋]の土地・建物を所有するJR東日本が昨年、このエリアにホテルや商業施設などを建設する再開発計画を発表した。これにともない、両劇場はいったん取り壊され、2020年以降順次オープンする新施設の中で、再開場することになった。

 劇団四季は、「ライオンキング」を大井町にある同じく専用劇場の四季劇場[夏]に移すことに決めた。

 ブロードウェーやロンドンでは、人気作品が劇場を移してロングランを続けるケースが時々あるが、日本では例のない出来事だ。

 [夏]では、この4年間、ディズニー・ミュージカル「リトルマーメイド」が上演されていた。その千秋楽の4月9日から、「ライオンキング」を迎えるための作業が始まった。

 床の補修工事、床下への大型の機械の設置などの準備を経て、5月26日朝、「ライオンキング」最大の舞台装置「プライドロック」が運び込まれた。

 動物たちの王国の象徴「プライドロック」は高さ3・5メートル。劇中では、直径6・6メートルのターンテーブルに載って回転しながら、床下からせり上がる。[夏]への移転を機に、新調された。

 床下に埋め込まれた巨大な機械を担当したのは、鉄道車両の技術などを持つ「日鉄住金レールウェイテクノス」。その上に載るおなじみの舞台装置は、舞台やテレビ、イベントなどの美術制作をしている「つむら工芸」が作成した。ともに、大阪に本社がある。

 完成した「プライドロック」は三分割してトラックに積まれ、東京に運ばれた。雨の中、[夏]に搬入され、これから初日に向けて、床下の機械と組み合わせ、演出通りに動くよう、調整が重ねられる。

 劇団四季技術部で技術施設や舞台装置などを担当する河村励起課長は「同時に四つのモーターで制御し、回りながら昇降させます。音楽や演技にぴたりと合わせて動かせるようになるまで、技術者の仕事が続きます」と話す。

サバンナの動物大移動

 さて、5月28日夕方の四季劇場[春]。

 ファイナル公演の熱気も冷め切らぬうちに、引っ越し作業が始まった。

 仮面やパペットなどが、100人を超えるスタッフの手で、楽屋や舞台袖から運びだされた。

 隣接する[秋]のロビーにまでシートを敷き、その上に小道具類が整然と並べられた。どれもユニークな形が楽しく、また、近くで見ると、驚くほど手の込んだ細工が施され、美しい。スタッフが手際よく布などで包み、運びだす。

 これらはいったん、横浜市にある劇団四季の本部に運ばれ、必要な手入れをし、[夏]公演に再び登場する。

(敬称略。上演回数などのデータはいずれも2017年5月28日時点での劇団四季発表)(文・山口宏子、動画・佐藤正人)

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