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 街中に突如現れる路面電車の外観で親しまれてきた長崎市東古川町のレストラン「きっちんせいじ」が、30日で51年間の歴史にいったん幕を下ろす。「味が落ちないうちに、常連さんから惜しまれている間に」と、店主が閉店を決めた。

 きっちんせいじは、安達征治さん(74)が1966年に新大工町で開店。79年に眼鏡橋近くの東古川町の現在の場所に移った。82年の長崎大水害では大きな被害を受けた。すぐそばを流れる中島川から濁流が流れ込み、「大人の男の背丈まで水につかった」という。

 大水害から2年後に、傷んだ店を改築。「観光地だし、どうせ建て替えるのだから目立つほうがいい」と考え、水害にあってスクラップ寸前だった長崎電気軌道の路面電車の部品を譲り受けた。街を元気にしたいとの思いもあった。「道路を歩いていると電車が出てくるでしょう。観光客が、びっくりしてました」と安達さんは振り返る。

 店内は運転席や行き先表示板、つり革、いすなどで路面電車が再現されている。愛好家でつくる「長崎路面電車の会」の月例会の会場にもなった。路面電車の写真や、鉄道模型も飾られている。ガイドブックには観光名所として取り上げられるようになった。

 お店のイチオシは、なんと言ってもトルコライス。40年ほど前に「新しい目玉を」と試行錯誤して研究してメニューに加えた。ドライカレーとスパゲティに、大ぶりのトンカツが乗る。「おいしい物を寄せ集めた、何でもありの大人のお子様ランチ」(安達さん)だ。

 半世紀以上フライパンを握り続けてきた安達さん。「気力がなくなった。完全燃焼した」と、まだ元気なうちに店を閉めることにした。閉店を知った常連客が押し寄せ、「長いことご苦労様」「青春の味だった」と安達さんに声をかける。

 安達さんは「私も間もなく後期高齢者。惜しまれるうちが華(はな)かな。ありがたいことです」。ほとんど休まずに、ともに店を切り盛りしてきた妻の妙子さん(69)も「2人で走り続けてやりきった。感無量です。あとはお父さんと電車で旅行でもしたい」と話す。

 「路面電車の店」はどうなるのか。安達さんのいとこで、プラント機器などを扱う長崎市の商社で社長を務める安達賢一郎さん(67)が、会社で引き受けることにした。きっちんせいじがあるのは、一族の創業の地とも言える場所。賢一郎さんは「51年間頑張って、のれんを作ってくれた。これはブランドで、みすみす無くすのは忍びない」。時期は未定だが、リニューアルオープンさせる予定だという。「あの味も電車も、あの場所に根付いた大事なもの。地域の顔として残していきたい」(山野健太郎)

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