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 2年半の勾留にもかかわらず、被告はしっかりとした足取りで法廷に現れた。京都地裁で26日に始まった青酸連続不審死事件の初公判。殺人と強盗殺人未遂の罪に問われた筧(かけひ)千佐子被告(70)は、弁護士に託す形で起訴内容を全面的に否認した。直接証拠に乏しく、裁判員裁判史上2番目に長い135日間の審理で、裁判員は難しい判断を求められることになる。

 午前10時半。京都地裁の101号法廷に姿を見せた被告は、落ち着いた様子で法廷内をぐるりと見回し、席に着いた。紫色のTシャツにひざまでのズボン姿。夫の勇夫さん(当時75)を殺害した容疑で逮捕されたのが2014年11月。2年半を超える勾留生活で、黒かった髪は白髪交じりに。耳が聞こえにくいという理由で裁判所の職員から渡されたヘッドホンをつけ、名前などの確認の際は、よく通る声で裁判官とやりとりしていた。ただ、本籍地を尋ねられた時は思い出せず、苦笑いした。

 被告は逮捕前、自宅に集まった報道陣に「どこで毒を手に入れるのか教えてほしい」などと言って関与を否定。だが、逮捕後には、起訴された4事件について容疑を認めたとされる。

 この日、4件について起訴内容を認めるか問われると、被告は弁護士に渡された紙を「全て弁護士に任せてある」とはっきりとした口調で読み上げ、それを受け、弁護士が全面的に争うと主張した。

 被告は佐賀県で生まれ、福岡県北九州市で育った。伝統校の県立東筑高校に入り、九州大への進学を勧められた。だが、親の反対で断念し、都市銀行に就職。1969年に結婚した最初の夫と大阪府貝塚市で暮らし、プリント工場を営んだ。94年に夫が病死して以降、結婚・交際をした相手は10人を超えるという。

4事件を争点整理、証人は50人以上か

 捜査関係者によると被告は捜査段階でいずれの事件にも関与を認めたとされるが、自白以外に男性らの死亡と被告を結びつける直接証拠はない。検察側が4事件で犯行に使われたとする青酸化合物の入手ルートも未解明だ。体内から青酸が検出されたのは、4人のうち2人だけだ。

 このため検察側は、4人の男性がいずれも結婚相談所を介して被告と知り合い、被告と飲食をした後に倒れたという「不自然さ」を強調する方針だ。被告が処分したプランターから青酸化合物が検出されたことも重要な状況証拠と位置づけ、被告が犯人でなければ説明ができないことを裁判員に強調する構えだ。

 一方、弁護側は4事件すべてで無罪を主張する。起訴から初公判まで時間がかかったのも、四つの事件について争点を整理し、審理で調べる証拠を絞る手続きが2年以上続いたためだ。

 検察側だけで、証人は被告と見合いした男性など50人以上に上る見通しだ。審理は週3、4日のペースで続き、予備日も含めて計48回が予定されている。裁判員の負担を減らそうと、各事件の審理が終わるごとに10日程度、「休養期間」が設けられている。

 さらに、検察官による論告、弁護側が意見を述べる弁論は通常は1度だけだが、今回は事件ごとに4回の「中間論告」「中間弁論」を行う。裁判員が、それぞれの事件に専念して、有罪か無罪かを判断できるように配慮したものだ。(安倍龍太郎)

傍聴券求め長蛇の列

 初公判の法廷は、京都地裁で最も広い101号法廷。傍聴券の受け付けが締め切られる26日午前9時半までに、一般傍聴席58席に対し614人が列を作り、事件への関心の高さをうかがわせた。

     ◇

《検察側冒頭陳述の要旨》 四つの事件には共通点がある。被害者は全て高齢の男性で被告と親しかった。被告の夫や知人の男性が事件発生時に被告と一緒にいた点や、被告が男性らの死亡直後に遺産や利益を得ていた点も共通している。

 被害者は全員死亡し、勇夫さん、本田さんの遺体と、被告の自宅からは青酸化合物が検出された。末広さん、日置さんの死亡診断も青酸中毒と矛盾しない。

 犯行当時、被告には多額の借金があった。事件前、2人の被害者には公正証書遺言をつくらせており、被告による遺産を狙った犯行であることは明らかだ。

《弁護側総括冒頭陳述の要旨》 被告は犯人ではない。4人の被害者が、本当に青酸を飲まされて亡くなったり体調が悪くなったりしたのか、事件性について大きな疑問がある。被告が4人について死んでほしいとか、死んでもかまわないと考えたことは一切なく、殺意もない。

 被告は認知症を発症している。直前のことも事件のことも記憶はなく、事件当時も物事の善悪を判断し、判断に従って自分をコントロールできない状態だった。法廷でも自分の権利を守るために何をしていいのかわからず、裁判を受けることができない状態だ。