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 子どもの自殺防止について考えた連載「小さないのち 大切な君」(4月21~26日掲載)には、100通を超えるメールや手紙の反響が届きました。悩む子どものSOSをどうキャッチして周囲が支えていくのか。学校でのいじめをなくしていくために何ができるのか。読者の声や取材をもとに、2日間にわたって考えていきます。

SOS発した子の味方に

 子どもが自ら命を絶とうとする前には、多くのケースでSOSが発せられます。周囲はどう受け止め、支えていけばいいのでしょうか。

 NPO法人ライトリングは、支え手を養成する講座を開いたり、支え手から悩みを聴いたりする活動に取り組んでいます。

 ライトリングによると、悩む人を上手に支えるコツは①共感しながら話をよく聴く②適切な距離を保ちつつ寄り添う③独りで抱え込まずに専門家らにつなぐ④支え手自身の心身を健康に保つ(セルフヘルプ)――の4項目だそうです。

 ライトリング代表理事で精神保健福祉士の石井綾華さん(27)は「一生懸命に支えようとするあまり、自分の日常生活に支障が出たり、体調を崩してしまったりする支え手が少なくない」と注意喚起しています。

 そうならないために、「深夜や授業中は電話やメールに返事をしない」など、できることとできないことを相談者に伝え、一定の距離を保って支援することが大切だそうです。相談者の主体性を引き出すために、本人にできることには手を出さない心がけも重要だといいます。

 今年1月、ライトリングの支え手養成講座を取材しました。テーマは「セルフヘルプ」。参加者は、夫を支える女性や、保健師や精神保健福祉士として相談に乗っている人ら約10人。自分のストレスの兆候の見つけ方や呼吸法、手や肩の筋肉を緊張させて緩める動作を繰り返すストレス解消法などを学んでいました。

 NPO法人日本ゲートキーパー協会理事長の大小原(だいこはら)利信さん(60)は連載を読んで、自らの活動を紹介するメールと郵便を寄せてくれました。群馬県内の中高生、大学生向けに昨年から、ゲートキーパー(支え手)としてのコミュニケーションの方法を教え始めたといいます。

 大小原さんによると、深く悩む人に「頑張って」という声をかけてはいけないといいます。この一言で、死にたくなるほど落ち込んでいる人を「これ以上頑張らなければいけないんだ」とますます追い込み、絶望させてしまう恐れがあるそうです。

 「相談してくれた子の味方になりきることが大切」と大小原さんは強調します。悩みを打ち明けてくれたことに「話してくれてありがとう」と感謝し、「大変だったね」「つらかったね」など相手がほっとする言葉をかけるといいそうです。

自殺 思いとどまれたのは

 取材班には、子どもたちが自ら命を絶たないことを願うメッセージや取り組みの紹介が多く届きました。その一部を紹介します。

●大事に思ってくれる人がいる

 私は小学生の時から今まで、何度か自殺を考えたことがあります。でも、どうして思いとどまれたのか、考えました。そして、今は亡き親友や、家族、恩師など大好きな人たちが、私のことをこんなに心配してくれて、大事にしてくれていることに気づきました。もし私がこの世からいなくなったら、その人たちはとても悲しむだろうし、傷ついてしまう。そう思った時、生きる道につながっていきました。自分で気づかなくても、あなたを大事に思ってくれる人が必ずいます。頑張っているあなたの存在に勇気づけられている人もいます。つらい経験をしたからこそ、人の気持ちがわかって、助ける人にもなれるのです。あなたがこの世に生を受けたことには、何か意味があるはずです。(東京都 30代女性)

●「一人ひとりが大切」伝えたい

 豊中市保健所(大阪府)で保健師として精神保健を担当しています。

 豊中でも心の問題についての相談が年々増えています。自殺の原因は多重債務などが多いのかと思っていましたが、相談にのる中で、日常生活の様々なストレスが引き金になっていると感じるようになりました。現場から声を上げ、市独自のメンタルヘルス計画を策定しました。すべての年代の市民が対象です。

 一方で、心の問題を抱える人たちに自尊感情の低さが共通していることから、子どもの頃からの働きかけに力を入れています。今年度から、市内の市立中学校で「いのちの授業」を始めています。いじめられている中学3年生が主人公の朗読劇などを通して、「あなたはひとりじゃない」「一人ひとりが大切な存在なんだよ」と伝えることが自殺予防につながると思っています。(大阪市 松山とも代さん 57歳)

心の危機の対処法 授業で

 自殺を予防するための教育を採り入れた、近畿地方の中学1年の授業を1月末に取材しました。

 「もう消えたい。話しかけんといて」「1個しか命ないんやから、大事にしなさい」

 2人1組で、悩みを打ち明ける役と、打ち明けられる役を演じる「ロールプレー」。打ち明けられた方が「叱る」「励ます」「感情を理解する」の3パターンを演じ、感想を言い合います。

 担任(当時)の30代の女性教諭は語りかけました。「どうしていいかわからないなら、よい聞き手になることで十分。でも自分たちで解決できない時は、信頼できる大人につないでほしい。あなたたちを見守っている人がたくさんいることを忘れんといてほしい」

 この学校では2015年度に「いのちの学習」を始めました。兵庫県加古川市教育委員会の学校支援カウンセラー、阪中順子さんが作ったプログラムを元にしています。友だちの気持ちを理解しようとする姿勢を教え、「心の危機」には信頼できる大人につなぐよう伝えています。苦しい時にはゆっくり休む、といった対処法も紹介します。

 当初、生徒へのアンケートに「死にたいと思ったことがある」「わざと自分の身体を刃物などで傷つけたことがある」といった設問を入れるかどうかが議論になりましたが、リスクの高い子を把握するために必要と判断して実施したそうです。

 すると、ある女子生徒が「自傷」の経験にチェックを入れました。自殺のリスクがあるとは思ってもみなかった生徒でした。養護教諭らが声をかけると、保健室に来て少しずつ悩みを話すようになったそうです。「危機感を組織で共有し、ささいな変化に注目できるようになった」。養護教諭はそう言います。

「生きづらさ」理解を 阪中順子さん 兵庫県加古川市教委・学校支援カウンセラー

 20年近く前から、中学校の授業の一環として子ども向けの自殺予防のプログラムを考え始め、実施するようになりました。自分や友だちの「心の危機」に気づき、助けを求められるようにするものです。

 授業の数カ月後、「友だちに『死にたい』と言われたらどうしたらいい?」と改めて聞くと、「話を聞く」と答える子どもは増えるのに、「信頼できる大人に伝える」という答えはそれほど増えませんでした。

 大人に頼りたがらない年頃だからこそ、大人につなぐ態度を身につけてもらう必要がある。そう考えて「きょうしつ」という標語を作りました。「きづいて」「よりそい」「うけとめて」「しんらいできるおとなに」「つなげよう」の略です。

 助けを求めるサインは、冗談めかして死にたいと言ったり、急に成績が落ちたりと千差万別。大人は、見逃さないよう学ぶしかありません。

 子どもの気持ちを聞く調査で、「死にたいと思ったことがある」にあてはまるかを尋ねると、女子では「その通りだ」「どちらかと言えばそうだ」と答える生徒が中学で増えるのが一般的です。このうち「どちらかと言えばそうだ」というグレーゾーンの女子生徒の割合は、この授業を実施すると、少しですが下がり、効果が確認できました。「その通りだ」というハイリスクな生徒では影響はみられず、専門家につなぐなど個別の対応が必要と思われます。

 自殺予防に取り組み、「聴く」ことが大事だと身にしみました。生きづらさを抱える子と関わるには、生きづらさを理解しようとする姿勢こそ大事。とても難しいですが、そんな人がいることが本人の支えになるのではないでしょうか。

 そして、子どもの自殺を減らすには、すべての事案で原因や状況を調べるしかありません。学校以外に原因があると思われると調査されないことが多いのですが、親を責めるのではなく、生きづらさを理解し、支援することで、救える命があると思っています。

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 自ら命を絶った仙台市の中学生2人についての記事が載った直後に、同じ仙台市で中学生が自殺しました。教師から体罰を受けていました。その後、宮城県や埼玉県でも相次ぎ、やりきれない思いです。子どもは大人の鏡。教師や親など大人がもっと他人を思いやり、自分も大切にしなければならないのではないでしょうか。(大岩ゆり)

◆ほかに片山健志、岡崎明子、山田佳奈、久永隆一が担当しました。

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ご意見はasahi_forum@asahi.comメールするか、ファクス03・5541・8259、〒104・8011(所在地不要)朝日新聞オピニオン編集部「小さないのち」係へ。