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 スキー・ジャンプの着地地点からスタート地点まで逆走で駆け上がる「世界で最も過酷な400メートル走」の第1回世界選手権が7月中旬、ドイツ・ティティゼー・ノイシュタットで開かれ、119人が出場した女子の部で、東海大札幌キャンパス4年の田中ゆかりが優勝した。飲料メーカー主催の「レッドブル400」と呼ばれる新競技。スキー距離が本職の21歳が、驚異の脚力で初代女王の座についた。

 ジャンプ台は最大斜度38度、高低差約140メートル。両手をついてはうようにしないと進めない急勾配で田中の勝ち方は圧倒的だった。

 予選を1位で通過すると、決勝も序盤から先頭に。「手を使って登るから、みんな手元しか見ていない。ならば、その狭い視界から消えてしまえば、(ライバルは追走を)あきらめるはず」。残り100メートルを切ったところで冷静にスパートを仕掛け、2位につけていたスロバキアの選手を置き去りにした。

 4分54秒2でゴール。出場したきっかけは、「オフのトレーニングのつもりだった」というのに、「余裕があった」。倒れ込むこともなくフィニッシュでは両手を広げた。大柄な欧米勢を一蹴した身長160センチの小さな日本人の快走に、周囲からは「君はスパイダーのようだ」と驚かれた。

 勝因について田中は「四つ足で進むリズムがスキー距離のストックワークで培われていたんだと思う」。

 岩手県の豪雪地帯、旧沢内村出身。スキー距離では中3で全国中学を制し、高校1年では総体2冠も果たした。ただ、そこから伸び悩み、殻を破れずにいる。

 一昨年はひざ、昨年は腰を痛めて夏場に満足な練習ができず、昨季はナショナルチームからも外れた。目指していた2018年平昌五輪は、気づけば現実的な目標ではなくなっていた。

 ただ、今回思いがけず手にした「世界一」の称号は刺激になった。表彰台の中央で君が代を聞きながら思ったのは、「やっぱり私、スキーでこの場所に立ちたい」。

 「最も過酷な400メートル走」の世界選手権への派遣が決まった5月の札幌大会では、日本スキー距離界のエース石田正子(JR北海道)も退けて勝った。心肺機能が世界レベルなのは明らかだ。だから、「スキーの滑らせ方をもう一度見つめ直さないとって。やるべきことがはっきり見えた気がしました」。

 「トレイルランニングに転向しないか?」との誘いも受けたが、「次はスキーで注目してもらいます。必ず、高くジャンプアップしますから」。改めて定めた照準は、22年の冬季北京五輪だ。(吉永岳央)