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匠の圭

 錦織圭(日清食品)は3日のウィンブルドン選手権1回戦に勝った後の記者会見で、2回戦で当たる世界ランキング122位のセルジー・スタホフスキー(ウクライナ)について、冗談交じりに言っていた。

 「倒したいですね。竜ちゃんが、いちゃもんつけられて負けたので。まあ悪いやつじゃないと思うんですけど」。仲の良い伊藤竜馬が予選3回戦で4時間32分の激闘の末、敗れた相手だった。しかも、その試合中、スタホフスキーが判定にクレームをつけるなどした行状を聞いていたのだろう。「敵討ち」の意味合いがこもっていた。

 実は、自らの対戦成績も0勝2敗なのだが、いずれも錦織がブレークする前の6年前の対戦だから、あまり参考にはならない。

 スタホフスキーの戦術の特徴は頭に入っていた。

 「サーブ・アンド・ボレーが一番。彼が好きなサーフェスだと思う。スライスもうまく、色々なことができる選手」

 スタホフスキーがその名を世界にとどろかせたのは世界ランキング116位だった2013年。7度の優勝を誇る前年覇者、ロジャー・フェデラー(スイス)をウィンブルドン2回戦で破った。フェデラーが続けてきた4大大会8強入りの記録を、36大会で途絶えさせる世紀の番狂わせと騒がれた。

 その試合のスタホフスキーのサーブ・アンド・ボレー率は、実に78%。記者会見での勝者の誇らしげなコメントに記事で触れた。「芝でフェデラーとベースラインで打ち合っても勝てない。これが唯一の戦術だった」

 この日の錦織との対決でも、積極的にネットに詰め、圧力をかけてきた。しかし、錦織は慌てなかった。「ファーストサーブがほぼサーブ・アンド・ボレーで出てくるのは頭に入っていたので、それはなるべく意識して(ショットをネット付近に)沈めるなど、色々なことをした」

 初めてのブレークは第1セット第5ゲーム。それまでスタホフスキーがサーブ・アンド・ボレーを仕掛けたときのポイント獲得率は6回中6本と100%だったが、ここでの最後のポイントは相手が前に出てきた場面にうまく対応し、均衡を破った。このセットを先取し、第2セットはタイブレークで落としたものの、6―4、6―7、6―1、7―6で3回戦進出を決めた。

 酷暑の中、3時間15分で乗り越えた一戦を、錦織が振り返った。「一番苦労したのは相手のスライス。自分の展開に持って行けなかった。練習コートとかより1番コートは芝が長くて、バウンドが違った。慣れるのに時間がかかりました」

 しかし、実はもっと苦しんだものがあった。1番コートに大量発生した羽アリの襲来だ。「びっくりしましたね。ラリー中にも2回ぐらい、虫が顔に当たってきた。試合後もバッグの中に10匹ぐらい入っていた。相手より苦労しました」

 記者会見のコメントの随所に報道陣の笑いを誘う要素を付け足してくる。こうしたサービス精神は、心のゆとりの表れ。全仏オープン序盤で漂わせた気難しさとは無縁の錦織がいる。(編集委員・稲垣康介)

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