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 前回、私たちの足元の地中や、海底下数キロメートルの深さの場所でも細菌が生きていると話しました。では空のほうではどうなのでしょうか?

 人類が空に飛び出したのは1903年、アメリカのライト兄弟がエンジンつき飛行機で飛んだのが最初です。実は、それより前の1891年に日本人の二宮忠八という人がゴム動力の模型飛行機を飛ばしていたのですが、人が乗る本格的な飛行機の開発許可が軍から下りなかったとか……。

 さて、ライト兄弟が最初に飛んだのは地上数メートルの高さですが、その後の航空機技術の発展は目覚ましく、高度や速度が高まり、載せられる荷物の重さも増えていきます。ライト兄弟の初飛行からわずか24年後の1927年には、リンドバーグが大西洋横断に成功し、一躍世界のヒーローになります。

 30年代に入ると、地上からどれくらいの高さまで生命が存在するかを確かめる調査が行われるようになります。現代では人類はほかの星の生命を探っているのですが、100年前は空が新たな挑戦と探求の場でした。今の宇宙飛行士が宇宙空間で様々な実験をしているように、リンドバーグ夫妻もグリーンランド、大西洋、カナダ上空の高度数百メートルで空気を採集し、微生物の研究に協力しています。

 35年に米国の科学誌に掲載されたリンドバーグらの論文には、検体を採取した飛行区間や高度、場所を飛行中に記録した肉筆のメモの写真が掲載され、検体中のカビの胞子、花粉、細菌らしきものも詳しいスケッチつきで紹介されています。

 余話になりますが、リンドバーグは医学分野でも傑出した業績を残しています。12年にノーベル医学生理学賞を受賞したアレクシス・カレルと共同研究を行い、心臓移植の研究のために摘出したネコの心臓を生かしておく還流ポンプの設計、製作を行いました。このポンプは先の空中の生命の論文と同じ35年に、米国の一流の科学誌や医学系の学術誌に掲載されました。

 空中の微生物に話を戻すと、その後、旧ソビエトの科学アカデミーの気球による研究で、高度約70キロメートルの高さにもカビや細菌がいることが確認されています。ちなみに皆さんが乗るジェット機が飛ぶのは高度10キロメートルほどのところです。

 また、中国から黄砂に乗ってくる細菌もあります。納豆菌です。

 金沢大学では、高度3千メートルで採取した納豆菌で作った納豆を「そらなっとう」として商品化し、2012年7月10日(納豆の日)から販売を開始しました。石川県内のスーパーや学校給食、さらにはJAL機内食に採用され評判は上々だとか。細菌に負けず、人もしたたかですね。

 

<アピタル:弘前大学企画・今こそ知りたい! 感染症の予防と治療>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/hirosaki/(弘前大学大学院医学研究科臨床検査医学講座教授 萱場広之)