【動画】国際福祉機器展では、介護予防用の最新機器が並んだ=高橋雄大撮影
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 認知症や介護が必要な状態にならないように、高齢者の生活の場にロボットやIT(情報技術)を活用する取り組みが進んでいます。介護の担い手が不足する中で、健康寿命を延ばす「介護予防」の切り札になるのでしょうか。

 千葉県佐倉市の介護付き有料老人ホーム「佐倉ゆうゆうの里」で暮らす榎本広子さん(84)には日課がある。毎日午前と午後の2回、テレビに取り付けられた専用スピーカーの呼びかけで始まる。

 「準備はできたかな? 『はい』か『いいえ』で答えてね」

 「はい」と答えると、トレーニング開始。ある日のメニューは、右手で指折り10まで数え、左手ではグーパーを繰り返した。計算などの脳トレもあり、全体で15分ほど。操作は声だけでできる。

 「毎日、テレビから呼びかけられるから、やろうかな、という気になる。毎日やることが認知症の予防などにつながるのかなと思う」

 このホームでは6月から、AI(人工知能)を活用した介護予防システムを導入している。日本生命保険の子会社のニッセイ情報テクノロジーが開発した。特徴はAIが個人の健康状態を把握する点だ。

 毎回、トレーニングと併せて、「昨日の夕食は何を食べたか覚えていますか?」といった問診を行う。テレビにはカメラも取り付けられ、本人の表情を分析して数値化する。こうしたデータをもとにAIが各自に最適なプログラムを組み、インターネット経由で提供。加えて、認知症の予兆や身体の不調を早い段階で察知できるという。

 佐倉ゆうゆうの里の八木好子さんは「認知症は早期発見で防げることも分かってきたので、予兆を早く見つけることが重要。人の力だけでは限界があり、こうしたシステムは長期的な視点で有効だと思う」と期待する。

 ニッセイ情報テクノロジーはさらに改良を重ね、2018年度中の正式販売を目指す。最初は介護施設向けだが、一般の家庭でも使えるようにする予定だ。

ロボットで言語トレーニングも

 ロボット技術やITを活用した介護予防用の機器は、各メーカーも開発を進めている。9月27日から3日間、東京都江東区で開かれた「国際福祉機器展」では、最新の機器が並んだ。

 パナソニックの「デジタルミラー」は、鏡とディスプレーが一体となっている。例えば、マラカスのような操作機器を使って画面に現れたシャボン玉を潰していくトレーニングは、ゲーム感覚で取り組める。鏡に映る自分の姿を確認しながら、運動機能を維持向上できる仕掛けだ。

 体の状態を測定し、各自に合わせたメニューを簡単に作ることもできる。リハビリ前と後の体の変化も測定し、管理できるため、介護スタッフの負担も抑えられる。

 NECソリューションイノベータが9月に販売を始めたロボット「パペロ」は、言語トレーニングを支援する。

 「あ行のトレーニングです。復唱してください。『あした』『うぐいす』……」

 こんな呼びかけに応じて発声することで、のどの筋肉の衰えを防ぐ。

 体の機能が回復しても会話がうまくできないと引きこもりがちになり、再び体の機能が低下するという悪循環を引き起こす。一方、言語トレーニングを担う人材は不足している。そこでパペロが代わりを担う。まずは介護施設向けだが、同社には一般の家庭からの問い合わせも多く、今後対応していきたいという。

 富士ソフトのコミュニケーションロボット「パルロ」は、すでに全国で1千カ所以上の福祉施設が導入した。

 パルロは「パルロ、レクやって」と話しかけると、日替わりの体操やゲームなどのメニューを提供する。介護スタッフが1人で体操指導中に体調がおかしい参加者がいると、活動を中止せざるを得ない。そこでパルロに体操指導をさせていれば、介護スタッフが不調な参加者に対応できる。開発に関わる富士ソフトの高羽(たかは)俊行さんは「介護現場はとても忙しい。パルロの導入で施設の雰囲気が明るくなったという声を多くいただく」と話している。

市場規模は拡大の見込み

 調査会社の富士経済によると、介護・福祉関連の機器や用具、用品の国内市場は15年の3622億円から25年には4494億円に大幅に拡大することが予想されている。特にITやロボット分野の成長が見込まれるという。

 富士経済の西脇弘倫(ひろみち)さんは「特に高齢者の見守りや病気・不調の予兆察知、介護者の負担軽減や高齢者とのコミュニケーションの道具として、ITやロボットの活用が期待されている」と分析する。

 ITやロボットの活用は介護現場では黎明(れいめい)期だが、西脇さんは「AIやIT、ロボット技術に強い業界やベンチャー企業なども参入し、積極的な技術開発が進んでいる。介護施設での導入が進み、成果が得られれば家庭にも広がっていくだろう」とみている。

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