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 働きながら妊娠生活を送る「ワーキング妊婦」。記者(32)自身も妊娠8カ月に入ったが、これまで何度も心が折れそうになった。妊娠中ならではの様々なトラブルを抱えながら働くつらさ、知りませんでした。

 私を最も悩ませたのは、つわりだ。人によって、つわりの症状は様々。空腹で気持ち悪くなる人や、眠気が止まらなくなる人。私の場合は、妊娠発覚後すぐに吐き気がやってた。取材中にも吐き気、原稿を書いていても吐き気……。頭の中は、いつ吐き気に襲われるかという恐怖が渦巻き、仕事に集中できない。

 通勤途中には、1駅ごとに降りてトイレに駆け込むことも。おかげで、通勤ルートにあるトイレの場所を覚えてしまった。自宅でもしょっちゅう叫び声をあげながら吐いていたため、夫はさぞかし不安だったと思う。涙や鼻水を流しながら吐く私の背中を夫は優しくさすってくれ、それが何よりの支えだった。

 通勤の際に、満員電車でもまれることもしょっちゅうある。まだ腹部のふくらみがほとんどなく、見た目には妊婦とはわからない妊娠初期が特に電車に乗るのがつらかった。体を押され、立ちっぱなしでいると、息切れがしてくる。妊娠時には、血液量が通常の約1・5倍に増えるため、心臓が余計に働く必要があり、動悸(どうき)や息切れになりやすいという。

 カバンにつけていたマタニティーマークに気づいたのだろうか。つり革をつかみ、ふらふらしている時に、席を譲ってもらえると、本当にありがたかった。譲ってくれた方には、まるで後光が差すかのような神々しさを感じた。

 妊娠初期の頃に迷ったのは、どの段階で妊娠していることを周囲に伝えるかだった。当時の私は事件担当で朝早くから夜遅くまで働き、赤ちゃんが無事に育つか不安な日々。他の病気の治療もあったため、報告してから流産してしまったら、なんて説明しよう。そんな不安から、打ち明けるタイミングを決めかねていた。

 新聞社では、泊まり込みで業務にあたる「宿直勤務」があるため、上司には早めに報告することにした。職場の理解も得られ、宿直勤務を外れて、体調不良の際には別の記者が記者会見に出席してくれるなど、勤務をかなり配慮してもらいながら働くことになった。しかし、流産の不安から、取材相手にはなかなか妊娠を報告できなかった。友人たちには、既に出産をしている人たちも多いが、中には長く不妊治療を続けている人もいる。そうした友人たちにはどのように伝えたらいいのか、正解はわからないままだ。

 最も苦悩したのは、体調管理と仕事をいかに両立させるかだった。ひどい吐き気や頭痛が襲う日は、立ち上がるだけでも一苦労。しかし、先方がせっかく都合をつけてくれた取材をキャンセルはしたくない。ふらふらになりながら取材をした日もあった。

 体はどんどん重くなり、少し歩いただけでも動悸(どうき)や息切れがくる。パソコンに向かっても、集中して原稿を書くことができない。いつもできたことが、妊娠してからは同じようににできない。「求められている仕事のパフォーマンスを発揮できているのか」。そんな悩みがずっとついて回った。「できません」とも言えなかった。初めての妊娠でどこからが「無理」なのかわからないうえ、妊娠を理由に仕事ができない自分を認めたくなかったのだと思う。

 自分では、体は妊婦になっていく一方で、頭の中は追いついていなかった。それでも、周りから「今、赤ちゃんを元気に育てられるのはお母さんしかいないんだから体調を優先して」と声をかけてもらい、どれほど救われたことか。

 妊娠が順調に進むうちに、悩みは変化していった。妊娠4カ月を過ぎたあたりから、おなかがふくらみ、これまで着ていた仕事着が着られなくなった。ファストファッションの店で、大きなサイズのワンピースを大量に購入。妊娠前は毎日履いていたヒールの靴は靴箱の奥に追いやった。

 妊娠5カ月ごろには、睡眠不足との闘いが始まった。平熱が35度台だった私の体は、妊娠してからは37度台の体温になることがよくあった。体が熱を持ち、汗がダラダラ流れて止まらない。疲れているはずなのに、ベッドに入っても眠れない。隣でいびきをかきながら眠る夫を横目に、目はらんらんとしてくる。環境を変えようと、ベッドとソファを往復しているうちに朝を迎えることが何度もあった。不毛な徹夜から仕事へ行くと、集中できずに効率が悪くなるという悪循環に陥った。

 自身も子育てをしながら産婦人科医を務める愛育病院副院長の安達知子さんに、妊婦の体の変化を聞いた。

 「ほとんどの妊婦さんにつわり症状が現れ、程度には個人差がある」と話す。つわりの原因は不明だが、妊娠をすると様々なホルモンが分泌され、消化器を中心に症状として現れるという。ひどい場合には、点滴や入院が必要になる。

 精神的にはどのような影響があるのか。「妊娠中には集中力が散漫になり、不安定になることがあるが、妊婦とはそういうもの」と安達さん。赤ちゃんや陣痛への心配、妊娠前と異なり食事や行動が制限されることなどから、不安定になりやすいという。

 「妊娠は新しい生命を育み送り出す大仕事。ペースを落とすのは当然のこと」という安達さんの話を聞いて、モヤモヤした気持ちが晴れたような気持ちになった。「妊婦さんは、妊娠前とは心身の状態が違うと理解し、周囲に伝えて欲しい。職場の人は、それを伝えやすい雰囲気づくりをするのが大事」とアドバイスしてくれた。

 恥ずかしながら、自分が妊娠するまで、妊婦さんがこんなに大変な思いをしているとは知らなかった。思いをはせることもしていなかった。私の周りでも、どんな体調なのか、どんな勤務の配慮をしたらいいのか、わからないことが多々あったと思う。

 心身がしんどい時はできるだけ口にするつもりでいたが、今振り返ると「妊娠を理由に仕事を断りたくない」というこだわりから、素直に打ち明けられてこなかったと思う。まわりの妊婦さんも、様々な不安や体調不良を抱えながら妊娠生活を送っているかも。ご自身、もしくは周りの人の妊娠について、みなさんは、どんな体験をされてきましたか。(文・阿部朋美、イラスト・前川明子)