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 先頃発表された芥川・直木賞では、受賞は逃したものの、通算4回目の候補となった宮内悠介さんが注目を集めた。直木→直木→芥川を経ての直木賞候補。純文学と大衆文学をそれぞれ対象とする両賞だが、彼我の差はときにあいまいになるようで、両賞の候補になった作家は意外と多い。それどころか、古くは同一作品が両賞の同時候補になった例もある。たとえば、第25回(1951年上期)の柴田錬三郎「デスマスク」。柴田は翌26回も直木賞候補となり、受賞する。

 現在、最後の同時候補例が北川荘平「水の壁」(58年上期)。水泳部監督の高校教師が五輪代表選考に翻弄(ほんろう)される話だが、昨今の選考過程に鑑みても古さを感じない。でも、この回は大江健三郎と山崎豊子、榛葉英治が受賞した。北川は後に3度直木賞候補となるが落選。晩年は大阪文学学校の講師を務め、後進育成に尽力した。2006年、75歳で死去。

 「水の壁」収録の同名単行本はとっくに絶版だが、組織のしがらみのなかで、にっちもさっちもいかなくなる個人の姿を描いた作品が並んでいる。講談社の文芸文庫あたりで復刊されないだろうか。

(生活文化部記者)

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