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 高齢者の単身世帯が急増する埼玉、千葉、神奈川で、住み慣れた地域で医療や介護を受けられる体制の整備は可能なのか――。みずほ情報総研の主席研究員(兼・日本福祉大学教授)の藤森克彦さんは、地域包括ケアの中でも住民の人材育成の必要性を強調しています。インタビューの3回目は、「最期は自宅で」はどこまで可能な社会なのか聞きました。(聞き手・岩崎賢一)

 

 ――希望するみんなが、「自宅で最期を」ということは可能なのでしょうか。

 最期の数日間は、自宅ではなく、病院に入院することが多いのではないかと思います。家族の思いもありますし、「終末期か否か」は生きている間はわからないことが多いと思います。さらに、在宅で終末期を迎えたら安上がりというイメージがありますが、実際には、病院で最期を迎えるより費用がかかるとも言われています。

 当然のことながら、医療・介護の効率化は進めていかないといけません。高齢者人口が増えていくわけですから、今の医療・介護制度をそのまま維持することは難しく、財源を確保しつつも、無駄を省くことは必要です。財源確保と効率化は、ともにやっていくしかありません。

 

埼玉、千葉、神奈川で高齢単身世帯が急増

 ――単身世帯の急増で影響が最も大きい地域はどこですか。

 大都市圏です。特に2015年から2030年にかけて75歳以上の単身世帯の増加率は、全国平均が39.3%なのに対して、都道府県別増加率の上位3位をみると、第1位は埼玉県の63.9%、第2位は千葉県の58.2%、第3位は神奈川県の57.5%となっています(注1)。

 東京圏のこれらの県で、75歳以上の一人暮らし世帯が大きく増えていきますので、高齢単身世帯を支えていく体制を考えなくてはいけません。

 介護施設も増やす必要があると思いますが、大都市圏の地価は高いので、75歳以上人口の増加に合わせて、介護施設を増やすことは難しいと思います。

 

 ――埼玉県、千葉県、神奈川県などのベッドタウンで高齢者の単身世帯や夫婦のみ世帯が増えていく中で、どのように備えていけばいいでしょうか。

 ひとつは、「地域包括ケアシステム」の構築です。身寄りのない一人暮らし高齢者であっても、安心して住み慣れた地域で自立した生活を送れるように、医療、介護、生活支援などを提供する専門職が、地域ごとにネットワークを築いて、一人暮らし高齢者の生活を支えていくことが求められます。例えば、千葉県柏市では、市役所が中心になって、医療従事者、介護従事者、福祉従事者などが一堂に会する会議を年に数回開き、「顔の見える関係」を作っています。また、開業医が主治医・副主治医といったチームを組んで、地域住民に往診できる体制をつくっています。医療や介護、福祉の地域資源は地域によって違うので、それぞれの地域に合うように地域包括ケアの仕組みをつくっていくことが求められています。その際、柏市の事例が示すように、自治体の役割は大きいと思います。

 一方で、身寄りのない高齢者が在宅生活を続けるには、住民同士の支え合いネットワークも必要だと思います。大都市圏のマンションや団地では、隣近所と人間関係が築かれていないことも珍しくありません。今後一人暮らし高齢者が増えていく大都市圏で、どのように住民ネットワークを築いていくのかは大きな課題となっています。

 この点、3千人を超える居住者を抱え、その5割が高齢者であり、さらに居住者の2割強が一人暮らし高齢者となっている東京都内のある大規模団地では、自治体が資金を拠出してサロンをつくる事業を始めました。サロンには、高齢者だけでなく、子供も含めた多くの世代が集まっています。夏には、近隣の大学生の協力を得て、団地内の高齢者を個別に訪問して、熱中症の啓発とともに生活状況の聞き取り調査もしています。また、高齢者の孤食も多いので、サロンが中心になって食事会を企画して参加を呼びかけています。このようなサロンになったのは、運営する人(担当者)が醸し出す雰囲気も大きいのではないかと思います。

 地域包括ケアのネットワークにしても、住民ネットワークにしても、地域コミュニティーを形成するには、中心となってネットワークを組んでいくことのできる人材の育成が大きなポイントだと思います。コミュニティーが活発に活動している地域には、カリスマ的な人物がいることがあります。しかし全国には、そのようなカリスマ的な人物やNPO法人がいない地域もたくさんあります。そのような地域では、まずは自治体が地域づくりに取り組むべきだと思います。地域づくりに取り組む自治体職員を育てるための集合研修を行ったり、ノウハウをもつ民間人を自治体で採用したりするなどして、人材育成を図っていく。そのために予算が必要であれば、消費税などを引き上げて、充当することも考えるべきだと思います。

 

介護職員増やすには処遇改善が必要

 ――医療や介護の提供体制の違いから、地域によって受けられる医療や介護が違うことについて、どう思いますか。

 社会保障制度改革国民会議では、「データによる制御」という言葉を使っていました。高齢化のピークは地域によって違うので、都道府県が、データに基づきながら、医療機能の将来の必要量と地域の医療体制の目指すべき姿を策定し、地域の需給のマッチングをしていくというものです。需要と供給のバランスを見ながら地域ごとに考えていく。医療や介護の計画を都道府県ごとに作る中で、必要なサービスや人材を確保することに予算をつけようとしています。それは一つの方法だと思います。

 

 ――「データによる制御」というのは簡単ですが、例えば事業が縮小する見通しだったり、経営効率が悪くなったりしていく地域の場合、医療や介護の現場で働く側も家族を養っていけるか不安になりますが、どうすればいいですか。

 医療や介護のスタッフ不足は、全国的な課題だと思います。まずは、医療や介護職員の処遇を改善しなくてはいけないと思います。そのためには、税や社会保険料を引き上げて財源を確保する必要があります。2015年から2030年にかけて、15歳から64歳までの生産年齢人口は年平均で57万人減少していきます(注2)。57万人というのは、現在の鳥取県の人口に相当します。その規模の生産年齢人口が毎年消失していくのですから、人手不足は一層深刻になっていきます。一方で、介護職員は、2011年から2025年まで年平均で約7万人増やす必要があると指摘されています(注3)。他の分野も人手不足となる中で、介護職員を増やすのは、容易なことではありません。医療や介護分野で働く人々の処遇の改善が必要です。

 

 ――日本の生産年齢人口が減少していっています。処遇の改善で解決できますか。

 在宅中心のクリニックにしても、経営する医師の方々と話をすると、人口減少していく地域や利用者が点在している地域に開院しようと思わないという声が聞かれました。それならもっと効率よく在宅の患者さんを回れる東京都内など人口密集地域で開院しようということになるのではないでしょうか。

 処遇改善は、人材確保の必要条件であって、それだけで十分とは考えていません。例えば、介護という職業の魅力などももっと語られてよいと思います。

 一方、人口が減少している地域では、地域包括ケアでは対応が難しいというのはその通りだと思います。以前、講演で高知県に行った時に、医師の方から「高知県は、都道府県の中で人口当たりの療養病床数が一番多い県だとして批判されていますが、療養病床は必要なのです」というお話を聞きました。

 高知県で療養病床が多い背景には、高齢者に占める一人暮らし高齢者の比率が高く、かつ高齢者の住居が広域に点在していることがあるようです。仕事を求めて多くの若者が県外に出ていくために、親の老後を在宅でカバーしていくことが難しくなっています。そこで、療養病床に高齢者を集めて、効率的に医療や介護を提供するようになったと聞きました。確かに、無駄の削減は必要ですが、地域ごとに異なる事情があり、高知のような状況を理解した上で、どのように対応していくかを考えないといけないと思います。

 一方で、75歳以上の一人暮らし高齢者が増えていくのは大都市圏ですから、地域包括ケアは必要だと思います。大都市圏では、地域包括ケアの体制づくりに取り組まずに、在宅介護は成り立ちません。そのためには取り組む人たちに予算をつけてあげることが大切です。ボランティアだけで回していくのは難しいと思います。厚生労働省は、先進事例を他の地域に横展開しようとしています。横展開をしていくにしても、ネットワークの組み方は、地域ごとに異なり、ネットワークを築ける人材がいない地域もあります。医療や介護従事者などの供給者サイドのネットワークと住民ネットワークの二つを作って、運営できる人材を育て確保していく必要があります。そのためには、予算が必要です。しかし、自治体も自由に使える予算がありませんので、政府が中心になって地方に経済的支援をすることも検討すべきではないかと思います。

 

▼次回は、「『介護離職』はどこまで防げるか」をテーマにお聞きしました。

 

<プロフィル>

ふじもり・かつひこ みずほ情報総研主席研究員。1965年生まれ。1992年国際基督教大学大学院行政学研究科修了。同年、富士総合研究所(現・みずほ情報総研)入社。1996~2000年ロンドン事務所駐在研究員などを経て、2004年より現職。2017年4月より日本福祉大学福祉経営学部教授を兼任。専門分野は、社会保障政策。主な著書に、『単身急増社会の希望』(日本経済新聞出版社、2017年)などがある。

▼資料の出典

注1)2015年は、総務省『平成27年国勢調査』に基づく。2030年の将来推計は、国立社会保障・人口問題研究所『日本の世帯数の将来推計〈都道府県別推計〉』〈2014年4月推計〉に基づく。なお、2015年の都道府県別の75歳以上単身世帯数は、みずほ情報総研が都道府県ごとの年齢不詳分を案分して推計しているため、「国勢調査」の数値と一致しない

注2)国立社会保障・人口問題研究所〈2017〉『日本の将来推計人口〈2017年推計〉』

注3)厚生労働省〈2011〉「医療・介護に係る長期推計〈主にサービス提供体制改革に係る改革について〉」2011年6月、「改革シナリオ」に基づく推計値(岩崎賢一)

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岩崎賢一

岩崎賢一(いわさき・けんいち) 朝日新聞記者

1990年朝日新聞社入社。くらし編集部、政治部、社会部、生活部、医療グループ、科学医療部などで、医療を中心に様々なテーマを生活者の視点から取材。テレビ局ディレクター、アピタル編集、連載「患者を生きる」担当を経て、現在はオピニオン編集部。『プロメテウスの罠~病院、奮戦す』、『地域医療ビジョン/地域医療計画ガイドライン』(分担執筆)