「孤愁(こしゅう)の岸」や「滝沢馬琴」など、史料を読み込んだ骨太な歴史小説で知られた作家で、文化勲章受章者の杉本苑子(すぎもと・そのこ)さんが5月31日、老衰で死去した。91歳だった。葬儀は近親者で営まれた。後日、お別れの会が開かれる予定。

 東京生まれ。文化学院卒業後、51年に「申楽(さるがく)新記」が「サンデー毎日」の懸賞小説3席に選ばれ、選考委員だった吉川英治に師事。門下生として10年近い修業をした後、61年に初の短編集「船と将軍」を刊行。63年には幕府の権力に抵抗しながら治水工事を完成させた薩摩藩士の姿を描いた「孤愁の岸」で直木賞を受けた。

 学徒出陣の見送りや敗戦を思春期に体験したことが原体験となり、変わらないものはないという視点で歴史に向かうようになった。歴史を社会構造からとらえ直す重厚な作品から江戸の市井の人々の姿を描いたものや芸道ものまで作品は幅広く、78年に「滝沢馬琴」で吉川英治文学賞、86年に「穢土荘厳(えどしょうごん)」で女流文学賞を受賞した。「マダム貞奴」「冥府回廊」は85年のNHK大河ドラマ「春の波濤(はとう)」の原作となった。

 文学性と娯楽性をあわせ持つ多くの作品で、02年に菊池寛賞と文化勲章を受けた。朝日新聞では87~88年に徳川2代将軍秀忠の娘和子らの生き方を描いた「月宮(げっきゅう)の人」を連載した。

 「小説に恋をした」と言い、生涯独身を通し、生前から著作権を含む全財産を名誉市民となった静岡県熱海市に寄贈する契約をしていた。

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 〈作家の津村節子さんの話〉 陽気でおちゃめな方でした。女流文学者会で出会い、一緒に旅をしたり、ご自宅に遊びに行ったり、気の置けない親しい友人でした。最後にお話をしたのは随分前ですが、「これからかなり長いものを書くのよ」とおっしゃっていました。心置きなく話せる相手でしたので寂しくなります。