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 在職中にうつ病を発症し、2015年に自ら命を絶った北九州市の元嘱託職員(当時27)の両親が29日、うつ病は上司のパワハラなどが原因で公務災害(労災)にあたるとして、遺族への補償や160万円の損害賠償を市に求める訴訟を福岡地裁に起こした。

 亡くなったのは、市内の区役所で働いていた森下佳奈さん。12年4月に採用され、子ども・家庭問題の相談員をしていたが、約9カ月後に心身の不調を訴え休職。うつ病と診断され退職した後の15年5月、自ら命を絶った。

 両親は、生前の佳奈さんが上司の執拗(しつよう)な叱責(しっせき)などに悩み、新人には対処が難しい業務を任せられて十分なサポートも得られなかったと主張。市側に労災請求の手続きを尋ねたが、市側は「市の条例上、認定作業を担うのは市の指定部門で、職員本人や遺族には認定の請求権はない」と退けた。

 自治体職員が常勤の場合、法律に基づき、第三者機関の基金に労災認定を申し出られる全国一律の制度があるが、非常勤(現業部門などを除く)は各自治体の条例に委ねられている。

 両親側代理人の佃祐世(さちよ)弁護士らは、北九州市を含む多くの自治体が、約50年前に旧自治省が示した「ひな型」を参考にし、職員側からの請求規定を欠いた条例を運用していると指摘。同様のケースが各地で起きている可能性があるとし、裁判を通じ、常勤・非常勤の格差をなくす法整備などが急務だと訴える考えだ。

 北九州市は「訴状が届いていないのでコメントは差し控えたい」としている。

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 「娘は非常勤職員であったがゆえに、労災請求を受け付けてもらえなかった。非常勤の方が苦しむことのないよう、労災補償の制度を改善してください」

 提訴後、記者会見に臨んだ森下佳奈さんの母親、眞由美さん(55)はそう声を絞り出し、「娘も『自分の死を無駄にしないで。同じような人がいたら助けてあげて』と思っているような気がする」とつぶやいた。

 この日は佳奈さんの30回目の誕生日。佳奈さんの遺品だという眼鏡をかけ、「レンズを替えるとき、涙の跡があった。娘が『生きたかった』と訴えていると思った」と振り返った。

 佳奈さんは大学と大学院で心理学を学び、「障害のある子どもたちの力になりたい」と志して北九州市の嘱託職員になった。5年前の就職当初、「私は一生、この大好きな北九州に住むよ」と語っていた笑顔を今でも思い出すという。

 しかし数カ月たつと、離れて暮らす両親のもとに届くメールや電話は次第に苦しげな内容が増えた。業務の進め方をめぐって連日のように上司から叱責されたり問い詰められたりしたとし、「一日中おなかがキリキリ」「仕事行きたくない。泣きそう」「もう動けん」などと訴えていた。

 一方で佳奈さんは「つらいけど逃げない。相談者のために一生懸命頑張るよ」とも話し、両親は心配しつつも見守った。だが、その後うつ病と診断された。

 眞由美さんは「もっと早く娘を休ませていれば。後悔してもしきれない。娘のような犠牲者が二度と出ないよう願います」。

 一方、北九州市は朝日新聞の取材に、上司のパワハラなどを否定している。

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http://www.asahi.com/apital/medicalnews/focus/(阪本輝昭)