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 これまでいろいろな耐性菌を紹介してきましたが、実は私たちICT(感染制御チーム)がいま本当に恐れている耐性菌がまだ他にあります。その筆頭株が「多剤耐性アシネトバクター(Multiple Drug-Resistant Acinetobacter=通称・MDRA)」です。

 この菌による感染が病院内で頻発したら、どんなに最先端の病院のICTであっても、終息させるまでにかなり難儀するはずです。MDRAは、1980~90年代にボスキャラ的な耐性菌として世界中を席巻したMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)になぞらえて、「現代のMRSA」と呼ばれています。

 幸い、青森県ではまだ数例しか報告されておらず、病院内での広がり(アウトブレーク)は起きていません。しかし、実はここ数年、海外はもちろん、日本のあちこちの大学病院がMDRAで大変な苦労をしています。

 多くの場合、入院患者に一例でもMDRA感染が発生すると、次々と他の患者に菌が移り、よほど管理を厳しくしないと、MDRAが発生した病棟や集中治療室は閉鎖に追い込まれるのです。

 そのようなアウトブレークが生じた場合には、外部の機関に病院の感染対策を評価してもらい、原因を解明した後、「MDRAの終息宣言」をすることになります。病棟閉鎖が解除されるまでには何カ月もかかることになります。

 当然、近隣の病院にも迷惑をかけるので、自分の病院の評判を落とすことになります。ICTや病院長にとっては泣きたくなるような事態です。

 ちなみに、アシネトバクターは、土壌や河川など、どこにでも生息し、健康な人が感染(保菌)してもまず害を及ぼすことのない菌です。「保菌」なら、多剤耐性菌であっても、治療の必要はありません。

 しかし、院内感染では、気管切開して人工呼吸器をつけているような、生命の危険がある患者に定着しやすく、そういう患者では全ての臓器で感染症を引き起こす可能性があります。究極の日和見感染です。

 弘前大学出身で、日本の感染症の大家である青木真医師は「多くの一般病院では、アシネトバクターに感染していたとしても発見すらされていない可能性が高く、検査態勢の充実した大病院だからこそ発見される感染症と言える。こうした特質から、アシネトバクターは『殺し屋というよりは葬儀屋に近い』」とコメントしています。

 このコメントは担当医にとっては救いですが、現在は、どんなに救命が難しい症例であっても耐性菌感染を伴って死亡者が出た場合、その因果関係が問われる時代と言えるでしょう。

<アピタル:弘前大学企画・今こそ知りたい! 感染症の予防と治療>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/hirosaki/(弘前大学大学院医学研究科臨床検査医学講座准教授 齋藤紀先)