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 観光やビジネスで日本を訪れる外国人客が増え続けている。2017年は、初めて年間2500万人を突破した。日本を訪れた外国人客への「おもてなし」の中でも、高級ホテルのリムジンは、まず内側を目にすることがない存在だ。一体どんな車が訪日客を出迎えているのだろうか。年の瀬の観光シーズンを前に、試乗させてもらった。

 記者が訪れたのは、香港が本拠の外資系ホテル「ザ・ペニンシュラ東京」(東京都千代田区)。宿泊客の7割以上が、アジアや欧米からの訪日客という。

 宿泊料金は6万3千円から。「マンダリン オリエンタル」「ザ・リッツ・カールトン」と並んで、都内の最高級ホテルの「新々御三家」とも呼ばれる存在だ。

 正面玄関前で待っていると、全長約6メートルの巨大な車が現れた。ホテルの内装などと同じ、独特な深緑色に塗装されている。

 この独自仕様の「ロールス・ロイス・ファントム・エクステンデット・ホイールベース」、価格は約8000万円。まさにマンション並みのお値段で、成田空港からホテルまでの送迎代金も片道6万8千円と高額だ。

 さすがに「観光客の利用は少なく、国際企業の経営陣などの利用が大半を占めます」(広報担当者)という。それでも毎月15件ほどの利用があると言うのだから、世界は広い。

 乗ってみると、レザーの後部座席は楽に足が広げられるほど広々、床には羊毛のフロアマットが。窓にかかるカーテンは運転席から操作できる電動式だ。

 ただ、もっとも驚かされたのは「1本約10万円の傘」だった。

 後部座席のドアに穴が開いていて、刀をサヤから引き抜くように専用の高級傘が瞬時に取り出せる。薄曇りの天気の中、ホテルスタッフの手にいつのまにか傘が現れ、まるで手品のようだった。タイヤもパンクしても走れる特殊構造のもの。重厚な車体には、実はトラブルや悪天候から乗員を守る機能が備わっていた。

 また「分刻みのスケジュールで働くエグゼクティブの方に、車内でゆっくりしていただきたいという想いがある」(広報担当者)と言う通り、運転には独特の注意が払われていた。

 走り始めて驚いた。

 ドライバーの運転方法が、ハンドルの上の方、いわゆる「10時10分」の位置に両手を置いて、腕を交差させずに回す「送りハンドル」なのだ。腕の動きが制限されて急ハンドルが切りにくいため、自動車教習所などで避けるよう注意された人も多いはずだ。

 何かメリットがあるのだろうか。車両管理の担当者、岩崎広親さん(41)は「訓練されたドライバーですと動きが優雅に見えるという良さがあるのに加え、そもそも送りハンドルで曲がれないほどスピードを出さない、急ハンドルを必要としない運転が徹底できます。お客様に、確実に優雅な時間を過ごしていただくための工夫です」と話す。

 日本人気の高まりにともない、観光客が求めるものにも変化が見られるという。岩崎さんは小回りが利く「MINIクーパーS クラブマン」を運転し、都内での宿泊客の買い物に付き添うことも。「ネットなどに日本の情報が充実してきたためか、初めて耳にするような多彩な要望をいただくようになっています」と話す。

 例えば「料理器具の『鬼おろし』はどこで買えるの?」と尋ねられ、一緒に探したこともあると言う。

 「うろ覚えだけど、日本で昔住んでいた場所を見たい」という依頼に、断片的に覚えていた住所や風景などからその街を見つけ出せた経験も。「まるで探偵のようでした」と岩崎さんは振り返った。

 内側を目にする機会が少ない高級リムジン。その存在感は強烈だが、あくまで「おもてなし」の一部。後部座席に身を委ねるVIPにふさわしいサービスを提供する姿勢の重要さも、かいま見た試乗だった。(信原一貴)