【動画】アップル開発者会議で披露された新機能=西田宗千佳氏撮影
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 アップルが毎年6月に開催している開発者向けの会議「WWDC」が、今年もスタートしました(写真1)。iPhoneの人気から、アップルの発表には注目が集まるものですが、今年のWWDCには特にIT業界内からの関心が高いと筆者は感じていました。理由は、アップルがビジネスの勝者でありながら、「追う立場」になっているからです。人工知能(AI)やクラウドの技術を中心に斬新なビジョンを打ち出すグーグルやマイクロソフト、アマゾンに対し、アップルが「次の時代への答え」をどう切り出すのか。そこが重要な点でした。WWDCの基調講演から、アップルなりの答えをひもといてみましょう。

 アップルのティム・クックCEO(写真2)は会議の冒頭、「今回は六つ大事なことを説明する」と切り出しました。「六つとは多い」と思われるかも知れません。しかし実際に中身を分析してみると、六つどころの騒ぎではありません。アップルが扱う製品とサービスの幅が広いためでもあるのですが、細かく説明するには、かなりの時間と文字数が必要です。ここでは、いくつかに絞って解説してみたいと思います。

 なお、細かな内容についてはフォトギャラリーに、写真とともにまとめています。全体戦略だけでなく詳細も知りたいという方は、ぜひそちらもご覧ください。(ライター・西田宗千佳)

ようやく登場した「VR対応マック」

 まずはパソコンのマックです。マックと言えばクリエーターに支持されるパソコンというイメージがあります。それは確かに正しいのですが、特にこの2年ほどは、「パワーが足りない」と不満を語る人々が多かったのも事実です。

 特に大きい不満はグラフィック性能、中でもバーチャルリアリティー(仮想現実、VR)への取り組みです(写真3)。ウィンドウズパソコンは、特に海外で、グラフィック性能が高い「ゲーミングPC」の人気が高まっており、その推進役の一つがVRです。VRコンテンツの開発を考える人々は、これまで、マックではなくウィンドウズを選ぶ必要がありました。

 しかし、秋に無償公開される次期macOS「ハイ・シエラ」では、マックでもVRに対応し、VRを効率的に扱うための仕組みも用意されます。マック自体もハードウェア能力から見てもグラフィック性能が足りませんでしたが、いくつかの方法で補います。その結果、マックでもVRが使えるようになります。具体的には、HTC社のVR用ヘッドセット「Vive」がマックに対応します。

 方法は三つあります。

 まず、新しいiMacを使うこと。今回発表になった新しいiMac、特に21.5インチモデルの上位機種と27インチモデルはグラフィック性能が高く、VR対応のウィンドウズパソコンに近い能力を持っています。筆者も試しましたが、十分に快適でした。

 二つ目が、MacBook Proに外部ディスプレーユニットをつける方法。サンダーボルト3インターフェースにグラフィックカードを付けられるユニットをつなぎ、ノートパソコンでVRを実現するという手法はウィンドウズにもあるのですが、これにマックも対応します。

 そして三つ目が、年末に出る「iMac Pro」を使う方法です。iMac ProはiMacと同じデザインながら、グラフィック専用のワークステーション並みの性能を持ちます。Mac Proの実質的な後継機なのですが、もちろん、VRに全く問題ない能力を備えています。

 これらの点は、盛り上がりつつあるVRに対する取り組みの遅れを取り戻すものと言えます。もちろん、macOSには独自の先進的な部分もあり、特にファイル管理システムを「Apple File System」に変更することで、ファイルのコピーなどの速度が劇的に改善され、安全性も高めたという点は高く評価したい点ですが、大きな軸は、細かな機能改善とVR対応だったと言っていいでしょう。

iOSは「AI」と「AR」で進化する

 次が「iOSの進化」です。

 iOSは、日本のスマートフォンで5割のシェアを持つiPhoneと、タブレットのiPadで使われているOSです。すなわち、多くの人が日常的に使っているものではあるのですが、iPhoneの登場から10年が経ち、十分定着した現在、より新しい要素をどこに求めるかを考えなくてはいけない時期になっています。iOSのバージョンナンバーも、次は「11」(写真4)。大きな節目と言えます。

 ここでの方向性は二つあります。

 まず一つ目は、AIの活用です。

 アップルは音声インターフェースとして「Siri」を持っており、iPhoneでもマックでも広く使っていますが、これをiOS上でもっと活用します。デバイスの上で何が使われているか、どういう行動をしたかを記録・把握し、ユーザー側が次にやって欲しいことを予測しながら挙動を変えるようになります。そうしたことは、文字入力の候補やアプリの切り替え、写真の選択まで、色々なことに使われます。音声だけでなく「アップルのAI」として活用されていくわけです。

 一方で、技術として見た場合、AIには様々な切り口があり、すでにiOSの中では活用が進んでいます。写真分類用の顔認識や風景認識、文字認識などが最たるものですが、これまではそうしたAIに基づく機能はアップル自身しか使えませんでした。しかしiOS11からは、開発者が、アップルが開発した画像や文字を処理するためのAIを使えるようになります。これは、アプリをもっと賢く便利にするには有用なものです。

 こうしたことは昨年にもやっていたことですが、その方向性をさらに拡大します。ライバルも同様のアプローチですから、ある意味既定路線と言えます。

 一方で、もう一つの方向も予想はされていたものですが、それよりも少々大がかりなものになりました。それは「AR(Augmented Reality、拡張現実)」への取り組みです(写真5)。ARそのものは、もはや珍しくありません。スマホアプリには「AR搭載」をうたうものも多くあります。しかし最近のVRの長足の進歩を踏まえて開発されている「今日的AR」は、数年前からあるARアプリとは違うものです。過去には単に写真と映像を合成しただけのようなアプリがほとんどだったのですが、現在注目されているARはもう少し高度です。現実にある机の高さや位置、周囲の光量などを把握し、重ね合わせるようになっています。

 アップルはiOS11で、そうした今どきのARを当たり前のものにします。iOS11には「ARKit」という技術的な枠組みが用意され、それを使うことで、iOS11が動く全てのiPhoneとiPadが、特別な機器を付けることなく、AR対応に早変わりします。ARを実現するノウハウを持っていない企業でも、ARKitを使えば高度なARアプリを作れます。記者向けの体験会場では、ARKitを使って、映画「スター・ウォーズ」に出てきたチェスゲームを再現していました(写真6)。iPadの中にだけ、映画で見たモンスターを使ったチェスゲームが浮かぶ姿を見ると、その高度さがよく分かりました。しかも、この機能には特別な機器は不要で、iOS11が動くiPhoneかiPadさえあれば体験できます。ARやVRの問題点は、最先端の高度な環境を整えるのにお金がかかること。しかし、世界中にあるiOS機器でARが使えるようになれば、そのインパクトは絶大です。iPhoneは比較的高価なスマホですが、高性能なのが長所です。しかも、アプリやサービスにお金を払う意欲が高い人も多い。そうした市場は、ARコンテンツやアプリでビジネスをしたい人々には、非常に魅力的なものに映ることでしょう。

iPadにファイル操作能力を追加、パソコンを超える「個人のためのコンピューター」に

 iOSにはもう一つ大きな変化があります。それは、特にiPadと組み合わせた時に重要なものです。

 今回、WWDCにあわせ、アップルは新しいiPad Proを発表しました。日本でもすでに注文の受け付けが始まっており、来週には製品が出荷される模様です。今回発表されたのは、「10.5インチiPad Pro」(写真7)とリニューアルにした「12.9インチiPad Pro」です。

 タブレットというと、電子書籍やウェブ、映像を閲覧するもの、すなわちコンテンツを消費するものというイメージが強い人が多いようです。ですが、アップルはそうは考えておらず、特にiPad Proはパソコンと同等以上に、コンテンツ制作や日々の作業に使えるコンピューターと位置づけています。

 しかし今までは、iPad Proを閲覧以外に使うという発想に、否定的な見解を持つ消費者は少なくありませんでした。そして「閲覧に使うタブレットなら、買い替える必要はない」と考える人が多いのも実情です。これらのことから、iPadのビジネスは一時ほど勢いがないと言われます。

 iPadがパソコンと同じように使えない、使いにくいと思われる理由は、「ファイルの処理」にありました。多数のファイルをまとめてフォルダーに入れ、それを別の人に渡すといった、パソコンで日常的に行われている作業が、iPadは苦手でした。実際にはできないことはないのです。しかし、マックにおける「ファインダー」、ウィンドウズにおける「エクスプローラー」のようなファイル管理の仕組みがなかったため、サードパーティー製の「ファイル管理アプリ」を入れ、アプリごとに違う独特な操作を覚える必要があり、「そこまでやるならパソコンでいいのでは」と言われてきたのです。

 しかし今回、iOS11では「Files」というファインダーのような機能が搭載され、ドラッグ&ドロップのようなパソコンでは当たり前の機能も、タッチ操作に合わせた工夫とともに提供が開始されます(写真8、9)。筆者も短時間使ってみましたが、明日にでも自分のiPadに欲しいと思ったくらいの機能です。

 マイクロソフトは、パソコンか…

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