拡大する写真・図版 「サバー送り」のわら人形。だいぶ傷んでいるが、馬や人の顔はとどめている=9月8日、山口県下関市豊北町の二見地区、山田菜の花撮影

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 ある朝、目覚めたら、家の前に朽ちかけたわらの大きな人形が置かれている。でも、気持ち悪いと捨てることなかれ。山口県長門市から下関市北部の海まで約50キロの間を順送りして、豊作を祈る農耕行事なのだ。ただ最近は、この行事自体を知らない人が多く、海までたどり着かないこともある。さて、今年は。

 道路脇に、長さ2メートル弱の竹とわらでできた、馬にまたがる武者が2体。武者は紙に描かれた顔とかぶとがついている。下関市豊北(ほうほく)町の二見地区で9月上旬、記者が見つけた。

 調べてみると、イネにつく害虫を追い払う農耕儀礼「サバー送り」の人形だという。サバーとは、イネの害虫ウンカの地域での呼び名。2体は「サバーサマ」という神さまと、お供の「サネモリサマ」。イネの株につまずいて討ち死にした平家の武将・斎藤別当実盛(さねもり)にちなむそうだ。

 長門市の集落の人らが作り、例年、田植えが終わった7月に飯山八幡宮を出発。各集落が子ども会や自治会の行事として、害虫や災いを人形に押しつけて順送りする。市境を越えて、約50キロ離れた下関市豊浦町宇賀地区の海に流す。虫送り行事は各地にあるが、文化庁伝統文化課は「これほど広範囲は珍しい」。

 長年追跡調査をしてきた下関市立豊北歴史民俗資料館の吉留徹館長によると、少なくとも江戸時代末期にはあった。吉留さんの調査では、このところ風習を知らない人が急増していて、ここ10年で人形が終着点までたどり着き、海に流されたのは半分ほど。何度も道ばたで朽ちたほか、2005年には「不法投棄だ」と通報があり、清掃組合が回収したという話もある。

 長門市では地域の行事として定着しているが、下関市内に入ると、①夜に人知れず動かす②長く置いておくと不幸が起きるが、早く動かすとその家に幸せが訪れる――といった言い伝えが加わる。人形を運んだことなどを口外したら呪われるとの伝承もあるため、行事の存在そのものが伝わりにくいのだという。

 それに輪をかけて、地域の高齢…

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