軽のベストセラーN―BOXは、現代のリトル・ホンダか

北林慎也
[PR]

 ホンダのベストセラー軽乗用車「N―BOX(エヌボックス)」が今月、全面改良された。失敗が許されない、屋台骨を支えるロングセラーの2代目。その出来栄えと人気の理由を試乗で探った。

 N―BOXは、2011年に投入された高い車高の軽ハイトワゴン。小型車譲りの質感の高い内外装や乗り味が支持され、久しくダイハツ工業とスズキの牙城(がじょう)だった軽自動車市場の一角に食い込むヒット作となった。17年上半期には10万6231台を売り上げ、モデル末期にもかかわらず国内新車販売で首位となった。

 新型は大きな路線変更を避け、四角張ったスタイリングや存在感のあるヘッドライトなど旧型を踏襲。外観の変化は細部のブラッシュアップにとどまる。先代のオーナー以外は一見しただけでは見分けがつかないかもしれない。ホンダのデザイン担当責任者は米アップルiPhoneを引き合いに「使う人や生活のシーンを限定しないニュートラルなデザイン」と意図を明かす。上下分割デザインのインパネは、仏プジョーのようにメーターパネルをステアリング上部に置くことで、開放感を演出した。助手席のスライド量を最長57センチと大きく取り、子育て世代に使い勝手の良さをアピールする。旧型のロングライフの間に他社に比べて後れを取っていた予防安全性能も、最新の自動ブレーキ機能や誤発進防止機能の採用で一気に進化させた。

ドライバー思いの姿勢

 乗ってみると、細かい改良の積み重ねで、先代のネガティブな要素を徹底的に潰した印象。プラットフォームの刷新による剛性向上と約80キロ減という軽量化の恩恵は大きく、ハンドリングと乗り心地の向上は走り出してすぐに体感できる。車線をはみ出ない範囲で意地悪に車体を左右に振っても、さすがにロールは大きいものの揺れは穏やかに抑えられ、怖さはさほど感じない。軽には珍しく、前後サスペンションともにスタビライザーを備えたのが効いている。また、ステアリングコラムを太くしてハンドリングのずっしり感を増すことで、直進時の安定性を高めた。運転席の足もとにフットレストが備わるなど、ドライバー思いの姿勢にも好感が持てる。さらに、高回転まで回さずとも必要十分に加速するエンジンとCVT(無段変速機)のチューニングや、燃料タンクの薄型化による低床フロアの実現と頭上高の確保など、小型ジェット機から耕運機までを擁する総合メーカーらしい、地味ながら高度な技術の集積を実感した。ただ、0.6リッターの自然吸気エンジンにとって1トン近い車重はやはり荷が重い。ペースを上げてストレスなく走りたい人には、ターボ付きを強く勧めたい。

オラついた感じがない

 狭くて小さい軽規格ギリギリに、ありったけのテクノロジーとノウハウを押し込んでムダを切り詰めた、生活密着型の移動手段でしかないはずの軽ハイトワゴン。それなのに、開放感たっぷりな室内空間とカラフルなカラーバリエーションのせいか、どこか明るくて不思議なワクワク感があるのが極めてホンダらしい。多くの制約の中で開発競争にしのぎを削る過酷なマーケットを制したクルマの割には、肩の力が抜けた軽やかな空気感が印象に残った。

 2代目N―BOXのキャッチコピーは「日本で暮らす人の、豊かな生活のために。」。だが、こんな陽気なクルマを日本国内で独り占めするのはもったいない。米カリフォルニアあたりで売り出せば、小さくて経済的だが貧乏臭くない、コンパクトでエコな乗り物として、かつてのスーパーカブや初代シビックのように絶大に支持されると思う。大昔にVWビートルやワーゲンバスを愛用していたフラワームーブメント世代も、いまや高齢者。居住性と取り回しに配慮したバリアフリーな設計は、彼らにこそ歓迎されるかもしれない。国内市場はもう急拡大は見込めず、米国などとの貿易自由化交渉の帰結次第では、日本独自の軽規格がどうなるかも見通せない。思い切ってこのまま北米市場に投入すれば、21世紀の「リトル・ホンダ」になりうるのではないだろうか。(北林慎也)