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 朝日新聞デジタルや紙面でのアンケートには、土地やマンション、相続などに関するさまざまな悩みが寄せられた一方で、問題解決に向けた多様な提言やアイデアもいただきました。最終回では、わが街の「負動産化」を防ごうとがんばっている各地の取り組みや読者からのアイデア、街づくりに詳しい識者の提言を紹介します。

危ない空き家 なくそう 隣を買い取り・解体担い譲り受け

 「負動産化」をくい止めようと、各地で始まっている取り組みを取材しました。

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 空き家率が19・8%と、埼玉県内の市町村では最も高い毛呂山町では、住民や地元不動産業者らが空き家の解消に取り組んでいます。

 同町の東武越生線・武州長瀬駅周辺は1960年代に開発が進み、住民が急増しました。東京・池袋駅まで約1時間。団地内の道路は狭く、区画も70平方メートル程度と郊外にしては広いとはいえません。住民の高齢化とともに空き家が増えました。駅近くで一人暮らしをする主婦(77)は「空き家は庭木や雑草が伸び放題で手入れをしないため、ゴキブリなどの害虫の巣になります」と困り顔です。

 そんな団地で、宅地の「ニコイチ化」が静かに進んでいます。空き家の土地を隣の家が買い取り、「2戸分」を「1戸」にすることで敷地を広くする取り組みです。

 夫と2人で暮らす主婦(65)は2012年、南隣の区画を買い、建て増しをして駐車場も確保しました。「夫は反対でしたが、誰かが買うと、何かが建つかもしれません。南側なのでお日様を買うつもりで私が買いました」と満足げです。

 その隣家は長く空き家のまま放置され、10年ほど前には不審火で火事になったことも。所有者とは長く連絡がとれませんでしたが、地元の不動産会社・丸善住宅販売が所有者から土地を買い取り、ようやく主婦の手にわたりました。同社の遠藤潤社長は「売りたいという話があったら最初に周囲に声をかけます。狭いので地元以外には売れず、値段も安いのでもうかりません。地元業者でないとやらない仕事です」と話しています。

 建築学科などが埼玉県川越市にある東洋大の野澤千絵教授の研究室が昨年、武州長瀬周辺の約1200区画を調べたところ、約16%にあたる189区画が隣接地と統合されており、国土交通省の17年版「土地白書」でも紹介されました。

 街づくりを手伝っている東洋大のプロジェクトチームは「空き家『提案』バンク」も提唱しています。空き家の登録制度は多くの自治体にありますが、野澤教授は「登録するだけでは不動産業者のホームページと変わりません。具体的な活用法の提案と、そのための費用がわかるとイメージがわきやすく、物件が動く可能性がある」と言います。

 井上健次町長も「空き家率ワーストだが、ピンチはチャンス。だから東洋大も来てくれるし、地元の業者も手伝ってくれる」と話しています。

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 北海道室蘭市では、特に危険な空き家を近隣住民に解体してもらい、更地になった土地を無償で譲る取り組みを今年度から始めました。解体費は譲り受ける人が負担しますが、9割までは市が助成します(上限は150万円)。無償で土地を手放す所有者への説得も市が担います。住環境の安全確保が目的のため、新たな所有者は取得から10年間は宅地や営利目的の駐車場などとして使えないルールです。

 市建築指導課の末尾正さんは「新たな所有者にも、現在の所有者にも負担が伴うが、双方にメリットがある」と言います。

 市内の高台に住む斉藤哲明(のりあき)さん(61)はこの制度を使い、長年放置された隣の空き家を解体する予定です。以前には、隣家の壁が崩れ、斉藤さん宅の壁も壊れる被害を受けたこともありました。市の調査で所有者は判明したものの、体調を崩し、解体を頼める状態ではありませんでした。

 市の助成を差し引いて、隣家の解体や不動産登記にかかる斉藤さんの負担は約30万円と見込まれます。それでも「日々の危険から解放される」と斉藤さんは言います。譲り受けたら畑にするつもりだそうです。

 市はほかにも、相続放棄された空き家2件もこの制度で更地にすることを検討しています。市内には、倒壊の危険などがあり、行政指導ができる「特定空き家」が90件あり、条件に合うものには適用していく方針です。国土交通省は「全国でも珍しい取り組み。自治体ごとに工夫して空き家対策を進めてほしい」(住宅総合整備課)と話しています。

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 長野県上田市の別荘地「信州丸子高原グリーンヒル」は15年前、100区画以上が売れ残ったまま東京の開発業者が倒産。別荘地全体が管理不全になる危機に直面しました。

 そこで定住者が中心となって自主管理組合をつくり、そのメンバーの1人で、埼玉県から移住した多湖勲さん(71)が11年前、別荘の販売・管理をする会社を設立。売れ残りの113区画すべてを買い取りました。もとは高校教師ですが独学で宅地建物取引士の資格を取り、残った区画の販売を始めました。上下水道が完備されていること、雪が少なく過ごしやすいことなどをアピールし、これまでに85区画を売りました。所有者から徴収する管理費は従来の3分の1ほどに引き下げ、草刈りや除雪、テニスコートの整備まで手がけています。多湖さんは「別荘地の管理ができていることが重要。若い世代の移住や、所有者の子にきちんと引き継いでもらうことが次の課題です」と話しています。(松浦新、大津智義 大津智義)

必要な人につなげる場を

 売りたくても買い手がつかない「負動産」を最後は誰が引き取るべきですか?というアンケートに寄せられた提案やアイデアの一部を紹介します。

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●「相続人がいない、または相続しない不動産は、積極的に自治体が取得し、地域づくりに利用すべきだと考えます」(香川県・60代男性)

●「私の友人は北海道の実家を隣の家に無償で買ってもらいました。自分で持っていたら、税金もかかるし、何かあったら責任も取らなければいけないので、隣が引き継いでくれるのが一番と言っていました」(海外・50代女性)

●「国がやるべきことは、負動産にならないうちに活用を促すこと。新築の住宅取得減税はやめ、当人が住むための中古住宅の取得や中古賃貸の家賃に対して税の控除をする。今後、高齢の一人暮らしが増えるので、賃貸の保証人問題を解決するための互助組合ができるといいと思う」(東京都・40代女性)

●「住みたい広い賃貸物件がない。空き家をもう少しうまく活用できる方法があればいいのにと思う」(長野県・40代女性)

●「尚早な行政の介入よりも、市場原理での取引の活性化が重要です。使わない、収益化を見込めない土地は、所有者は捨て値でも手放すのが一番です。全国の空き地をデータベース化して価格を公表し、一般の方がいつでも誰もがネットから閲覧し購入できるようにすべきです」(福岡県・30代男性)

●「郊外の住宅地などは、原野を開発して宅地にしたのですから、不要になったら原野に戻せばいいと思います。建物を取り壊し、樹木を植えて、山林に戻します」(東京都・50代女性)

●「共同住宅の負動産は管理組合の所有とする。戸建て不動産は抵当権がついている場合、税金で処理したのち競売にかけ、売れたら赤字国債の返済に充てる。競売が不調の場合、隣家が希望したら無償で譲渡して、固定資産税は徴収する。希望しない場合は、購入希望者が現れるまで自治体が所有」(埼玉県・50代男性)

●「空き家を活用しないのはもったいないと感じています。介護の仕事をしていますが、特養やサービス付き住宅に転居を促し、さらに空き家を増やしています。NPOや市民団体に無償提供し、管理を任せる代わりに、自由に多世代の居場所や住み家として活用してもらってはどうでしょうか」(東京都・40代男性)

●「使える人にとっては負動産とは限らないと思います。そういう不動産を欲しいと思っても、探す場所がありません。処分する人と欲しい人をつなげる場を税金を使ってでも国や自治体は設けるべきです」(神奈川県・40代男性)

●「建物の建っていない土地の所有放棄については、国が引き取るしかないでしょう。アパートをはじめとした住宅建築の規制も必要でしょう」(群馬県・40代男性)

●「地域復興や人口を増やす施策が必要。移民受け入れも検討した方がいい」(東京都・40代男性)

「つくる」から「使う」政策に 東洋大学教授 野澤千絵さん

 大都市郊外や地方都市では、無秩序に宅地が郊外に広がる「焼き畑農業」のような住宅開発が今も続いています。業者は住宅建設でもうけたい、地権者は土地を活用したい、自治体は人口を増やして固定資産税を得たい、という構図です。

 人口減が本格化するこれからは、都市を拡大・拡散させればゴミ収集などの公的サービスだけでなく、宅配便などの民間サービスの提供も非効率になり、コスト増となります。同じことは都市部のタワーマンションの建設ラッシュにもあてはまります。急激な人口増で後追い的にインフラや公共施設の増設を続けると、これらの維持管理費が永続的に必要になります。現世代が次世代に多大な負担を残すことになるのです。

 私が提案するのは、こうした「つくる」ための規制緩和や補助金、税制などの優遇措置を縮小し、これまで整備してきた居住地を再生・更新して「使う」ことに政策誘導すべきだということです。日本の住環境を、よりゆとりある空間に再編していくという視点が大事になります。

 たとえば、空き家になった隣地と統合してより広い住宅へと建て替えたり、古いマンションは上層階を「減築」して耐震性を高めながら長寿命化したりするなどの取り組みが挙げられます。次世代に負担を残さずバトンタッチする取り組みにこそ、減税や補助金といった政策資源を使うべきです。

 今はほとんど受け付けられない自治体への土地の寄付も、考え方次第だと思います。郊外で災害の危険性があって開発を抑えたいエリアの空き家は、自費での解体を要件に自治体に寄付できる仕組みがあれば、非効率にまちが広がることを防ぐ対策にもつながるからです。

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 シリーズ「負動産時代」や朝日新聞デジタルのアンケートに寄せられた、読者の不動産に関する悩みは深刻なものばかりでした。人口減少に伴う「土地余り」が背景にあり、もはや個人の悩みでは片付けられなくなっている問題だと感じました。どこでも地価が上がることを前提とした土地制度や税制を抜本的に見直す時期に来ていると思います。(大津智義 大津智義)

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ご意見はasahi_forum@asahi.comメールするか、ファクス03・5541・8259、〒104・8011(所在地不要)朝日新聞オピニオン編集部「負動産」係へ。