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 シリーズ「小さないのち」の連載「育ちを支えて」(11月掲載)では、精神疾患のある母親が娘と無理心中を図ったとみられる事件や、養子に迎えた息子たちの問題行動に苦しんだ夫婦の体験、血のつながらない親子の「出自」をめぐる葛藤を描きました。すべての子どもを社会全体で守り育んでいくために何が必要なのかを改めて考えます。

 

命をゆだねる選択肢も

 連載に寄せられた読者の声の一部を紹介します。

    

●精神疾患、周囲のサポートを

 私には精神疾患があります。長女を出産後、体調を崩して入院し、夫は離婚も考えたことがあると言います。精神疾患を持ちながら出産すると再発のリスクがあり、産後のケアは重要です。私の場合は夫が協力的だったので2児の子育てをここまでやってくることができました。記事にあった事件も、もう少し周囲のサポートがあれば違っていたのかなと思います。(東京都 30代女性)

    

●新しい家族、ともに成長したい

 私たち夫婦は今、特別養子を迎えて新しい家族を築き始めています。軽い発達障害を疑われていたこともあり、乳児院などからは「ほかの子と比べず、この子の成長を見守ってほしい」と託されました。実際、この子をありのまま受け入れようと心を砕く日々の中で、家族のつながりが生み出されていると実感しています。これからの成長の過程で、自分の出自を考え、悩む時がくるはずです。その時、真正面から受け止めて一緒に考えてあげられるよう、私たちも成長していきたいと願っています。(北海道 40代男性)

    

●養親になりたくても

 養親になりたくても、その土台にすら上がれない人がいます。私の周りにも結婚して子どもがいない人がいますが、子どもがいらないわけではありません。養子縁組をしたくても、仕事をしているとなかなか休めません。独身でも子どもを育てたい人はいます。子育てにはそれなりの環境が必要ですが、声にならない思いを持っている人もいます。社会全体の問題として環境を整え、一人でも多くの子どもが家庭で幸せに過ごせるようになればと思います。(愛知県 40代女性)

    

●命をつないでくれたことに感謝

 日本でも、匿名で赤ちゃんを預けられる環境がもっと整うべきだと思います。授かった人は産む。育てきれない人は人に託す。育てられる人は、しっかり育てる。中絶以外の選択肢をもっと社会に広めるべきです。私は養子として育ちました。今日まで平凡な幸せに包まれて過ごし、出自を知ろうとも思わずに過ごしてきました。ただただ、命を切らず、つないでくれたことに感謝しています。人に助けを求めて子どもの命をゆだねることは罪ではありません。その命は、多くの人を幸せにする可能性を秘めていることを忘れないでほしいです。(兵庫県 50代女性)

 

自分の生い立ちは… 告知早すぎたのか… それぞれに悩み

 里親や養親に育てられたり、施設で育ったりした人が、自分の出自で悩むことは少なくありません。育ての親の多くも、いつどうやって真実を告知するかで悩んでいます。

 幼い頃から施設で育ち、今は里親支援を行う民間団体で働く福岡市の中村みどりさん(34)も出自について悩む一人でした。両親が離婚し、大阪府の児童養護施設などで育ちました。夏休みなどには父親のもとに帰省していましたが、施設に預けられた理由や生い立ちについて聞けぬまま、中村さんが小学5年のときに父親は病気で亡くなりました。施設の職員にも聞くことはできませんでした。

 転機は大学生の時。「本籍地」とされていた宮崎県に、友人らと初めて出かけました。現地で父親の戸籍を手に入れ、家族関係も判明しました。故郷を離れて関西に働きに出た父の苦労を思い、「それまで嫌いでしかなかった父を、一人の人間として感じられた」と言います。同時に、父の子である自分の存在を前向きにとらえられるようになったとも。「親の名前を知ることだけが出自を知ることではない。なぜ親が育てられなかったかなど、自分なりに納得し、整理することが生きる希望につながります」

 20代後半になり、生い立ちのことをもっと調べようと思ったところ、その自治体では児童相談所の記録の保管期間(満25歳まで)を過ぎていて、かないませんでした。「大人になってからでも情報を得られるよう、記録を長期保管すべきです」と中村さんは指摘します。

 関西に住む女性(63)からは、養子に迎えた娘への「告知」のことで苦しんだ経験が寄せられました。

 女性は女の子を3歳直前に乳児院から引き取り、特別養子縁組をしました。養親になるための研修で「告知は早いうちに」と言われていたため、娘が5歳の時に、生みの母が別にいることなどを伝えました。その後も娘から「私を産んだ人はどうして育てられなかったんだろう」などと聞かれるたび、可能な限り隠すことなく話してきました。

 思春期になると娘の様子が変わりました。夜遊びや家出も繰り返すようになり、「お前なんか産んでもいないくせに」などと罵声を浴びせられることも。家出した娘を引き取りに行った際、警察官から「養子なんですね。それはかわいそう」と言われたこともあったといいます。「養子はひとつの家族のあり方」と女性は思ってきましたが、周囲はそうは見てくれませんでした。

 女性は「告知したことで、娘に『ほかの親子とは違う』と意識させてしまったのではないか」と振り返ります。養子縁組したことに後悔はないものの、自分で受け止められる20歳ごろに告知した方が良かったのではないかと今は思うといいます。

 女性が願うのは、養子縁組を特別なこととみない社会です。「多様性を認める社会であれば、本人も特別なことだと思う必要がないのです」

 高校を中退した娘はいま、自立を目指して離れて暮らしています。「今までごめんなさい」という手紙をくれるようになったそうです。

 

4軒隣接「育親」支え合う

〈福岡・SOS子どもの村〉

 国際NGOが世界135の国と地域で運営する「SOS子どもの村」は、里親を孤立させないよう、支え合いながら子育てをしています。国内では福岡市と仙台市にあり、福岡の「村」を取材しました。

 

 「村」は企業や個人からの寄付を元手に2010年に開設されました。隣接した4軒の家に、里親の認定を受けた4組の「育親(いくおや)」と12人の子どもたちが暮らし、主に寄付金で運営されています。中心の「センターハウス」には村長やソーシャルワーカーが常駐。洗濯や買い物など、育親の日常業務をサポートするスタッフもいます。育親には原則週1日の「休養日」もあります。

 育親の一人、田原正則さん(38)は2~4歳の3人を育てています。子どもたちは洗面所を水浸しにしたり、ご飯を投げたりした時期もあるといいます。「試し行動」と呼ばれ、虐待などを受けていた子が安心できる環境に移ったとき、育ての親の愛情を確かめるために取ることが多い行動です。こうした行動に悩む里親は少なくありませんが、里親仲間や専門的な助言者が近くにいれば、悩みを抱え込むことがありません。

 田原さんも、里親仲間との対話や、医師らも加わる会議での助言などがあることで安心して養育に取り組めるといいます。休養日についても「離れる時間があることで一息つける」と前向きにとらえます。

 坂本雅子常務理事は「厳しい環境から来た子の養育は、『愛情さえあればできる』というものではない。里親が燃え尽きないよう、チームで育てることを意識している」と話します。ここで経験を積んだ後、「村」から独立し、自宅で里親を続けている人もいます。田原さんは「里親も里子も、もっと普通のことになっていけば」と願っています。(山本奈朱香)

 

里親研修、受け入れ後にも

〈長野大教授・児童精神科医の上鹿渡和宏さん〉

 日本では親元で暮らせない子どもの多くが施設に入っており、里親家庭などで暮らす子は2割もいません。海外の先進国では割合が逆転していて、英国では約7割が里親家庭で暮らし、乳幼児に限れば施設で暮らす子はほとんどいません。

 厚生労働省の有識者検討会は8月、原則、7年以内に就学前の子の75%以上が里親家庭で暮らせるように、との目標を掲げました。今後、里親をどう増やすか、また、養育の質をどう高めるかが課題です。

 「官」の発想ではなかったことですが、バスに広告を出したり、チラシをスーパーに置いたりすることで、まずは里親に関心を持つ人を増やすことが必要です。

 ただ、親元で暮らせない子どもの中には虐待を受けていた子や、障害のある子もいます。子育て経験のある里親であっても、愛着形成が難しいケースなど未経験な困難に突き当たります。里親と一緒に子どもをみて、いつでも相談に乗ってくれるようなチームを組んで里親を支えなければ養育は難しいと思います。乳児院等の施設がこのような役割を担えるように変わっていくことも重要です。

 また、里親に認定される前の研修だけでなく、子どもを受け入れた後に子どもとの関係改善や里親としてのスキルを高められる研修も必要です。2016年から、英国生まれの里親向けプログラム(フォスタリングチェンジ)を国内に導入しました。3カ月間、毎週里親が集まり、効果的な褒め方などについて学ぶものです。参加した里親から「自分も子どもも変わり、関係が良くなった」と聞きました。

 チームで里親を支えつつ、里親自身のスキルを高める研修も提供することで、「普通の人」も里親になれると考えています。

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〈記者のひとこと〉

 困難な状況にある子どもの命を救い、守るための取材を続ける中で、その子たちが大人になって「生まれてきてよかった」と思えた時が本当のゴールだと感じました。生みの親や里親・養親への支援、出自をめぐる権利の保障、子どもを社会で養育することへの理解の促進など、私たちがすべきことはまだまだあります。(塩入彩)

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