若者の政治への関心高めるには 高校の授業で考える

吉沢龍彦
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 「18歳選挙権」の導入とともに、これまで何度か主権者教育について考えてきました。10月に行われた衆院選で18、19歳の投票率は昨年の参院選と比べても低調でした。若い人たちの政治への関心を高めるには何が必要なのか。高校の授業を通して改めて考えます。

今か未来か割れる判断

 神奈川県立平塚農業高校初声(はっせ)分校は、三浦半島の田園地帯にある1学年1クラスの高校です。社会科を教える金子幹夫教諭は、衆院選が行われていた10月18日、1年生と2年生に同じ内容の授業をしました。

 狙いは、これから有権者になる生徒たちに「時間」を意識してもらうこと。架空の生徒会選挙を設定し、2人の会長候補の政策を比べて投票してもらいました。

 候補者Aの提案はこうです。「私は学生食堂をつくるよう学校に働きかけます。空き教室を活用し、今年度中に開業できる見通しです」

 これに対し、候補者Bは「校内に無線でインターネットに接続できるWi-Fi(ワイファイ)を設置します」と訴えました。ただし「大規模工事が必要で、使えるのは今の1年生が3年生になった時」です。

 「迷うな、これは」「ぜったいWi-Fiだって」。1年のクラスでも2年のクラスでも、投票はにぎやかに進みました。

 結果には違いが出ました。1年生は「2年後にWi-Fi」のB候補が15票、「今年度中に学食」のA候補が11票で、B候補が勝利。一方、2年生ではB候補が8票、A候補は13票。ほかに無効票が8票ありましたが、A候補が勝利しました。

 1年生のクラスで、金子教諭が言いました。「実は昨年の3年生でも同じ投票をしたんです。結果はどうだったでしょう。想像できますか」

 ある生徒が「(3年生には)2年後は意味なーい」と応じました。もう卒業してしまっているからです。開票結果もA候補が20票、B候補が2票と大差がついたことが明かされました。

 ここで金子教諭は、日本の人口ピラミッドを示しました。少子高齢化が進んで、若年層が少なく中高年層が多くなっています。「本当の選挙でも、残された人生の時間が長い人と短い人、つまり若者と高齢者では違う政策を支持するかもしれませんね」と話しました。

 授業はここで終わりではありませんでした。「でも、3年生の中にも2年後のWi-Fiを選んだ人が2人いたんです。これはどういうことでしょう」「大きな視点で、未来のことを考えている人もいるということではないでしょうか」

 金子教諭は1年生に言いました。「2年後、同じ授業をします。みなさんの考えがどう変わるかが楽しみです」

 昨年この授業を受けた3年生には「若い世代が選挙にいかないとだめ」「だまっていたら得にならない」などと話していた生徒が多かったそうです。今年、衆院選の一票につながったはずだと金子教諭は思っています。

高齢者重視の背景は

 千葉県立津田沼高校(同県習志野市)の杉田孝之教諭は1年生の「現代社会」の授業で、「なぜ若者は投票に行かないのか」「行かないとどうなるのか」を、経済学の基本的な考え方から読み解きました。

 着目したのは「機会費用」です。投票に行く時間に代わりにできることを考え、どちらが得かを比べます。より得なことがあれば、投票に行くのは損、つまり「機会費用が高い」となります。

 若い世代は仕事や勉強に忙しく、レジャーなどやりたいこともたくさんあり、投票以外のことを選びがちだと考えられます。ですが、そのようにして選挙に参加しないとどうなるでしょう。

 杉田教諭は、もう一つのキーワード「希少性」を取り上げました。これは、人々の要求を十分に満たすだけの財やサービスが不足している状態を指します。政治がすべての要求を満たすのは難しい。だから、多くの票を得たい政治家は、投票率が高い層、高齢者向けの政策ばかりを選択する可能性がある――。杉田教諭はそう話し、「これはシルバーデモクラシー、老年民主主義と呼ばれています」と解説しました。

選挙プラン、練ってみた

 とっつきにくい政治の問題と若者をつなぐ活動をしている大学生の団体「POTETO(ポテト)」は、あちこちの高校に出向いて、出前授業をしています。衆院選公示日だった10月10日には、東京都板橋区の都立高島高校で3年生に授業をしました。

 授業はロールプレイング形式で進みました。衆院選のある候補者を勝たせるため、選挙プランナーになって作戦を練ります。「日本中で高速Wi-Fiがただで使えるようにする」「65歳以上は公共料金を半額にする」など四つの公約のうち、どれがどの年代に受けるかを考え、どの程度強調するかを決めます。

 その際、カギになるのが年代別の有権者数と投票率、発信方法です。あらかじめ配られた表に従って、生徒たちは期待できる得票数を計算しますが、若者向けの公約に偏ると、なかなか当選ラインに近づきません。有権者数が少なく投票率も低いからです。

 17歳の男子生徒は「幅広い視点で政策を考える必要がある。選挙がどれだけ大切か実感しました」。18歳の女子生徒は「今度はもっと勉強してから投票したい」と話しました。

 ポテト代表の大学4年生古井康介さん(22)は「自分が高校に入る時に授業料が無償化され、大学では奨学金を受けました。政治は自分たちの人生に密接にかかわっています。政治の可能性を信じ、みんなが参加していくようにしたいと思って活動しています」と話します。

「若者のためネット投票を」

 授業後、生徒たちがアンケートに記した意見の一部を紹介します。

●「ニュースを見ても(授業の)資料を見ても、高齢者を優先しすぎているように感じた。高齢者が若者よりも多いので、多数決的な方法で国の政治の方針を決めるのは良くないのではないか」(16歳女子)

●「高齢者の方が投票に行く割合が高いので、自然と候補者も高齢者向けの政策を出す。それによって若い人が投票に行かなくなるので悪循環になると思った」(16歳男子)

●「若者でも投票しやすい環境や制度をつくっていくことが大切で、よりよい日本をつくるための最善の策だと考える。そのためにインターネット投票。障がい者ら、選挙に行きにくい人にも有効」(15歳男子)

●「もっと期日前投票を活用して『当日行けないから、行かない』という考えをなくした方がよい。参加料(供託金)は減らし、より多くの人が立候補できるようにした方がよい」(16歳男子)

●「投票時間を長くする。マンションのロビーやスーパーに投票箱を設置する。投票所を24時間営業にする」(16歳男子)

●「若者が投票に行かない理由の一つに政党が明確な政策を提示しておらず、どの候補者がどんな信念を持っているかが分からないことが挙げられる。それは政党に責任があると思う」(16歳女子)

●「選挙をするのにどうしてたくさんのお金がかかるのか。参加できる人が限られてしまうから、その分政策の案が減ってしまう」(16歳女子)

●「候補者を選択するには、政策の内容を知る必要があるから、候補者がもっとわかりやすく説明するべきだ。今回の突然の解散は、政治家どうしで話し合いが行われないのに起きたからよく分からなかった」(16歳女子)

●「もっと自分の党の政策を話すべきだ。でないと党と党での信頼の下げあいになる。互いの悪い点しか聞かなくなると、『これでいいや』と、自分から見てましとしか思えない政党を選ぶことになる」(16歳男子)

●「どうして行政の長である総理大臣が立法の要である議会の解散権を持っているのか。三権分立で立法、行政、司法は互いに干渉しないようにしているはずなのに、どうしてこれは許されるのか、今回の選挙で疑問に思った」(16歳男子)

●「若い世代がきちんと選挙に行って意思表示をしなければならないなと思った。18歳になったら、未来のためにもできるだけ選挙に行きたい」(16歳男子)

●「会議中に寝ている人がいたり、暴言を吐いたり、借金がものすごいあったり、不安だらけ。少子高齢化の影響もあるが、若者の投票率が低すぎる。先生の言う通り『投票に行かないより、行くべき』である。私は有権者になったら、必ず投票に行く」(16歳女子)

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 今回取材した授業はいずれも「シルバーデモクラシー」に着目していました。政治に若年層を意識させるには、若年層が投票に行くことが必要だという指摘はもっともです。杉田教諭は「まずはすべての世代が選挙を通じて政治に参加すること。そしてみんなで『割り勘』の相談をしようということです」と話します。投票参加が必要なのは世代間でパイを奪い合うためではなく、分け合うためだと理解しました。今後も主権者教育の試みを注視していきます。(吉沢龍彦)

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