【動画】「必要なのは合格することで満点を取ることじゃない」と語る東大野球部監督の浜田一志さん=高橋雄大撮影

 今年の東京六大学野球で、東京大学が同じ対戦相手に2勝し15年ぶりの勝ち点を挙げました。監督を務めるのは浜田一志さん(53)。野球の指導をしながら学習塾も経営している浜田さんに、勝利への道筋や受験について聞きました。

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 勝ち点を挙げることができた要因は、チーム一丸となったことです。(日本ハムからドラフト指名されて入団した)宮台康平投手に頼りっきりのチームではなく、打つほうも打った。最後、勝ち点獲得を決めた試合は8―7でした。

 東大らしさといえば、「頭脳プレー」というイメージが強いと思います。でも実際のプレーは、力と力の勝負なのです。へたくそな分、パワーでカバーしようということで体づくりから取り組みました。

 対戦相手の分析はしますよ。ただ、相手投手がストレートを投げてくるだろうなと予想したときにそのストレートを芯でとらえられなかったら意味がありません。

 練習の優先順位は、1番が食事、2番がランニング、3番が筋トレ、4番が守備、5番が打撃。つまり、食事も練習の一環だと意識づけました。これは、つまらない順です。ほっておくとさぼる順番。食事もたくさん食べて栄養を取ろうとしたら苦しいのです。ランニングもしんどい。バッティングは楽しくて自主的にやるので、全体練習で優先順位を上げる必要がありません。

ひょっとして、と思わせるのが大事

 各打者が「自分はこの球なら打てる」という球を一つ持つようにしました。それ以外が来たらごめんなさい、そこは捨てていいよということで特化したのです。

 お互いが100%の力を出し合ったら、たぶん100連敗します。だけど相手も緊張します。相手の力が出し切れていないときにこちらが力を十分に出すのが勝つ条件です。そのためには力強く振る。

 そうすれば、ちょっと間違えたらやられるなと相手が思います。人間は「ミスしたらだめだ」と思うときにミスするのです。気楽に向こうがプレーしたらうちは一つも勝てません。ひょっとして、と思わせることが大事です。

 部員を集めるために全国の高校を回ってスカウト活動もしています。僕が1回訪問したからその生徒が東大に受かるなんて、そんな神様みたいなことはありません。でも地道に浸透すれば、東京大学も選択肢の一つになっていきます。実力はあるのに東大は雲の上の存在だと勝手に決めつけている高校生が多いのです。現在の部員約60人のうち、20人くらいは高校時代に声をかけて会ったことがある子です。

 部員獲得につなげようと、夏には高校3年生と浪人生を対象にした2週間の合宿勉強会も開いています。昼は予備校に通い、夜は野球部員がボランティアで家庭教師のように教えます。

国語の偏差値は38だった

 私は高校3年生の夏、全国模試で国語の偏差値が38でした。英語も偏差値40台。でも、数学は60くらいあったんですよ。じゃあ、数学で勝負しようと勉強を特化しました。苦手なものは足を引っ張らない程度にやろうと。

 何か一つ武器になるものがあると、不思議なもので、苦手なこともたまにはやってみようかとなるのです。勉強が苦手だという人は「何から手をつけていいから分からない」とよく言います。自分の核になるものを見つけて、磨いて。まずはそこからだと思いますね。

 サラリーマンを6年やり、そのあと学習塾を開業しました。最初は東大卒のもの珍しさもあって生徒が来たのですが、2年目からうまくいかなくなりました。そこで、教える手順を変えて工夫しました。本当は本質を教えたいのだけど、まずは自転車に乗れるようにしましょうと。なぜ自転車が動くのかは後で教えようと思ったのですね。

 教え方をそのスタイルに変えたら成績が上がるようになりました。解き方をパターン化して教えると、できるようになります。解けるようになったら、後で理屈を教えても聞く耳を持つようになるのです。

 大学生までは、自分とはどういう存在なのかを見つける期間です。それを見つけるためにはいろんなことにチャレンジしないといけない。幅広い目を持たないといけない。いいものを見ないといけない。だから、みんないい大学に行きたいのです。これが受験だと思います。東大にはいいお手本がいっぱいいます。

緊張しても、得意な科目でしっかり稼ぐ

 受験で合格に必要なものは何か。満点を取ることじゃないですよ。ちゃんと戦略を立てて、得意な科目でしっかり稼いで合格してください。入試の過去問を見たときにこれはできないと思って悩んでしまいますが、そうではありません。入試では緊張した場面でも点が取れるところでしっかり取る。これが大事なことです。

 センター試験が終わったあとは、2次試験まで残り時間が少ない。その間に苦手なものは急には改善しません。だから、緊張した場面で得意な科目で点を稼ぐという勉強をして、自信をもって望んだほうがいいと思います。これは勇気がいりますよ。

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はまだ・かずし 高知県出身。土佐高校時代は甲子園を目指して野球漬けの生活を送る。東大理IIに現役合格し、野球部では主将を務める。新日鉄に6年間勤務した後、独立して学習塾を経営。2012年から東大野球部監督。(聞き手・柴田真宏