[PR]

(9日、ヤクルト3―2広島)

 引き分けムードが色濃くなった十二回、ヤクルトの大松が代打に立った。大けが、戦力外通告、そして再起。濃密な一年を経ての今季21打席目だった。「いつかこういう日が来ると信じていた」。入ってくれと念じた打球は右翼席に届いた。

 若い選手たちにもみくちゃにされた34歳は、ヒーローインタビューを前にベンチで言った。「もしかしたら泣くかもしれない」。後輩たちは「今から泣きます!」と騒ぎ出した。もう泣いているコーチもいた。それを見て冷静になれた。お立ち台では「初めまして、大松尚逸(しょういつ)です」。いつか言おうと決めていた言葉で、ファンにあいさつした。

 移籍して初めて妻の敦子さん(34)を招いた試合だった。

 昨年まではロッテ一筋。2008年には24本塁打の実績もある。昨年5月29日、2軍戦で右アキレス腱(けん)を断裂した。手術を受け、車いす生活を強いられた時、介助役も話し相手も引き受けてくれたのが敦子さんだった。12年在籍した古巣からは、引退すれば何らかのポストを用意すると言われた。その時点で治る見込みはなかったが、「もう一度だけでも1軍の打席に立ちたい」。わがままを許してくれたのも敦子さんだった。

 まだ全力では走れず、一振りにかける。「まだベテランじゃない。みんなよりちょっと年上なだけ」。その言葉に、居場所を見つけた充実感が漂っていた。(伊藤雅哉

 ○真中監督(ヤ) 大松のサヨナラ本塁打に「見事でしたね、本当に。ホームランが欲しい場面で、素晴らしかった」。

 ○ブキャナン(ヤ) 八回途中2失点で、自己最多の10奪三振。「打たれた本塁打と適時打は球が甘かった」