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 福井県で日本人初の9秒台が生まれたのは必然だったのではないか。本当にそう思うほど、福井陸上競技協会の人は熱かった。

 「ずっと言ってたんですよ。スタジアムを満杯にして、9秒台が出て、夜のニュース番組で『福井で出た』って連呼されて、翌朝の新聞では1面に福井の競技場で9秒台が出たって載る。そうなるんだよって、言い続けていましたよ」

 関係者の中でも、大会誘致の段階から尽力した木原靖之専務理事(53)だけが、桐生選手の9秒台を予言し続けていたそうだ。「人口が少ない(約78万人)福井県でも、やればできるんだと見せたかった。大きなイベントも成功させられる。県民に自信を与えたかった」

 桐生選手が9秒台を出した日の朝。木原専務理事は5時にスタジアムに到着した。そこで、写真判定の担当者に、「もし、9秒台が出たら、確定の発表まで少しためよう。ちょっとした演出も必要やろ」と冗談半分で言っていたそうだ。

 すると、本番で出た速報値は9秒99。通常は写真判定を2人で確認するが、この時は「間違えたら大変な騒ぎになる」と4人で確認した。だから、自然と確認作業に時間がかかった。タイムは9秒98で確定した。「まさか本当に出るとは思っていなかったからね」と木原専務理事。大予言者になり、歴史の目撃者にもなった。

 この記録で、福井運動公園陸上競技場は一躍、有名になった。わざわざ観光客が立ち寄ることもあるし、「普段は中に入れますか」という問い合わせも事務所にあるという。木原専務理事は「想像以上の効果」と喜ぶ。こんな熱い思いがあれば、きっと、来年に迫った福井国体の陸上競技も大盛況になるだろう。(大西史恭